LASTArk 14
どこからか木々が倒れたりする音や、燃えるような匂いがする。
その音が聞こえる度にエルは体を震わせていた。
エルがいるのはいつものあの場所だ。
いつも外を見ているガラスの貼られていない窓から1番離れた場所に置かれたソファの上で、膝を抱えて座っている。
今は外も見たくなかった。
外ではそれぞれ戦闘が繰り広げられているのだろう。
メンバーが自分のために必死に戦っているというのに誰とも会いたくなかった。
―俺を殺すつもりなら、そんなのじゃ殺せねぇぞ―
エルはぎゅっと目をつぶった。
またどこかで木が倒れる音がした。
あの時の言葉が頭の中で痛いほどに響く。
とうとうあそこまで自分は追い詰められてしまっていた。
本気でないにしろ、それ紛いの行動を起こしてしまったのだ。こんなにも簡単にミッシェルの言いなりになってしまうなんて。
目の前に突き出された刃の冷たさが今でも手に取るようにわかる。
弱くどうしようもない自分の情けなさが一気に押し寄せてて潰されそうになった。
おかしくなってしまいそうだ。
いや、自分はもうおかしくなってしまったのだ。
エルは頭の中で今までのことを振り返った。
ここでめそめそと泣いているくらいなら他に起こすべき行動をするべきではなかったのか。
考えれば無理にでも逃げ出す術はあったかもしれないのに。
ミッシェルの呪縛から逃れようともっともがいていれば……そもそも、あの時あんなことを言わなければ……。
エルはそこまで考えて頭を振った。
こんなことを考えても意味が無い。たらればを思ったって、今は今。
こう選択してしまった自分のせいであり、刃を突きつけられてしまったのも自分のせいだ。
息が詰まりそうになる。
本当に戻ってもいいのだろうか。
これを考えては行けないとエルはわかっているのに、どうしても思考から振り払うことができなかった。
戻れてもおかしくなった自分の居場所はあるのかと思った時どきりと、心臓が大きく脈打った。
体がこれ以上考えるなと警告しているみたいだ。だが、エルの思考は次から次へと流れていき止まりそうになかった。
そして、思考はひとつの答えを見出してしまった。
(………あそこには戻れない。)
それは見つけてはいけない答えだった。
それを見つけた瞬間、エルの若葉色の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ち始めた。
涙を止めようとしても、エルにはどうしようもなかった。
もうこのまま、ここに留まるしかないのか。
そう考えて、抱えた膝に顔を埋めようとした時。
自体は目まぐるしく変わった。
突然今までの倒木の音などとは比にならないほどの、耳をつんざくような轟音が轟いた。
大きな音が、エルや建物をビリビリと揺らす。
「!!?」
あまりにもの出来事にエルは埋めかけていた顔をあげて、思わず窓の方を振り返った。
まだ、耳の奥であの音が響いている。
一体何が起こったのだろうか。
エルは窓に近づこうかどうか躊躇った。
窓の外は見たくない。だが、あの異常な音はなんなのだろうか。何が起こったか確認した方がいいのではないのか。
エルはソファの上でたじろいた。どうするべきなのか。
状況を把握した方がいいのか、自分の感情に従うかがグルグルと頭の中で駆け巡りせめぎ合っている。
エルはううーっと、声にならない声を出して頭を抱えた。
そう自分の中でぐだぐだとしていると、さらに、事は急激に加速する。
またも突然、今度は窓から何かが勢いよく転がり込んできたのだ。
またのあまりにもの事にエルは一瞬何が起こったのか、その転がり込んできたものがその辺の家具をぶち倒しながら、壁にドンと鈍い音を立てて激突するまで理解できなかった。
もくもくと一気にホコリが沸き立ち、ぱらりと壁の塗料が剥がれ床に落ちた。
エルは巻あがったホコリでむせかえりそうになった。
エルの思考は完全に停止し、ソファの上で固まって動けなかった。
「………いってて…………もう、なんだよこれ………。」
その飛び込んできたものが声を発した。
そのときようやくエルの思考は再び動き始めた。
それは、ゆっくりと体を起こした。
舞い上がったホコリがゆっくりとおさまっていく。
転がり込んできたものの姿が目に飛び込んだ。
その聞きなれた声と、その姿にエルは酷く驚かされた。
「こっ…………コエ!!?」
エルは久しぶりの大声を上げた。
「!!?エル!?こんなとこにいたの!?」
そう言うとコエは喉にホコリが入ったのか少し咳き込んだ。
「な、なんで窓から!?ここ三階なんだけど!?」
エルは久しぶりのコエに対して浮かび上がってくる様々な感情よりも先にそのことを口にしてしまった。
三階の窓にどうやったら人が突っ込んでくるのだろうか。
エルには検討もつかない。
「よかった!すぐに見つけられて!……あ、今ので怪我とかしてない?」
コエはすぐさまエルの元に駆け寄ってきて怪我がないかを確認する。
「いや、コエこそ大丈夫なの!?すっごい音したけど!?」
エルはコエが飛び込んできた時のあの大きな衝撃音を思い出した。
「ん?ああ………一応なんとも……ない………」
コエは顔をしかめた。随分と不満そうだった。
「しっかし、無茶苦茶なこと考えるよな………みんな。俺の事なんだと思ってんのさ……。」
コエは愚痴を漏らしながら事の経緯を話した。
アジトの場所は少し前から把握していたが、結界張られていることが分かったのでそれを攻略すべく策を練っていたらしい。
結界はなかなかの強度を誇るもので、そう簡単に壊れそうなものではない。それはエルも理解していた。
ラストアークのメンバーは片っ端から結界のことを調べていき、一週間近くかけて突破方法を見出した。
調べていってわかったことだが、ここに張られている結界は受けた攻撃を跳ね返すタイプのものらしい。このタイプの結界は耐久面に優れていて壊すことは難しいようだ。
だが、驚くほど大きく成長した大木も、どんなに頑丈な建物だっていずれは朽ちて消えていく。
この建物だって立てられた時はさぞかし立派であっただろうが、今は見る陰もなくボロボロになっている。
物事に「絶対」などありえない。
それを動力としてメンバーは身を粉にして魔導書身を読み漁った。
そのとき見つけたのが、このタイプの結界の基本構造だった。
跳ね返すというタイプの結界は結果内に入り込もうとしたエネルギーを感知した瞬間に発動してそれを跳ね返す。
これはその種のどの結界にもいえることである。
だが、「物事に絶対はない」ようにこの結界も常にその力が働いている訳では無い。
これを言い換えれば、エネルギーを感知するまでの極僅かな時間は空白なのだ。
これが基本ならばあの結界もそうであるはず。
それを胸に抱いて、作戦が作られそれが今日試行された。
作戦はこうだ。
その僅かな空白の時間にありったけのエネルギーをぶつける。
その予想される必要なエネルギー量も何度も確認した。あの結界は確実に壊せる。
メンバーはそれを胸に刻み込みこの作戦に挑んだ。
結果を言えば大成功だ。
あの時の激しい轟音は結界が崩壊した音だった。
だが、この作戦はそのぶんリスクも高かった。
この作戦を成功させるために必要なエネルギー量を計算したところかなり膨大なものとなったのだ。
たとえ魔力の強い地で皆の魔力が強化されていたとしてもこの値に似合うだけの魔力を作り出すのはそう簡単なことではない。
結界を破れたとしても、魔力不足で動けなくなったら意味が無い。
結論は結界を破ったらなるべく短時間でエルを奪還する。
そこで使われたのが、誰か1人を敵拠点に突っ込ませて即座にエルを連れてくるというものだったが、堂々と前から突っ込ませるのはさすがにリスクが高すぎるので敵の虚をつく必要があった。
1階は近づくまでにどんなトラップがあるか分からないので突っ込むなら2階か三階のという話になったのだが、普通なら不可能だろう。
だが、身体強化魔法で誰かをそこの窓に投げ入れることが理論上可能になるらしい。
それでその時に残った魔力で身体を強化した時に十分な飛距離と狙いを定めやすい重さと体型を出したところ…………1番近いのがコエだったということだった。
そういうわけで、コエは身体強化で腕力が格段に上がったスバルによって、見事に三階の窓から中へ投げ入れられたというわけであった。
ちなみに着地の時のことは誰も考えていなかった。
あまりにも無茶苦茶な作戦にエルの口は半開きになっていた。
コエはそんなエルなどお構い無しに彼女の手を掴んだ。
「さあ、早く行こう……敵が来る前に早くここを出なくちゃ。」
その声に反応するかのようにエルは取られた手を振り払った。
「………行けない……。」
エルの声が静かに響く。
「………え?……どうして……?」
コエが驚いてこちらを見ている。
エルの顔は悲しみに満ちていた。
「………行けないよ。私…………おかしくなっちゃったんだ……。」
エルの声はどんどん小さくなっていく。エルは俯いた。
「戻りたいのに………それなのに…戻っちゃダメって思っちゃうの…………。……おかしくなった私の居場所は無いかもしれないって……。あんな酷いことしちゃった私は戻っても前みたいに元には戻れないって。」
震える声でエルはそう言うとその両目からぽろぽろと涙が零ぼして、肩を揺らして泣き始めた。
これがエルの心の声だった。
エルの嗚咽が部屋に反響する。
ふと、エルの肩に何かが触れる感覚が伝わる。
顔を上げると、エルの肩に手を置いて真っ直ぐとこちらを見つめるコエの姿が目に飛び込んできた。
青と紫の色のちぐはぐの色の瞳はひどく澄んでいるように見えた。
「それでも、俺達はエルが戻ってくること。望んでいる。少なくとも俺はそうだよ。」
コエの口調は偽りのない、しっかりとしたものだった。
「俺はエルがいないのは嫌だ。エルがいないとダメなんだ。エルは大事な仲間なんだ…………エルが変わってしまっても俺たちにとってエルはエルなんだよ。」
コエの顔に笑みが現れる。
エルはそれを見た瞬間に自分の中の迷いが音を立てて崩れて言った。
自分を必要としている人がいる。待ってくれている人がいる。
エルの中に暖かいものが湧き上がった。
「………私も、みんながいないとやだ……!!」
エルは涙をゴシゴシと吹いて、コエを真っ直ぐと見つめ返した。
「エル、ここから逃げよう。」
コエが立ち上がった。
エルも強く頷いて、ソファから立ち上がる。
2人は勢いよく部屋を飛び出した。
「三階はさすがに飛び降りれないから、2階まで走るよ!」
「うん!」
2人は廊下を走っていく。
「おや、どこからかお客さんが迷い込んだようですね。」
どこかで声がした。
2人の目の前の空気が急に歪んだかと思えば、突然2人の人物が姿を表した。
「エルさんを連れていこうとする悪い子はあなたでしたか。」
ミッシェルはにっこりと微笑んだ。
エルの表情が微かに歪む。
「お前は………エルを連れていった…。」
「そう、私がミッシェルですよ。」
2人はそのミッシェルの隣にいる小さな少年に目を写した。
頭には可愛らしい狐の耳と、フサフサとした尻尾がついている。
「ミッシェル、どうすればいい?」
カルミラがミッシェルを見る。
「うーん……エルさんは傷つけないように、あなたは………コエさんでしたっけ……。」
ミッシェルが尋ねるもコエは答えなかった。
「……どっちでもいいですかね、エルさんを優先してください。あ、でも捕まえればヒノワさんが喜ぶな…。」
「とりあえずチビを優先すればいいんだな。」
エルはチビと言われて少しムッとしたが、それはすぐに引っ込んでしまった。
コエはエルの手が微かに震えているのがわかった。
「エル………大丈夫だからね……。」
ミッシェルとカルミラを睨みつけたままコエはエルに声をかけた。
エルは答えるかのようにコエの手を握った。
突然カルミラから何か黒い影か2つ飛び出した。
それは黒い狐だった。勢いよくこちらに突っ込んでくる。
それをコエはエルを抱かえて避けた。
この戦闘はコエたちにとっては不利だ。エルはミッシェルに完全に支配されてしまっているので戦えないだろう。
この状況を打開するためには逃げることに徹するしかない。
逃げるというのは響きが悪いが、目的を果たすためには必要なことだ。仕方ない。
避けた先で体制を直そうとした時、コエは後ろから何かの気配を感じた。
振り向くと、2本の刀がこちらに向かって吸い込まれるように直進してきていた。
「わっ!!」
コエは慌ててそれを避け、1本はナイフではじき飛ばした。
日本刀はカルミラの元に戻っていき、むくむくと形を変えさっきの狐に戻った。
「うむ、見た目に反して結構動けるようだな……。」
カルミラがじっとこちらを見た。
コエも静かにカルミラを睨み返した。
後ろのミッシェルもこちらを見ている。
カルミラの戦法は少し把握したが、ミッシェルは何をされるか分からない。
彼の目には読めない何かが宿っている。
長期戦は避けるべきだ。この間にでも何かをしているかもしれない。
コエはエルを抱き抱えたままくるりと踵を返して、さっき来た道を引き返した。
「あっ!待て!」
どうやら意外だったようで、2人が追いかけてくる。
コエは考えた。ここから一刻も早く脱出する方法を見つけなければならない。
階段はミッシェルたちがいる方向だ。彼らを飛び越えて階段をかけ下りるという芸当はコエにはできない。
窓から飛び降りるもここは3階である。下に落ち葉などが積もっていればまだ飛び降りることも考えたが、あいにく硬い地面があるだけだ。
足を折ってしまう可能性がある。
エルを連れて逃げるという時に足を痛めてしまうのはどうしても避けたかった。
どうにかしてなにかクッションとなる所に着地できないものか。
と、コエはここまで考えてあることを思い出した。
だが、これは正直ひとつ間違えば大きな事態に繋がりかねない。
エルもいるのにこれを試すべきなのか……。
「エル………。」
コエは抱えているエルに声をかけた。
「何?」
「……俺にしっかりしがみついてて。絶対手を離すなよ……。」
「え?」
エルは突然のことに何を言われているのか理解できなかった。
そして、コエは階段のある方とは反対側の廊下の1番端にたどり着いた。
「おや、行き止まりのようだけど?」
カルミラが余裕そうに笑った。
もちろん、それはわかりきったことだ。
コエも笑い返したがその顔に余裕はない。
「油断は出来ませんよ。行き止まりなのはわかり切ったことでしょう。」
コエはミッシェルの見透かされたような答えにドキッとした。
心臓が大きく脈打つ。もしかしたらこの作戦もバレているかもしれない。
エルの手に力が入るのがわかった。
さっきコエに言われたことを守って離れまいとしっかりとしがみついている。
バレててもやるしかない。自分が頼りなくなってはどうしようもない。
コエの目は真っ直ぐカルミラとミッシェルを見ていた。
「さあ、お前はどこまで僕を楽しませてくれるんだ?」
カルミラが合図すると狐が2匹こちらに迫ってくる。
それと同時に、コエはポケットから何かを取り出した。
「ん?あれは……?」
ミッシェルがそれに気づいた。
コエの手にはキラキラと光る正八面体のガラス細工が握られていた。
エルはそれがとても綺麗に見えた。
コエは容赦なくそれを地面に叩きつけた。
ガラス細工は簡単にパリンと大を立てて粉々に砕けた。
割れたガラス細工から目が眩むほどの閃光が溢れた。
その光はなお強くなる。
エルは思わず目をつぶった。
「エル!手離しちゃダメだよ!!」
コエの声が聞こえて、エルはしっかりとコエにしがみついた。
次の瞬間、エルは物凄い爆風を轟音を聞いた。
目を瞑っているので何が起こっているのかは分からない。
ただ、何かが崩れる音と空気が変わったのと、体にかかる重量だけはわかった。
これから考えられるのはあの爆風が自分たちの背後の壁を吹き飛ばし、自分たちは三階から外に投げ出されたということだけだった。
エルが目をあけたことにより、それは確信に変わった。
明らかに自分たちは宙を舞っている。
「うわぁあああああ!!」
「きゃああああああ!!」
2人はそのまま弧を描きながら森の茂みの中に落ちた。
ガサッと大きく茂みが揺れる音とドンという鈍い音が響く。
強い衝撃が体に走った。
エルは茂みから顔を出した。
「こ、コエ!!」
エルはコエが自分の下敷きになっていることに気づき、急いでコエの上から降りた。
「大丈夫!?」
「い、いてて………う、ん……大丈夫……。」
そんなに痛みはなかった。
何とか狙ったように柔らかい茂みの上に落ちることができようだ。
が、コエが思っていたよりも随分と遠くまで吹き飛ばされていた。
けど近いよりは随分とマシだ。
「グダグダしてる暇はないよ……早く行こう!」
「うん!」
エルとコエはそのまま全力で走り始めた。
先程のあのガラス細工はユースから貰ったものだ。どうやらあの鍛冶屋がくれたらしい。
これを投げつければ軽い爆発が起こる。
毎日魔力を込め続ければ、さほど魔力を持たない人でも大きな効果をえられるとのことだった。
コエはせっかくなので毎日魔力をこめ続けていた。
まさかこういうことで使えるとは思ってなかった。さきほど皆のことを無茶苦茶だと罵ったが、自分もさほど変わらないようだ。
「ねえ、コエ……。」
隣を走るエルが話しかけてきた。
「ん?何?」
「私、本当に戻っていいんだよね……?」
コエがエルの方をみるとその顔は不安そうだった。
「何言ってるんだよ。当たり前じゃないか!」
コエは笑い飛ばした。
エルもそれを見て笑い返して頷いた。不安はどこかに吹き飛んでいる真っ直ぐな笑顔だった。
とにかく外に出て走ったので、特に方向は考えていなかったがあそこからはだいぶ離れたと思う。もうここまで走れば大丈夫だろう。
ふと前方になにか人影が見えた。
「あ!ユース!!」
声をかけるとユースはこちらに気づいた。
「あれは………コエと………あ。」
エルはバツが悪そうに目を逸らした。
「………ってかなんでこんなことに?スバルは?」
ユースは名前が呼ばれた方に向かって歩いていたが、なかなか皆と巡り会えずにいた。
「はぐれた。」
「またぁ?」
呆れた顔をするコエを横目にユースは少しエルの方を見てみたが、エルは目を逸らしたままだった。
「奪還できたのか。」
「うん!凄いだろ!?……え?なんでそんな冷めてるの?」
ユースはコエは放っておいて、エルと対峙した。
「エル。」
エルはびくりとしてこちらを向いた。
やはり先程のことをひきずっている。
「どうしたの?2人とも……。」
コエが不安げにたずねてきた。
ふとユースがおもむろに右手を前に出した。
そして、それで拳を作ると………自分の右頬をそれで思いっきり貫いた。
ドスっと鈍い音が響く。
突然の出来事で2人の思考は完全に停止した。
口をあんぐりと開けて固まっている。
エルに至ってはこういうことは本日2回目である。
「え!?ちょっと!?なにしてんの!?とうとうおかしくなった!?」
コエが慌ててユースに詰め寄るが、ユースはそれを払いのけた。
「まあ、これで今日のことはチャラにしよう。俺も俺でやりすぎた。すまない。」
エルはぽかんとしばらくしていたが、すぐに気を取り戻した。
「わ、私も。ごめんなさい……。」
エルも謝罪の言葉を述べた。
「え、何2人とも………。」
コエは完全に置いてきぼりだった。
「いや、なんでもない。」
ユースがズキズキと痛む右頬を摩って、サラリと流した。
コエはこんなことをされておいてなんでもないとは随分と無理があると思ったが、ひとまず今は放っておいた。
みんなが待っているのだ。
遠くから声が聞こえてくる。
エルは真っ先にその声がする方へ駆けていった。
懐かしい声、懐かしい姿が目に飛び込んできて胸の奥が熱くなった。
後でみんなに謝らなければならない。あんな勝手なことしてしまった自分を皆は待っていてくれた。
そして、エルはその声の正体の先頭を歩いていたアリマの懐に飛び込むと身が引きちぎれんばかりに抱きしめた。
そして、エルは大粒の涙を零しながら大きな声で言った。
「………ただいま!!みんな!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます