LASTArk past at justice 4

「「「……………………」」」

奥深い森林の中。三人の男が円になるように腰をおろし互いを見ている。

服団長のグリークは困ったような顔、この中で一番小柄なユースは不機嫌そう、がっしりとした体つきが目立つセンリは相変わらずの間抜けづらである。

どうしてこうなったのか。

という気持ちを隠す気もないようにグリークは大きなため息をついた。

そよそよと柔らかくふく風でさえ気にさわりそうだ。

時はすこしばかりさかのぼる。

いつもと同じようにギルド面々はモンスター討伐のため、森に入ったのだ。

久しぶりにノアも一緒だったが団長は今回も欠席。暇ができてまた顔を見せにきたかと思えば再び本部に呼び戻されたらしい。

相変わらず小殴り合いは続いているようだ。

捜索すぐに小規模な群れに遭遇した。小規模なら種によれば放置することもあるのだがギルドメンバーを見るなりこちらに突進してきた。

人を恐れるというのは動物の本能的なものである。しかし、一度人間が脆いものだと知ると容赦なく襲いかかり食らいつく。

直ちに討伐を開始し、次々とモンスターを倒していった。

討伐は順調に進んでいったが終盤にかかったとき、センリがあいかわらず火薬の量を間違え爆発が起こった。

ここで終わったならまだ良かった。

いつも通りやれやれと、ため息をついて片付けることができたのに。

そのときに舞った炎が爆発の衝撃でオブディットの鞄からいくつかこぼれ落ちた爆弾に引火したのだ。

ちなみに一つだけではなかった。

導火線はあっという間に燃え尽き、大きな爆発を引き起こした。

あれはちょっとしたナチュラルスクエアレベルだったと、ユースは思った。

その爆発によりメンバーはモンスターもろとも吹き飛ばしてしまい今に至る。

「……どうしたもんかねぇ……」

「どうしたもこうも、探すしかないだろ?」

「もとはといえばセンリのせいなんだけど」

ユースがセンリの方を見るとセンリは頭にはてなマークを浮かべて首をかしげる。

グリークは頭を悩ませた。

よりによって探知魔法を使える二人がいないのだ。

この三人はどっちかといえば肉弾戦派なのだ。(センリはそれなりに魔力もあるが下手なのだ)

「どれだけ吹き飛んだか分かる?」

「わかんね」

「一瞬すぎて分かるわけない」

「だよな………」

こんなことを聞いても帰ってくることは予想していたこととどんぴしゃだった。

しかし、もし結構吹き飛ばされたならかなり探すのに時間がかかりそうだ。向こうが探知魔法を使えたとしても距離があればそれなりに時間はかかる。

「ともかく、どうにか日がくれるまでには合流しないと………いろいろきついかも」

「そうだな」

「うん」

グリークがそういって立ち上がる。

日がくれれば野宿になるだろう。この辺りはモンスターが多いので野宿は避けるべきだと言われている。

二人もそれに合意し、立ち上がった。

とにかく一回、飛ばされたであろう方向へ向かうことへした。

「こっちであってる?」

「たぶん、あってるかと…」

ユースが自信なさげに言うが進むしかない。

三人は急ぎぎみで歩いていった。

……後ろをつける影に気づかずに。

***

「おっちゃん……大丈夫?」

オブディットが土のなかに埋まっている男の手をつかみ引っ張る。

結構ぐいぐいと引っ張るので男の腕を痛めないのか少々心配である。

「ああ………なんとか……」

引っ張られてる男は顔を歪めながら答える。頭の傷から血がこぼれ落ちた。

ノアはその間にオブディットの鞄から医療道具を取り出す。

徐々に男の体が土から引きずり出された。

オブディットは完全に男の体が出るなり、他に傷がないか確認する。

腕や足に傷はあるものの見たところひどいのは頭の傷だけのようだ。

男の体についた土を落とし、二人は手分けして男の手当てを始めた。

「ところで、なんで埋まってたんですか?」

「あー、熊にやられてな………」

熊は食べきれない獲物を土に埋めておく習性があるとオブディットは聞いたことがあった。

「じゃあ、ここを早く離れないと………」

熊は獲物への執着心が強い。この獲物を横取りしようとするならば熊の逆鱗に触れ、取り返しのつかないことになる。

最もこの習性を利用して熊を捕まえることも可能である。

男の埋まっていた穴を再び見ると一丁の銃が残されていた。

「これって、おっちゃんの銃?」

オブディットが男に銃を差し出す。

「ああ、そうだ。ありがとう」

男は銃を受けとると、動くかどうかの確認をする。

「だめだなぁ………土がどっかに詰まってるか…」

どうやら壊れてしまったようだ。

「もしかして、猟師さんですか?」

ノアがそう男に尋ねる。

「ああ、そうだ……もう長いことやってるけど埋められかけたのは初めてだな」

男が顔をしかめてそう言った。

「まさかあんな大きいのがいるなんて…聞いてないぞ……」

「おっちゃん、そいつの毛の色とか覚えてない?もしかしたらモンスターかも」

オブディットが男に尋ねた。男は暫し考え込んだのち、なにかを思い出したような顔を作った。

「ああ、言われてみれば………熊にも赤毛っていうのはいるけどそいつは結構赤かったな……」

ノアとオブディットは顔を見合わせた。

証言から男を襲ったのはモンスターの類いで間違いないだろう。

「ありがと、おっちゃん」

「……これからどうします?歩けます?」

たとえ歩けたとしてもこのまま別れるのは不味いだろう。もしかしたらつれていくことになるかもしない。

「ああ、大丈夫。埋められた時に仲間に一往助けを求めたんだ………あ、ほら!あそこ!」

男が指を指した方向を見ると男が何人かこちらに向かって走ってくるのが見えた。

その男たちに状態を説明し、男を引き取わたす。

「あのー、ここに来る途中で人を見かけたりしませんでした?」

ノアが男に問いかける。

「んー、この辺りの森は猟師でも入ることは少ないからなぁ………見かけなかったけどどうかしたのか?」

「いや、大丈夫です。ありがとうございます」

「こちらこそありがとうな。こんな間抜け野郎の面倒見てくれて」

間抜けと言われて、埋められかけた男はばつが悪そうであった。

「じゃあ、気を付けてな!」

そういって猟師たちは去っていった。

気づけばもう昼を過ぎたくらいだ。ここは高い木々がはえていない少し開けたところなので太陽の位地がよくわかる。

二人は探しながら考えることにした。また森の中を進んでいく。

「どうしよっかなぁ……一回探知魔法かけたけど結果なかったし……」

「もう一回かけてみる?」

「えー……あれ無駄に魔力使うしなぁ……」

オブディットが渋い顔をして言う。

魔力も無限に涌き出るわけではない。

使いきればそれなりのバットステータスを被る。遭難したときはむやみに魔力を使わないのが鉄則である。

「けど、早いとこ見つけないとヤバいよ。もう昼………って、あれ……」

振り向くとオブディットが木の麓にかがんでなにかを見ている。

「なんか見つけた?」

ノアが後ろから様子を見る。

「うん、これ」

オブディットは木の麓にある穴を指差した。穴の中には何か入っているのだが……。

「……何これ」

「狸の糞だよ」

狸は場所を決めた一ヶ所にまとめて糞をする習性をもつ。

「いや、見ればわかるけどそんなじろじろ見るようなもんじゃないでしょ」

そんなしかめっ面のノアを無視してオブディットは木の枝で穴の中の糞をいじりだした。時々「うーん……一匹かなぁ……」と、ぼやいている。

糞の量で数がわかるらしい。

「何がしたいの?」

「え?だってお腹へってない?」

なるほど、オブディットは狸を捕まえて食べるつもりなのか。

オブディットの腹の虫がノアの思考に答えるように返事をした。

「あ、たぶんあそこの穴が巣だ!」

どうやら巣穴を見つけたらしい。斜面にあいた穴を指差す。

「見つけたはいいけど……狸ってどうやって捕まえるの?」

ノアはそんなに山とかに詳しいわけではないのでこういうことはよくわからない。

「えーと…まず、枝とかの先を3つに割ったのを使って狸を外に引きずり出して………」

そう言いながらオブディットが近くに落ちていた少々太くて長めの枝の先をナイフで3つに割った。

「へぇー……で、どうするの?」

「それで首を絞めてシメる」

結構ワイルドなこと言ってノアにその枝を差し出してきた。

「……僕がやるの?」

「うん、やってみなよ」

オブディットはじっと、ノアに視線を送る。

無言の圧をかんじ、断ることもできずノアはしぶしぶ穴に枝を突っ込んだ。

わりかし奥に続いているようでどんどんと入っていく。

「そういやこんなことしてて大丈夫なの?」

ノアが枝を動かしながらそう言った。

さすがに散り散りになってしまった仲間のことを気にかけずにはいられないだろう。

「うーん、たぶん大丈夫だとは思うんだけどなぁ…………センリは確実に大丈夫だろうね、うん。」

「どうせならどっかまた吹っ飛ばしてくれたらわかるんだけど……あ、なんか柔らかいのがある」

枝の先に何かが触れるのを感じた。

「じゃあ枝を回して毛を引っ掻けて引っ張って………心配なのはあの二人かなぁ……なにかといろいろ貧乏くじ引くタイプでしょあそこ」

あの二人は前にもモンスターの群れに追いかけられた前科があるのでなおさらである。

「なんとか生き残ってくれることを祈る………あ!何か出てきた!」

「そのまま外に出して!」

オブディットの言う通りに引っ張ると、スポンと狸が出てきた。毛がモコモコとしていてふかふかだ。

「早く首絞めて!」

「無理だよ!やり方知らないし!しかも全く動かないよこいつ!?」

狸は枝に引っ掛かったまま動こうとしない。死んでしまったかのようだ。

「死んだふりだよ!ほら早く!」

「わかったよ…ってぇ!!」

グダグダしてたら狸が動いてノアの手に噛みついた。

「こ、このっ!!いたたっ!!」

ノアも抵抗するもまだ狸は引っ掻いたりと噛みついたりと反撃は続く。

ノアはとうとう狸を掴んだ手を離してしまった。

狸はそのまま逃げていく。

「あ!待てっ!!」

オブディットがその後を追いかけていった。犬の獣人である彼女は足が速い。しかもなんかこういうのは猟犬の血が騒ぐらしい。

しばらくして彼女は満足そうに狸を鷲掴みにして戻ってきた。

狸は死んだふりをしているのかそれとももうシメられてるのかわからないほどにびくともしない。

相変わらずワイルドだなとノアはその時思ったのだった。

***

なんとか森の中を進み、自分達が吹き飛ばされたであろう場所へとたどり着いた。

証拠に芝が黒く焦げ、盛り上がったところがえぐれている。

「ここだよな……………足跡とかある?」

「見た感じないけどー」

地面に視線を凝らすも特に足跡らしいものも見当たらない。あの二人はここには戻ってきていないようだ。

「なぁー、ほんとにどーすんだー?……よっと」

センリは近くに落ちていた石を池に投げ込んだ。石は何回か投げた後で池の中に沈んだ。

「何してんの」

「水切りってやつ」

「へぇ………」

二人を探すのをそっちのけでセンリがユースに水切りを伝授しはじめた。

もうそんな二人はほっておいてグリークはなにかないかと回りをうろうろと歩き回る。

後でたまに、ぽちゃんと石が落ちる音が聞こえてくる。

「うーん…なにかないかなー………ん」

視点を低くして地面を見ながらうろうろとしていると、足跡らしきものがうっすらと見つかった。人数は二人ということはわかったが、よく調べてみると結構前のものみたいだ。

「結構前のか…じゃあ二人のじゃないな……」

多分この辺りの猟師のか何かだろう。

残念に思い、立ち上がろうとしたとき。

横からなにか生暖かい風が吹いてきた。いや、風と言うには少々弱すぎるか。

どっちかと言えば生き物のする呼吸というもののような……。

そこまで考えたところではっとし、顔をそっちに向ける。

大きな黒々と光る爪が目の前までに迫っていた。

「うおっ!!?」

声をあげ間一髪で避けるが鼻先にピリッとした痛みを感じた。

他の二人もその声に反応し、そちらを振り向く。

避けた体制を立ち直し改めてその爪の正体を確認する。

真っ黒な大きな巨体がそこにはあった。熊だ。

「おい!大丈夫か!?」

「うん!まだ怪我とかしてないけど……」

熊と言っても毛がどす黒く、まるで墨汁を垂らしたかのようだ。

その点とこの大きさからみてまず普通の熊ではないだろう。

熊は音もなく獲物に忍び寄ることが可能なので全く気づかなかった。

熊は容赦なくグリークに猛攻を仕掛ける。レイピアで攻撃を防ぐものの威力が強いため押されている。グリークはもともと全線に出るタイプではないのもあるが、これはタイマンで勝つには無謀すぎる。

「センリ!!早く!」

誰かに横から殴ってもらうしかない。体力当の温存のためにも高火力のを一発ぶちこんでもらおうと考えた。

「吹き飛ばされてもしらねーからな!!」

ユースは耳をふさぐ。これを真横で以前聞いたとき片耳が瀕死しかけたことがあるくらい音が結構すごいのだ。

玉を詰め終わり、センリが引き金を引こうとした。

が、それと同時にまたなにか。

大きな塊が二人めがけて突進してきた。

驚いてとっさに避けれはしたもののセンリはバランスを崩し、バシャンと音を立て池へとひっくり返った。

しかも、ひっくり返るときに反射でユースの服を掴んだため彼も道連れとなりそのまま池に落ちてしまった。

「ぶはっ!!なんだ今の!?」

池から顔を出してみると今度は対照的に雪のように真っ白な熊がいた。

グリークも驚いて攻撃を避けながらそちらを見ている。

「なんだ…?もしかしてこいつら兄弟か……?」

熊は親場馴れしてからも兄弟で縄張りを共有することはたびたびあり、獲物を協力して刈ることもある。

「くそ、二つまとめて吹っ飛ばすしかないのかっ……!」

ユースは急いで池から上がりグリークの助けへと向かう。爆風に巻き込まれてもこの際は仕方ない。

センリはそのまま引き金を引いた。が。

バガっ!!

なにかが外れるような音がした。

「………うわっ!!壊れた!!!」

センリの火縄が破裂したのだ。

銃を水に落とした時、中に入った水をよく切らないと破裂することがある。

焦って水を切るのを忘れてしまっていたのだ。

白の方はそのままセンリをターゲットとする

ユースはグリークに襲いかかる熊の脇腹を狙い、槍を突き刺した。

熊は唸り声をあげて暴れる。グリークはそのできた隙に距離を取るために熊から離れた。

心臓を狙ったつもりだったが肋に当たり、致命傷とはならなかった。

熊が暴れたことにより刺さった槍ごと体が持ってかれそうになる。

なんとか槍を引き抜くことができ、そのまま距離を取る。

センリのほうも使えなくなった銃で熊の頭をぶっ叩いた。玉を放てなくなった今、もはや鈍器としてしか使うしかない。

ちなみに玉を放ててもたまにこうしてぶっ叩いてることはある。

叩かれて若干怯んだ隙に池から上がり、二人の元へ走る。

「逃げるよ!!」

熊ともみ合って泥だらけのグリークとびしょ濡れのユースとセンリは一斉に走り出した。

熊ももちろん諦めるわけもなく追いかけてくる。

うまいことまければいいのだが隠れられそうなところもない。

「おい!追い付かれるぞ!!」

「誰かなんか投げつけれるやつ持ってない?!」

「あのとき全部燃えちまったよ!」

こんなときに遠距離攻撃が使えればいいのだが銃が鈍器としてしか機能しないので不可能だ。

ノアやオブディットなら魔法でなんとかなるのに二人とも行方不明だ。

「と、とにかく走れ!!」

追い付かれたら戦うしかないだろう。この前よりは数は全然かわいいものだが個々の能力が全くかわいくない。もみ合ったときにそれは実感した。

しかもさっきのでレイピアにヒビが入ってしまったのだ。

とにかく、今は走ることに集中する。

しばらく走って少し開けた所にたどり着く。

「……?なんだあれ」

ユースが前方になにかを見つけた。

ただ人ではない。しかも三個動く塊がある。

塊はこちらに気付き、のしのしと向かってくる。

「おいおい……これって……」

だんだんその塊が鮮明に見えてくる。

血を垂らしたような逆立った赤い毛が目に焼き付く。

熊だ。

今追いかけているのと同じくモンスターだろう。

どんどんこちらに近づいてくる。いや、突進してくるという方が正しいだろう。

三人はそれを躱すが、その間にあの追いかけてきた二匹にも追い付かれてしまった。

二匹も容赦なく襲いかかる。

飛んでくる攻撃を防いだり、牽制のため切りつけたりする。

熊五匹が一斉に三人に襲いかかる。

熊の爪と、槍の刃がぶつかり合い火花が散る。ぶつかったときの衝撃が骨にまで伝わってくる。

「なんなんだよ、この重たいの……!」

横から飛んでくる攻撃に反応して避ければまた、別のところからも飛んでくる。

グリークはその攻撃した熊の隙をみて攻撃を仕掛けようとしたが、他の熊の攻撃がすかさず飛んでくる。

その飛んできた攻撃をレイピアでふさいだとき、ボキンと、音がした。

「っ!!」

レイピアがとうとう根本からポッキリと折れてしまったのだ。

予備で持っている短剣でしのぐしかない。

センリの火縄は破裂し、グリークのレイピアは折れてしまった。

ろくに使える武器を持っているのはユースただ一人となった。

自分がどうにかダメージを与えて、相手を弱らせなければならない。

この五匹を相手に果たしてそれができるだろうか?

そう考えるのは後にして、やるしかないだろう。

ユースは相手の急所を狙うべく、強く踏み込みそのまま突っ込んでいった。

***

ふらふらと歩き回ることどのくらいたっだろうか。

二人は高い崖の上から森を見下ろした。

高いとこからの方がもしかしたら探せるかなと思ったのだ。

「どう?なにかある?」

「うーん、特には………」

双眼鏡を使いオブディットは森を見渡す。

ノアもためしに精霊を飛ばしてみることにした。

「あの開けたところ当たりが僕らがいたとこだよね?多分」

森の木々が少し途切れたところをノアが指差した。

オブディットが双眼鏡をおろし、確かめる。

「あー……そうっぽいね」

ここから直線距離はあまり離れていないようだ。

再びオブディットが双眼鏡を覗く。

「……あ?」

なにかを見つけたような声を上げた。

「え?あ………!いたっ!!」

「え?!どこに!?」

「あの私たちがさっきいたとこ!!」

オブディットが双眼鏡をノアに渡した。

「あ!ほんとだ!………けど……」

同時に何匹か熊の姿が見えた。戦闘をしているようだ。

様子を見るに苦戦を強いているようだ。

こちらの位置を伝えても多分あの熊たちを振り切ってここに来るのはまず無理だ。

「どうする?僕らが行く?」

「行くにしてもだいぶ距離があるでしょ?ここからあそこって」

ここまで歩いてくるのに結構時間はかかった。あの苦戦状況を長く保てるとは限らないだろう。

精霊を喚んで向かわせるものあるのだがさっき飛ばしたやつのインターバルがまだあるので、あの状況を十分打開できるのを召喚するにはまだ時間がかかる。

しかも召喚術は他の魔法よりもより魔力を消費する。

「向かうしかないのか。これだと………けど時間が……」

うんうんと頭を悩ますノアのそばで、オブディットはなにか地面に手を当ててなにか考えている。

「えーと……だから……こうで……ああで……」

「どうしたの?」

「うーん………もしかしたらなんだけどぉ……」

オブディットはその体勢のまま魔法を使い始めた。

「え、なにするの?」

「助けられるかも………って」

その手を当てている所に魔方陣が出現して一瞬強く光った。

それと同時に前方でものすごい衝撃音が響いた。

驚いて音のした方を見るともくもくと大きな砂ぼこりが立っている。

吹き飛ぶ人らしきものも小さいが見ることができた。

「何したの?!」

「えーと、魔力をあそこに集めて無理やりナチュラルスクエアを作った。けどうまくいったね!思った通り!」

オブディットはそうしてどや顔を作る。

「いや吹き飛ばしてそれからどうするの!?どう助けるの!?」

「あ、考えてなかった」

思った通りの答えが帰ってきた。それを聞くなりノアは棺からドラゴンを召喚した。

だいふ魔力を使ってしまうがやむを得ない。

召喚したドラゴンにあの三人を助けるように命令した。

「それやるならなんか言ってよ……」

「え、だって反対するでしょ絶対」

「そうだけどさ!」

なんだかんだ言い合っているとドラゴンが戻ってきた。背中にはきちんと三人が乗っている。

「あ、みんな無事そうで」

オブディットが呑気そうに言う。

「いや………いろいろ大丈夫じゃ無さそうだけど…」

ノアが三人の様子を見て言った。

やつれた顔している服団長と、なにが起こったいまいちわかってない顔しているセンリと顔にでかでかと傷をつけているユースだ。

とりあえず三人にここまでの経緯を説明した。

「はぁ……ほんと吹き飛ばされたとき死ぬかと思った…………」

「大丈夫、死にはしないように計算したから………ところでユース君、その顔どうしたの」

「熊に引っ掻かれた」

顔に斜めに入った傷からはいまだにポタポタと血が垂れている。

傷の手当てをしながら向こうの事情を聞いた。

向こうも向こうでなかなか大変だったようだ。

「で、ユース以外のみんなの武器は……」

「壊れた」

「折れた」

「みんな災難だったねぇ……とりあえず帰ったら詳しく聞かせてもらうから…」

「なあ、お前なに塗ってんだ?これ……」

「え?これは熊の油だよ」

ベタベタと顔に油を塗られる。いま傷薬を切らしているのでこれを代用しているとのことだった。

あらかた傷の手当てが終わると、もう日が沈みかけていた。

急いで今日は帰ろうと、方角を確認して全員ははぐれないように帰路を進んでいった。

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