LASTArk 11
なぜ一人はこうも楽なものなのか。
森の中至るところにある廃墟。
ステンドグラスの大きさから見るにここは聖堂かなにかだったのだろう。日がさし込み鮮やかな光を生み出す。
その美しいステンドグラスとは裏腹に碎け散った聖女像が薄汚れた床に転がっている。
朽ちかけた祭壇の上で寝転がりながらロウディアは頭にそんなことを思い浮かべた。
昔群れて動く連中に腹が立っていたことが原因だろうか、あるいは一人に慣れすぎてしまったか、その答えを知るよしもない。
また時間が立てば誰かが迎えに来るだろう。それまでしばらくここで一眠りすることにした。
そういえば先日、グループのメンバーがあのギルドの一部と接触したらしい。
見つかるのも時間の問題と思っていたが思っていたよりも早かったな、と感じたのが第一だった。
だいぶ向こうが派手にやってきたらしくルシフェンからは情報が漏れたことをだいぶくどくどと言われ、しばらくの単独行動を禁じられそうになった。
あと、テイラーいわく向こうにもだいぶイカれたやつがいるとのことだった。
……よくわからないが、まあ一応気をつけておけばいいだろう。
目を閉じているので今周りの状況を知るすべを持つのは聴覚だけだ。
風の流れる音。外の木々の揺れる音。小鳥の鳴く音。
動いているときには感じとりにくい細かな音が鮮明に伝わってくる。
どうせなら、このまま自分もこの中に溶けるように消えてしまいたい。
昔は、なかったわけではないが消えてしまいたいと思うことはほぼ無かった。
どうも最近自分に否定的なのだ。さぼりぐせもこんなにひどく無かったし過ぎ行く日々に完全に身を任せっきり、ということもなかった。
目を閉じたままぼうっと暗闇を眺める。
(ひどくなったのは……村を離れてからか…)
ロウディアにも自覚はあるし心当たりもある。かといって思い出す気にもなれない。
どちらかと言えば思い出したくない、と言ったところか。
思い出すような楽しいこともないしなにより思い出せばそのときの感情が入り乱れてむしゃくしゃする。
その感情をぶつけたい張本人ももういない。
だから他の「物」にぶつけるのだ。
こうしてロウディアはこちら側の者に成り下がったのだった。
こう変なことを考え出したら一向に眠れる気がしなくなってきた。
祭壇の上で寝ることに神がお怒りになったのか。
最もロウディア自身、神が本当にいるとは思ってない。
ロウディアは目を開け、起き上がった。
少々億劫だが場所を変えたほうがいいと思ったからだ。
他にもたしか、部屋はあったのでそこを回ってみたらいいところがあるかもしれない。
服についた木屑を落とし、扉に向かって歩き始めた。
そのとき、ロウディアの足音ではない足音が外から聞こえた。
それに気付き、一度足を止めた。誰かが来たのだろう。
足音はそんなに近いわけではない。
「お迎えかな……けどヒノワではなさそうかな」
ヒノワは普段靴を履いていないためこんな大きな音は出ない。要は気づきにくいのだ。
他のメンバーかはたまた………。
ロウディアは姿を確認するために扉を開けた。
それと同時に、真っ赤な炎が目の前すれすれを横切った。
「うわ」
「お、ラッキー……なにかいると思ったら犯罪者びゃん。」
さっきので前髪が少し焦げた。
焦げた前髪を直しながら声の主の方を向く。
案の定、あの赤毛の獣人がここから少し離れた所にいる。スバルだ。
「あれ、もしかして一人?」
「そうだったらこれはチャンスですね」
後ろから黄色のロングヘアーの女と鹿の獣人も顔を出す。完全にラストアークのメンバーだ。
「まあ、とりあえず……お嬢さんもしかして今お一人かなにか?」
「あんたにお嬢さんって言われたくない」
スバルの問いかけにロウディアはムッとして答える。しかも一人なのは結構まずい。
「いいじゃんか。どう、これから俺らと楽しいことしないか!?」
再び真っ赤な炎がこちらに飛んでくる。
ロウディアは水で壁を作ってスバルの攻撃をふぜく。
しかし、スバルだけではない。キロネックスもフォスターも攻撃を開始してきた。
しかも全員射程が長い。この位置からも十分攻撃が届いてしまう。
あと少し近づけたら自分の攻撃も一応届くのだが一対三では無謀だ。
攻撃をよけてロウディアは今出てきた部屋に再び入った。
廊下をつっきっるのは射程が長い攻撃にとっては独壇場だ。
無論部屋に入っても当然、あの三人も追ってくる。
ロウディアは部屋の奥へと向かって走る。部屋の奥にあるのはあの祭壇とステンドグラスだ。
ちょうどそこにたどり着いた時にやつらも部屋に入ってきた。
この部屋に外へと通じる道は一ヶ所しかない。
ロウディアはあのボロボロの祭壇を踏み台にして、その勢いでステンドグラスに向かって飛び込んだ。
大きな音を立ててステンドグラスが粉々に碎け散る。
割れた破片が西日を反射してキラキラと輝く。
あのステンドグラス綺麗だったのにな、と思いながらロウディアは破片を見ていた。
足が地につくとすぐに立ちあがり破片を払いながら走り出す。
「おい!待て!!」
スバルが割れた窓から乗り出して叫ぶのが聞こえたが勿論無視だ。
ロウディアが森に逃げてからも三人は追いかけ続ける。
「それ!」
「うわっ!…あぶないなもう……おっと」
「すばしっこいですねなかなか…」
キロネックスの稲妻とフォスターの蔓をよけて呟く。
そのあとにスバルの攻撃も飛んでくる。
(どうにかして巻けないものか………)
しばらくチェイスして巻く機会を探る他ないのだが長くはしていられない。キロネックスとスバルだけならそれでなんとかなるかも知らないが、フォスターが厄介だ。
森の中ではさっきよりリーチが圧倒的に伸びている。植物属性であることを考えていなかった。
そこらそこらに気を配らなければならないので集中力もより消耗する。
「あー!もう!だっるい!」
イライラして叫んだとこで攻撃が飛んでくるだけである。フォスターの蔓に足をとられるところだった。
今は逃げることにしか集中するしかない。そう思い自分の前方に集中する。
ふと、その目の前の光景をみてある考えが思い付く。
今後のリスクは大きいかも知れないが今はこれしかないだろう。
ロウディアは攻撃を交わしながら、森の開けた所に出る。その真ん中にあるのはまたもや廃墟だ。
その廃墟めがけて全力で走る。
「これで終らす!それ!」
キロネックスの稲妻がロウディアに迫る。
稲妻は完全にロウディアを捕らえられる。これまでか、と思いロウディアは目をつむる。
が、その稲妻は弾き飛ばされた。
ゴーン、と大きな鐘のような音を立てて結界がキロネックスの稲妻を、弾き飛ばしたのだ。
驚く三人と裏腹にロウディアは安堵の顔を見せる。
「やれやれ、また貴方ですか……」
声のする方を振り向くとミッシェルが廃墟から出てきた。
「ごめん見つかっちゃった」
「また怒られますよ」
そう会話を続ける二人に再び攻撃が飛んでくるが結界がすべて弾き飛ばす。
「っ!!!」
「無駄ですよ。この結界は並大抵の魔法じゃ破れることはない」
ミッシェルがにこやかに微笑み指を鳴らした。
すると結界の前に立っていた三人が姿を消した。
「わあ、何したの?」
「あそこに転送魔法を仕掛けておいたんですよ。たぶん森の外くらいに転送されたんじゃないんでしょうかね?」
ミッシェルが手を払いながら言った。
大まかな居場所がばれても、拠点がばれても悠長に今までしていた理由のひとつがこれだった。
魔力が強いこの辺りでは結界も強力な力を発揮する。
「しかしこの失態は大きいですよ。いくらなんでも破られないからと言っても拠点がばれてしまったではないですか」
「捕まるよりはいーでしょ?」
ロウディアがムッとした顔で言った。
ミッシェルは振り向いて廃墟の入り口に向かって歩いていく。ロウディアもその後を追いかける。
「それより、あの子の方は大丈夫なの?」
「ええ……まだやることはありますが、もう最後の段階には進めますよ」
「だいぶ早いね?そういうもんなの?」
「早い時期ほどこういうことを教え込むのは楽なのですよ」
ミッシェルは一瞬振り向き黒さが見え隠れする笑顔をつくり、そう言ったのだった。
外はすっかり日がおちて闇に染まっていた。
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