LASTArk past at Iniquity 4
「よお、また会ったな」
「会いたくてあってんじゃないよこっちも」
木の上に座る例のあの男が話しかけてきた。
あの日からたまーにこいつは姿を現し続けていた。
ロウディアが話を聞いたところしばらくこの辺りをふらふらすることにしたらしい。
「相変わらず空き家とか転々としてんの?」
「まあ、そんなとこ」
男はボソッと答えた。
なぜ、そういうとこを転々としているかは聞けていない。
ロウディアは今日の仕事は終えてしまったのでしばらく男と無駄な話をすることにした。
「そういやここんとこの地主、結構広い範囲を取り締まっているみたいだな」
どうやら暇をしているうちに調べたようだ。
「村は結構な数取り締まってるらしいよ。この辺りじゃだいぶ有名人か」
ロウディアは地主の屋敷が鎮座している方をみて言った。このあたりの一般的な家とは比べ物にならないほど立派な作りをしている。
「で、そこの娘がかなりの高飛車なお嬢様だと…」
この男の言うとうりである。ユーリはロウディアに限らず大抵あの高飛車な行動や態度を振り撒いている。
「村の女子の関係をほぼほぼ牛耳ってるようなもんだよ。見ててあほらしい」
ロウディアはぐちぐちと心情を口にする。ああいう群れてないと行動できないやつらの神経が昔から理解できなかった。
「ただみんながひょいひょいついてきてるだけで強くなった気になってるんだよあーゆーのは」
「へぇ……」
ロウディアのこぼす愚痴を淡々と男は聞いていた。
「けどそいつについてかないと不利益を被るわけだろ?」
「まあ、そういうとこ……こっちは利益もくそもないけど」
ロウディア自身は論外であるが男の言葉の通りである。その例がノエルだ。
ロウディアほどまでとはいかないがだいぶその関係から孤立している。ノエルは特になにもその事を口にしないが実際どのようなかんじなのだろうか。
特に考えたことなかったがふと頭にぷかりと、浮かんできた。
「…………で…………おい、聞いてんのか?」
「あ、聞いてなかった」
考えていて男の話を聞いていなかった。男は不満げな顔をした。
「あー、もういいか。帰る」
男は木の上で立ち上がった。
「そういやこの辺りって空き家とかあるの?あんま聞いたことないけど」
「空き家っつうより廃墟だな。森の奥のほうは結構あったりもするし、そっちのほうが使えるものもあるしな」
「へぇ…」
男はそう言って枝を飛び移りそのままどこかへと消えていった。
男が消えていった方をしばらく眺めた後、ロウディアは帰路についた。
歩いている途中、足元に猫が絡んできた。
「あ、あんたは……」
猫を抱き上げて毛の模様を見てみる。
やはりこの前の猫のようだ。
猫を撫でてやるよ満足そうにゴロゴロと喉を鳴らした。
「どうしたの?今は食べ物とかなんも持ってないけど」
そう言うと猫は「にゃー」と返事をした。猫を下ろしてやると、一度ロウディアの足に頬擦りをして、どこかへといってしまった。
それと入れ違うように足音がこちらに近づいてきた。
足音の方をみると例のあの集団がこちらに向かってきた。嫌なものが来たな、とロウディアは顔をしかめる。
「なんかよう?」
ロウディアはぶっきらぼうに嫌悪丸出しで主格のユーリに言った。
それに対してユーリも何よ、その態度と言った具合の顔をした。
「別に、たまたま通っただけよ」
そのわりにはぞろぞろと引き連れすぎだなと思った。
「あっそ」
「今日はあんたごときに構ってるほど暇じゃないのっ」
そう言ってユーリはわざとロウディアにぶつかって横を通った。子分もぞろぞろと後をついていく。
いちいちすることがめんどくさい。
ロウディアはユーリと反対側の方向を向き道を進んでいこうとした。
「あ、そうだわ」
ユーリに引き留められた。
「何」
めんどくさいので振り向かずに吐き捨てた。
「あんた、だいぶあの女と仲がいいようね」
ユーリがそう言った。あの女とはノエルのことだろう。仲がいいと言うよりは昔から一緒にいるのほうが正しいかもしれない。ノエルとはもうかれこれ長いこと一緒にいるのではないのだろうか。ちなみにアーサーのほうはノエルがたぶん自然とつれてきてるのだと考えている。
「それでせっかくだから助言してあげようと思って」
助言とは?
助言といってもろくでもないことしか言わないのだろう。しかし、なんでわざわざ助言といってそうなげつけてくるのだろうか。
「あいつが一緒にいてくれるのはあなたを使って自分を引き立てるためよ。そうでもなかったら一緒にいようとなんてしないわ。自分を犠牲にするだけよ」
ユーリは呆れたように吐き捨てた。そして、子分を引き連れ去っていった。
足音が聞こえなくなりユーリたちは完全にいなくなったのがわかったがロウディアは歩き出そうとしない。
その言葉を受けて、ロウディアの思考は一時少しの間だが停止してしまった。
確かに予想通り、ろくでもないことだがそれがでたらめと完全に書き消せる自信も確証もないのだ。ノエルに一度もなんでこう、話したり一緒にいてくれるのか尋ねたことがなかったからだ。
ノエルはロウディアといることで不利益を被っているのは確かだ。しかし、その不利益と引き換えり何かしらの利益を得ているとしたらどうだろうか。ロウディアを利用し、自分を引き立て他のグループからの評価を得ている。それがノエルの本心だったらどうか。
そこまで考えたとこでロウディアは首をふった。
あまりのめり込みすぎてはあいつらの思う壺だ。所詮は推測に過ぎないのだからそう考え込むことではない。
自分にそう言い聞かせながら再び歩き始め帰路をロウディアは進んでいった。
さっきまでは夕焼けがきれいに見えていたのに、いつの間にか空には黒い雲が姿を表していた。
***
今日は朝からどしゃ降りである。屋根に叩きつける雨音で目を覚ました。
この様子だと外の作業はできないだろう。今日やろうと考えてたことは後回しだ。
後回しにしてしまうとどんどんそれがめんどうになって起こる気がしなくなるが今回は仕方ない。こんななか雨具を出してぼちぼちやるほうが面倒だろう。
とりあえず、出しっぱにして床に積み上げられたままだった本を本棚に入れていく。
ベットの上で読むことが多いので、特にベットの周りは本のタワーだらけだ。
順番をきちんとやろうとするとたぶん日が暮れる。順番整理はまた暇を見つけたらやればいいか。
本を整理していると雨音に混じってドアのノックが聞こえた。
こんな日に誰が何の用だろうか。
ドアを開けるとそこには雨具を着て、袋を抱えるノエルが立っていた。
「やあ、おはよ!」
ノエルが笑顔でそう言った。
「あ、おはよ……どうしたの、こんな雨の中…」
ロウディアはさっそうと尋ねた。
「昨日畑でトマトが沢山とれたんだけどそれをお裾分け」
そう言って、ノエルがロウディアに袋を渡した。
この雨の中帰るのも気の毒だと思い、雨が落ち着くまでしばらくここで過ごしてもらうことにした。
「そういえば最近あまり話せてなかったね。調子どう?」
ノエルは最近親戚が亡くなったとかでだいぶ立て込んでいたようだ。血縁者がノエルしかいなかったぶんだいぶ大変だっただろう。
「まあ、ぼちぼち……ノエルのほうも大変でしょ?」
実はノエルとしばらく話せてなかったのは他の理由もあった。
「………前から思ってたんだけどさ………」
ロウディアがノエルに言葉をかけた。
「……ノエルってなんで私と一緒にいるの?」
ユーリの言葉。あれだけ考えないようにしてなかったものの、やはりどこか引っ掛かってしまったままなのだ。
ノエルはその言葉を理解するのにしばらく固まった。当然だろう。聞くのは良くないというのも百も承知だ。
「………え?どういう……?」
ノエルが困ったような顔をして言った。
「ごめん…変なこときいて。けどノエルだってユーリから変なことされたり、仲間からはずされたりしてるんでしょ?」
ロウディアが言うとノエルは目を泳がせた。図星のようだ。
「私と絡んでるからたぶんそうなってるんだと思うんだけど…それだったらノエルは不利でしかないじゃん。だからなんでずっと今までいるのかな……って」
途中で止めようと思っても、どんどん考えていたことが溢れだしていった。まるで倒したカップからどんどん流れ出ていく液体のようだ。
沈黙が広がる。外の雨の音も全く入ってこない。
ノエルの方をみると完全にまいってしまったようだ。悲しそうな表情を作る。
やはり、言ったらまずいことだっただろうか。ユーリにまんまと嵌められてしまった。
「………理由、って絶対にいるものなのかな……」
ノエルが沈黙を破り、口を開いた。
ノエルはさらに続ける。
「なんだろ…自分がそれがいいからそうしている……その、直感ていうか……と、とにかく!一緒にいたいって思うから一緒にいる!」
ノエルは詰まりながらも思いを話す。
ロウディアは停止したままノエルのことを聞いていた。
「なんで一緒に居たいって思う理由はわかんない。けど、世の中理由が要らないことがあってもいいんじゃないかな……そう思ってたから理由を考えたことなんてなかったけど……えーと…その理由とかほしかったら考えて…」
ノエルは頭を抱え始める。
「いや、………考えなくてもいいよ……」
本格的に理由を探し始めるノエルをロウディアが制する。
「改めてごめん……変なこと言ったり、言わせたりして」
「いいよいいよ!そりゃ嫌なこととかやられたりもするけど、普通そう思っちゃうよね」
ノエルはそういうと一息おいて続けた。
「それでも私の中ではロウディアが一番だから!」
ノエルは名一杯の笑顔で言った。
「…ありがと」
ロウディアはうっすらと笑いながら言った。
「ところで急にどうしたの?なんかユーリに言われた?」
「いや、なんでもないよ。うん」
図星で一瞬焦ったが今となってはどうってことない。
空の雨雲と同じように中につっかえていた物はいつの間にかどこかへと姿を消していた。
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