LASTArk 10
その後、なんとか探知魔法を使い他のメンバーと無事に合流ができた。アリマたちも固まって動いていたことには助かった。
それぞれ、動けないアリマと右腕が途中までしかないユースには驚かせられた。
アリマのはまあ、放っておけば治るものらしいが腕はそういうわけにはいけない。
とりあえずここに留まるわけにもいかないので一度宿に戻り再び作戦を練ることにした。
宿に戻ってからもスバルとアリマにユースは腕のことを散々言われた。スバルはいつものことだがリーダーから直々に言われるとなるとだいぶ参った。会議中にも釘をさされた。
そして、その会議の場を使ってフォスターは自分の今までの出来事を、あの犯罪グループとの関わりを口にした。
会議も終わり特にすることもなくユースは壁に持たれてぼうっと向の壁を眺める。壁は白く少し年期がはいり黄ばんで見える。
「よっ」
不意に肩を叩かれた。
そちらを向くとコエが立っていた。
「なんだ、お前か」
ユースはボソッと言った。
「腕の調子どう?」
コエがそう尋ねた。
腕はくっつけて補強で糸を通してある。その上から包帯をぐるぐると巻かれ傷口は見えない。
右腕は今は完全に動かない。触られても感覚がない。切られたところから先がまるで他人の体になったみたいだ。
「まあ、いいかどうかも言えないけど…… 全く動かないな」
右腕をさすりながらユースは「久しぶりだよ、こんなの」と言った。
「え、前も腕飛んだことあるの」
「二、三回くらいか…腕だけじゃなくて足も」
あっさりとユースは口にした。
どれだけ滅茶苦茶やって来たんだよと思った。
「腕……ごめん。俺のせいで」
コエが振り向き気味で言った。
「いっつも助けてられてばかりで、見てるだけで……この前だって」
コエはさらに続けた。
「だからあのとき強くなりたいって、大事なもののために強くなりたいって思ったのに……!また、守られて……結局何一つ変われてない」
うつむいたままで表情は見えなかった。
「それは…人がそう簡単に変われるわけないだろ」
「わかってるよ、けど……自分が許せない…」
うつむいたままなのは変わりないが、声が、握った拳がわずかに震えているのがわかった。
「悔しいか?」
問いかけても返事はなかった。
「じゃあ、その気持ちを踏み台にしろ」
「…え?」
ユースがそう言うとコエが顔を挙げた。
「いつまでもそうやって立ち止まったままじゃ変わろうとしても変われないだろ?それで立ち止まるくらいならそれを利用すればいい。」
ユースは続けてそう言った。
「どうやって……?」
「さあ、どうするかは人それぞれだけど…」
コエの問いにユースはさらに続ける。
「皆、二度と同じ思いをしないように……後悔しないようにと思ってるのは同じじゃないか?」
「後悔かぁ………」
コエが何か思うとこがあるのか考え込む仕草を見せる。
「あれ、どこ行くの」
「部屋。もう寝る」
どこかに行こうとするユースにコエが声をかけた。
そういえば夜ももう遅い。
「…ありがと、いろいろ聞いてくれて…」
ユースは返事をしなかった。
「…俺とお前は似た者同士だな……」
ぽつりと呟いてそのまま立ち去っていった。
廊下はやけに静かだった。
***
町の通りはまだ朝早く人も多くない。
その人の少ない通りをユースは歩いていた。
腕を切り落とされて早くも一週間がたったが腕はまだ動かない。少なくともあと一週間はかかるらしい。
あれから作戦を立てた結果、しばらくは森を探索してみることになった。森のどの辺りに廃墟があるのかも把握した上で本格的に開始したほうがいいとの結論になった。
しかし、悠長にもしてられないので手分けして廃墟の位置を把握している。
ユースは怪我のことがあるため編成からはずされていた。なんとか早く復帰したいが回り(特にスバル)からはゆっくり休んでと言われる。彼らを見ているだけではなんだかもどかしい。
そんな思いを抱えて通りを歩いていく。
ふと、小さな路地へと続く道が目に入る。そういえば、ここを通れば近道になるんだったか。
ユースは路地裏へと入っていった。……その後を追う影も後をついていく。
ユースは突然振り返り、その影に左の拳を入れた。
「ひぃいいっ!!」
間一髪で拳をよけ、拍子抜けた声が上がる。
「………また、お前か……」
「いきなりひどくない……?」
ひどく驚いた顔をしたコエが立っていた。ずっとさっきから後をつけてきたようだ。
「コエくん?大丈夫?」
後ろからひょっこりとカピラタも顔を覗かせる。カピラタの尾行はだいぶ上手かったと思った。
「なんでつけてきた?」
「アリマに頼まれた……」
「そうそう、監視ってやつだよ」
コエの言葉にカピラタが付け加えた。
誰にも気づかれないように宿を出てきたのだが気づかれていたか。
「なんで出てったのって風が聞いてるよ。ねぇ、なんで?」
カピラタがユースに問い詰めた。
「別に……特にたいしたことねぇけど…」
「じゃあなんで黙って出てくんだよ」
コエにそういわれてユースは顔をしかめた。
「あーもう、ついてこい…」
ユースは諦めた顔をして言った。
三人は路地裏を進んで行き、ある通りに出た。その三人が出てきた路地の真ん前に目的地はあった。
「…鍛冶屋?」
コエが看板を見て言った。
「そうだ。槍を取りに来た」
「あ、欠けちゃったって言ってたね」
カピラタの言う通り、この前の戦闘で槍か欠けてしまったのだ。
変わりに出しに行ってくれたアリマいわく、ちょうど近くにあったここの鍛冶屋に駆け込んだということだ。
店はすでに開いているらしく灯りがついている。
三人は店の扉を開けた。
中はそこまで広くないのにも関わらず物で溢れ帰っている。左の壁には値札のついた重々しい斧や、メイス。反対側の壁にもこれまた重厚感がある盾や剣が壁に掛けてある。
その下や中央の商品棚にはさっきと変わって小さな短剣、さらにはガラス細工まで置いてあった。(どうやら店主が趣味で作ってるようだ)商品棚の下には半額と書かれた箱に安物のレイピアなどの剣が入っていた。
「お、お客さんか……」
三人がうろうろと店のものを見ていると奥から人が出てきた。
獣の耳を持ち、丸眼鏡を掛けた女だ。
女の姿がはっきり見えるとカピラタが「あ」と声をあげた。
一方女の方はユースの姿を見るなり勢いよく飛んで来るかのように掛けてきて、手を掴んだ。
「ユース!!久しぶり!!やっっと会えた!」
そう言うと、嬉しそうに腕をブンブンと振り回す。
ユースは女に振られるまま振られ続けている。
「え、え…?」
カピラタとコエはいまいち状況がつかめないが、この反応からすると……
「あのー、知り合いか何か…?」
「あーうん。……おい、いつまで振ってるんだ。離して名乗れ」
ユースが呆れた顔をして言った。
「あれ、右腕どうしたの」
女がユースの右手、右腕を触って「筋肉固まってなくない?」と言った。
「うん、カクカクシカジカで……って早く」
「あ、うん。」
女は取り残されたままの二人の方をくるりと向いた。
「えーと、この鍛冶屋の店主 、オブディッド・バーグです」
女はそう名乗った。
「あれ?君もしかしてこの前会った?」
オブディッドがカピラタを見て言った。
「うん!あのときはありがとう!」
カピラタが笑顔で言うとオブディッドも微笑んで返した。
「えーと、オブディッドさんとユースってどういう関係……」
「ああ……前のギルドのメンバー…」
「そうそう、元同僚」
コエの問にオブディッドがユースの肩に手を回しピースした。彼は毎日この人に振り回されていたのだろうか。
「それより、あれできてる?」
ユースがオブディッドのテンションと対比的な相変わらずのテンションで言った。
「うん!出来てるよ!」
オブディッドは奥に掛けていくとユースの槍を持ってきた。
「結構奥の方まで割れてたよ。いやぁ、しかしちゃんと手入れするようになったね。昔は中までサビててもほったらか…ふごっ」
ユースが咄嗟にオブディッドの口を押さえた。
昔のどうでもいいことをペラペラと話されるのが嫌だから一人で来たかったのに。
「手続きとかするからお前らは外で待ってろ」
ユースにそう促がされると二人は頷いて外に出た。
「だいぶ明るい人だなあの人……」
「ユース君とだいぶ仲良しみたいだね」
コエはうーん…と唸った。
「仲いいというよりは……弟とかそっち系みたいな感覚かもしれないな」
コエは苦笑いをして言った。カピラタはその言葉の意味がわからず首をかしげていた。
***
「ラストアークでも上手くやってる?」
書類にいろいろ書き込んでいるユースにオブディッドは尋ねた。
右手が使えないので字が少し乱れている。
「まあ、それなりはやってるけど」
「右腕それ、たぶん切り落としちゃったんでしょ?」
彼女はヒーラーも兼ねていた。恐らく腕を触られたときの状態から悟られたのだろう。
ユースはこくりと頷いた。
「無理はよくないよ。もし酷くなったらまたここに来ていいから」
「傷が悪くなったのに鍛冶屋にか?」
ユースがそう言うとオブディッドはけらけらと笑った。
「……無理はよくないってあの人もよく言ってたよね」
「…………」
その言葉を境に二人の会話はしばらく停止した。沈黙が続き時計の針の音が大きく聞こえる。
その間に書類を全て書き終えた。
「これでいいか?」
「………うん、字が汚いけど」
ざっと書類に目を通し、オブディッドが言った。
「そこは勘弁してくれ。左手だと上手くかけない」
ユースは左手をヒラヒラと振った。
「まあ、そうか……昔にも会ったよねこういうこと」
そう言いながらオブディッドはユースに槍を渡した。
「それと、はい!これ」
オブディッドがとある物体を渡してきた。
「?なんだこれ?」
正八面体の五センチほどの物体だ。
「あの子たちにでも渡してあげてよ。困ったときはそれを投げればいいとでも言っておいて」
オブディッドはそう言って笑った。
「……わかった、ありがと」
礼を言ってユースは後ろを向いて入り口に向かって歩き始めた。
「そういえば……」
オブディッドがなにかを思い付いたように言った。
「あの人みたいになれた?」
ただそう言っただけだった。
しかし、ユースの歩みはその言葉で止まってしまった。
「あ、ごめん。変なこと聞いたかも……」
オブディッドの声が聞こえる。しかし、その声よりも時計の音、自分の鼓動などのたわいのない音がやけに大きく頭を侵食していく。
その侵食を振り払い、ユースは口を開いた。
「……さあ、まだまだじゃないかな…」
ぼそりとただそう言った。
そして「じゃあ、また」と、別れを呟いて店を出ていった。
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