LASTArk 9

再び生い茂る蔓がグレイクの足を捕らえる。しかし、すぐに蔓はルシフェンによって切り裂かれてしまう。

「おい、何回捕まってんだよ」

「だって避けるの難しいし……」

ルシフェンもそれは感じていた。自分の弟なので手の内は知れているのだがスピードや量がいつもと違う。

環境が見方しているのだろう。

ここは森のど真中だ。しかも流れている魔力もだいぶ強い。フォスターにとっては最高のコンディションだった。

アリマを背後に避難させ、フォスターは戦っている。

「どんどん生えて来ますよ?」

さほど魔力を使わなくても植物は育つしその辺りに生えているのを操ることもできる。

しかし、アリマが動けない以上長くここにいるのは良くない。フォスターは逃げるための隙をうかがっていた。

「……………」

二人はスピードタイプなのでなかなか隙を見つけられない。それに、グレイクの自由を奪ってもルシフェンがすぐに蔓を切り裂いてしまう。彼の方を捉えようとしても読まれている。

二人を同時に動けなくするしかないのか。フォスターはどうにかならないかと頭を回転させる。

「っ……仕方ないな…」

ルシフェンがそう呟いた。グレイクは不思議そうに彼の方をみる。

ルシフェンは指を鳴らした。

その直後、辺りが一気に闇に染まる。

「!?」

突然の出来事に3人は驚く。いきなり夜がやって来たかのようだ。

それはルシフェンから無数に飛び出した影によるものだった。

辺りの物をバキバキと、乱暴になぎ倒しながらフォスターたちにもの凄い速さで迫り来る。

「……っ!!!」

フォスターは咄嗟に盾として大量の植物を生やす。

盾はあっという間にズタズタに裂かれていった。

そして、気づくとグレイクが目の前にいた。

「おらぁっ!!」

グレイクはフォスターの鳩尾を強く蹴り飛ばした。

彼は二メートルほど後ろをに吹っ飛ばされた。

「っ!!フォスター!」

「ゲホッ!ガハッ!……っ」

アリマが名前を呼ぶも、倒れたまま激しく咳き込む。

「ようやくいいの入った……ってか、最初からさっきの使えばとっとと片付いたじゃん!」

グレイクがルシフェンに言った。

「はぁ?あれ相当魔力使うからいきなり打っ放すとあとあとキツイんだよ」

あれは正直決着を早くつけたいときに使う切り札のようなものだ。そう何度も使えるものではない。

二人はフォスターたちの方を向いた。

まだ起き上がれていないフォスターと動けないアリマの姿が目に移る。

「あっけないなぁ……ラストアークも」

そう吐き捨てたグレイクをアリマは睨み付ける。今すぐにでもぶっ飛ばしてやりたいとこだが体が全く言うことを聞いてくれない。

「あーあ……マジでつまんねーな……」

ルシフェン動かないフォスターに冷たい目を向ける。あのときは邪魔が入ったが今回こそはケリをつけられるか。

ルシフェンは吸っていたタバコを地面に投げ捨てた。

その時、二人の足元の地面が大きな音を立てて、バックリと割れた。

「「!!?」」

二人は割れた地面を蹴り後ろに下がったが次々と辺りの地面にヒビがはいっていく。

「なんだぁ!?これ?!」

グレイクは不安定な地面の上でバランスを取るのでやっとだった。

「やっぱめんどくせぇやつだなぁ!おい!!」

ルシフェンがそう叫んだ。

「……爪が甘いんですよ…」

膝をついたままだが起き上がったフォスターが言った。

「魔力のほとんどを使いきってしまうので……あまり使いたくはなかったのですが…」

フォスターがそう呟くと同時に大木の根子が次々と割れた地面から現れた。

根子は怒り狂ったようり暴れ始める。

「うわっ!!……っ!これヤバいって!!!」

暴れ狂う根を避けるのに二人は手がいっぱいだ。逃げるなら今だ。

「お前大丈夫か…?」

「大丈夫です…一応動けますから…」

フォスターはアリマを抱き抱えると、その場から駆け出した。暫く魔法は続くのであそこが落ち着く頃には完全に逃げ切れているだろう。

フォスターはどんどん森の中を進んでいく。鳩尾がまだ痛むが気にしていられない。

どのくらい進んだだろうか。もうだいぶ距離は開いたと思う。

フォスターは一度足を止めアリマをおろした。

「どうですか?体は」

アリマにフォスターは尋ねた。

「うーん……大分ましにはなったけどまだ…」

腕は多少動くようになったが足は全くだ。

おそらくアリマはバットステータスの魔法をかけられたのだろう。

「時間が立てばたぶん回復すると思うんですが……」

フォスターはコエのような回復魔法は使えないので今すぐに解除はできない。

「………悪い、なんか私のせいで…」

アリマがうつむき、そう言った。

「いえ、気にすることはないです。……元々私をかばってくれたのですからあなたが謝ることはありません」

フォスターがアリマをそう慰める。

すると、後ろの茂みからガサッと音がした。

「!!」

二人は後ろを振り返る。二人はまさかやつらが追ってきたのかと思ったが茂みから出てきたのはサリエラだった。

「!サリー!」

「良かった……!ようやく誰かと会えた…」

サリエラの顔が緩む。

「今まで一人だったのですか?」

フォスターの言葉にサリエラが頷いた。話によると皆を探して森を歩き回っていたら大きな音が聞こえたので向かってみたらアリマたちを見つけたということらしい。

「ところでアリマ。座り込んでどうしたんだ?具合でも悪いのか?」

「ああ、これはかくかくしかじかで……」

サリエラにざっとここまでの説明をする。サリエラはフォスターの話を聞いてたいそう驚いた顔をした。

「あいつらがここにいたのか!?で、アリマは大丈夫なのか!?」

「私は大丈夫。多分時間が立てば治るって……」

「そうか……けど、接触したとなると悠長にはしてられないな」

サリエラが腕組みをして唸った。

「とりあえず今は皆と合流を……」

「あっ!いた!おーいっ!!」

アリマの言葉を遮るようにカピラタの声が聞こえた。

声のする方をみるとそこにはカピラタとカリン姿が見える。

「あ!サリーさんもいる!みなさん大丈夫でしたか?」

カリンがそう声をかけた。

とりあえず先ほどはぐれた二人に加えてサリエラとの合流ができた。

残るはあと6人だ。

***

ガキンと、再び金属がぶつかり合う音がする。

テイラーとユースはどちらも引かず、激しい攻防を繰り返していた。

ユースは隙を見つけては閃光を飛ばす。前回とは違い光がある程度さすのでこれくらいはできる。テイラーはそれをかわした。

「君、光属性だけど僕は闇属性だよ?」

テイラーが笑いながらそう言った。

「なにいってんだ。そっちだって同じだろ」

ユースが光属性なのに対してテイラーは闇属性。

すべての属性を交えたときに生じる相性でみるとこの組み合わせは少し特殊なのだ。

光と闇は互いに相反する。昔から言われてきたように光が強ければ闇はかき消され、闇が強ければ光を飲み込む。

この戦闘においてどっちが有利なのかはぶっちゃけわからない。五分五分なのだ。

二人は互いにしのぎを削り続ける。

そんな中、端のほうに寄っているコエはなんとか吊り上げられたシンとルアルをおろす方法を考えていた。

どちらかでも降ろせられれば状態は有利になるかもしれない。

コエも元対人派閥なのである程度の心得はあるが相手がテイラーとなるとまず実力で負ける。前回それを痛いほど経験した。

しかも、それが災いしてか彼を前にするとうまく動けない。たとえ戦うことを選んでも足手まといになるだけだ。

だから、少しでもユースの負担を減らせないかと自分なりに考えた結果この結論へと至った。

コエは二人が吊り上げられている木の下へと歩いていった。

「二人とも、痛いところとか無い?」

二人は首を立に降った。とくに問題なさそうだが、長い時間このままも良くないだろう。

コエは吊り上げられた二人をみて考え込む。

「何か物を投げて糸を切れないか……だめだ、下手に切ったら二人が落ちちゃう…」

結構高いところまで吊り上げられているため、落ちて腰とかを痛めたら大変だ。それに、そんなもので糸が切れるとも限らない。

ルアルの電気で糸を焼ききれないか。……これも下手すると落ちてしまうし、なにしろシンが感電してしまう。

「登るしかないのか……?」

木の下でぶつぶつと呟きながら考えた抜いた結論から行くとこれしかなかった。

コエは木の幹に触れてみる。

凹凸は少ないが登れなくもなさそうだ。太さはちょっと太いが登るには問題なさそうだ。

木登りはあまりしたことがないのだがつべこべ言っている暇はない。コエが考え込んでいる間にも硬い金属音は聞こえ続けていた。

「…っよし、俺はできる!」

自分にそう言い聞かせコエは幹に手をかけた。

「おっと、降ろさせませんよ」

テイラーは武器の鋏を分解した。

そして、その片方をコエのほうに向かってぶん投げた。

「!!」

コエは驚いて咄嗟に避けることができなかった。

─あ、これはヤバい─

コエは目をぎゅっとつぶり時分の体に鋏が突き刺さるのを想像した。しかし、いつまでたっても痛みがこない。

不思議に思いコエが目を開けた。そしてすぐにその理由がわかった。

ユースがコエを守ろうとして伸ばした彼の右腕に、鋏が深々と突き刺さっていた。

「………っ!!」

「君って本当に邪魔が好きだねぇ……」

そう言うテイラーにユースは容赦なく鋏を引き抜くと、そのまま投げ返した。

テイラーは「おっと」といって避ける。

「ゆ、ユース…腕が……!」

傷口は大きく口を開け、ボタボタと大量の血が滴る。恐らく骨まで切れているだろう。

「別に腕一本使えなくなっても戦える。それより、もう少しばれないようにやれ」

ユースはコエにそう言うと槍を左手に持ちかえ、テイラーに向かって突っ込んでいった。

いくら腕でもあの量の出血は危ない。

コエはなんとかどうにか早く二人を降ろす方法を焦り混じりの頭で考え始めた。

「さっきより威力落ちてない?」

「………」

二人の武器がぶつかり合う。

威力が落ちていることをユースは否定できなかった。

右腕は動かない。完全にイカれてしまっていた。左手一本で戦うとなるとこれは避けられない。

ユースはテイラーに蹴りを入れようとする。

腕が使えないなら脚を使えばいい。

「足技とは…足もとって欲しいの?」

テイラーは攻撃を防ぎ、ユースに切り込んでくる。ユースも攻撃を防ぎ、仕掛ける。

再び攻防戦にもつれ込む。激しく武器がぶつかり合い、金属音が響く。

ユースの腕の痛みが鈍痛になってくる。痛みなどもう気にしてられない。蚊帳の外だ。

昔からそうだった。例えば戦闘で怪我をする。そのまま戦い続けるとどんどん怪我の痛みを感じにくくなっていくのだ。

理由はよくわからないがないが、なんか頭の中で天然の鎮静剤が作られるということらしい。

昔からよく無理をした理由の一つだ。その痛みを忘れてどんどん戦い続けてしまうのだ。

たが、今は昔よりも無理が過ぎていることが多い。それは恐らくもうひとつの理由だろう。

ガキンッ!!

ひときわ大きな音がする。今までのよりも重いテイラーからの攻撃だ。

テイラーの鋏を押し返し、一旦距離を取った。

なんとか片腕だけでも耐えきれたが、もうひとつ別の心配も出てきた。

「くそっ……」

今ので槍先が欠けた。ヒビも入っている。

破片で頬が切れたのか血がつっと垂れる。血で思い出したが腕の方の出血も無視はできない。

「どうした?もしかしてバテてきた?」

テイラーが挑発するように言うと、また距離を詰めてくる。

このとき、攻撃を防ぎながらユースはあることを思った。

「邪魔……だな…」

「?なにが?」

ユースがぼそっと呟いた言葉にテイラーが反応したがとくに答える必要もないので無視した。

テイラーは気にせずまた切り込んでくる。

「そうだ」

また、独り言を言った。

そして動かない右腕を無理に動かして……

テイラーの鋏で右腕を切りつけた。

「!?」

右腕は完全にユースの体を離れる。ゴトリと音を立てて腕が地面に落ちる。傷口から再び血が飛び散る。

その場の全員がユースのその行動にあっけにとられていた。

その隙を使い、テイラーに切り込む。テイラーは攻撃を防ぎ、距離を取った。

「凄いことするね……なんでまた…」

「使えないのについてても意味ないだろ」

テイラーの問いにユースが言った。

「頭おかしいんじゃないの?」

テイラーが呆れた笑みをする。

「そっくりそのままお前に返すぞ」

再び二人が距離を詰めようとしたとき、二人の間にどこからか真っ赤な炎が飛んできた。

二人が驚いて炎の発生源がいるであろう方を見る。

そこにはスバルがたっていた。

「やぁ、ユース君久しぶり………って腕どうしたの?」

「うっわ、どーしたのそれ……」

後ろからキロネックスも顔を覗かせる。

「三対一か……これじゃあ不利だな…」

テイラーはそう呟くと素早くその場を立ち去っ手いった。

「あ!待って!!」

キロネックスが声をあげ後を追おうとするも、スバルがそれを制する。

「スバル!キロ!」

コエがそう言った。

「あ、コエ君と…なぜか木の上にシー君とルアル君がいるね……」

「二人ともー?大丈夫なのー?」

キロネックスの掛け声に二人とも「大丈夫だよー」と、答えた。

その後四人でなんとか二人を降ろすことができた。

「ユースさん、腕大丈夫なの……?」

ルアルが尋ねた。右腕は今は止血をして布を巻いてある。取れた腕は自分の左手が持っている。わりと重い。

「大丈夫、……たぶん」

ユースは適当に答えておいた。

「しかも自分でとってたよね」

「え、何それ。どゆこと」

シンの言葉にスバルが強く反応した。

「ねぇ、なんで自分で取ったの?なんで?」

スバルがユースに問い詰めてきた。

スバルはなぜかは知らないがこういったことにうるさい。

「いや、使えないならついてても……邪魔だったし……」

「使えないならついてても……って、そんなので邪魔って言って自分の腕とるかぁ!?バカじゃねーの?!」

ユースの答えにスバルがキレた。胸ぐらをつかんでくる勢いだ。

「わ!ちょっと喧嘩しないで!!」

つかみかかるスバルをコエがなんとか制する。

「と、とにかく!!ユースもこれからあんなことしないように!くっついてる方が治りやすいんたがらな!」

コエはそう言うとさらに「もう治してやらないからな」と、念をおす。

「はいはい……」

ユースはそんなコエに曖昧な返事を返すのだった。

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