LASTArk past at justice 2

「よし、みんな今日はこのくらいできりあげるよ!」

「「はーい」」

グリークの声にメンバー全員の返事が飛ぶ。

今日もモンスター討伐のためにディアント・リッダーオルデンの面々は森に入ってはモンスターを狩っている。この辺りは犯罪被害よりもモンスター被害のほうがはるかに上回っている。

ユースは槍についた血や肉片を拭き取る。

これをしないと槍先が錆びる。このギルドに移る際にいい槍を親から渡されたのでまだ錆びにくいが、以前使っていた槍はサボったせいでめちゃくちゃに錆びた。

そのときはこっぴどく叱られたものだ。

このギルドに移ってから半年がたとうとしている。だいぶここでの生活に慣れた。それにともないギルドメンバーがどのような性格なのかもわかってきた。

副団長、グリークは基本的にしっかりとしていて親切だ。しかしたまに天然が出てくる。ついでにドジな面もある。

対人派閥でありながら治療魔法を得意としている珍しいパターンだ。

ちなみに最年長である。

オブデイットは土属性で学者でありながら鍛冶屋、さらに治療魔法もあるていど使え、マルチにこなす才女だ。腹黒い節があり荒ぶると口調も荒れる。

犬の獣人であり、鼻がよく効くらしユースが怪我を隠して治療をうけなかったら血の臭いでばれたことがあった。

センリは初日からユースをぶん投げたとおり寛大で大雑把な大男だ。東洋の出身らしく武器は大型の火縄銃。火属性ならではの高火力で遠距離攻撃が主な戦闘スタイルだが、たまに回りごと吹っ飛ばす。細かい調整が下手なようだ。

何回あの爆発の餌食になったか…。もう数えるのもめんどくさくなるほどユースは巻き込まれた。

ノアはどこかアンニュイな雰囲気。葬儀屋の用があるときは来なかったりする。

属性は氷なのだが得意なのは無属性の召喚魔法である。背負っている棺桶を媒体とし精霊等を召喚している。

棺桶は背負ってみたらわりと重かった。

以前、自分が死んだらノアのとこで葬儀してくれるのかと尋ねたら嫌な顔で「縁起でもないこといわないでよ」と、言われた。

面々のことをぼんやりと考えていると、ふとあることが浮かんだ。

もうギルドに入って半年がたっているのに団長と一度も顔を会わせたことがなかった。

ユースはグリークに尋ねてみたことがあるのだが、彼いわく今の時期ちょっと他業のほうでいろいろ大変らしい。暇を見つけて会いに来てくれるとは言っているということだ。

ユースは考え事をやめ、回りを見てみるとオブディットがモンスターの皮を剥いでいた。

「オブディー?何してるんだ?」

オブディーは彼女の愛称だ。オブデッドはユースに気付きこちらを振り向く。

「ん?ああ、今モンスターの毛皮って高値で売れるから……しかも熊型だからいい値段になると思って」

そう言って再び皮を剥がし始めた。

「売った金はどうすんの?」

「鍛冶の材料費とか経費に当てるよ。あと皮以外も油とかなら売れるし使えるから持ってくよ」

これが普通の熊なら肉を持っていって干したりして保存食につかえるのだが、モンスターは生で食べる以外は向かない。

「よーし!このくらいでいいかな」

オブデットは毛皮をまとめて鞄に入れた。彼女がいつも背負っている鞄はいろいろ入っている。

「怪我してる人いない?みんな大丈夫?」

グリークが声をかける。

「おー大丈夫だぞ!」

センリのよくとおる声が響く。

「ユース君大丈夫?」

前科があるため、こうあるたびに念を押される。

「大丈夫……今回は」

「「本当に?」」

隣にいるオブデットとノアの声がハモる。かなり疑われているようだ。

「大丈夫だって……本当に」

ユースがしかめっ面をする。

「あはは、ごめん。君ってだいぶ無理するから」

「うん、そう」

二人の答えはまさにそのとおりだった。昔からユースはだいぶ無理をしがちだった。

「まあそうだけど……」

「けど今回は本当っぽい」

「うん、血の臭いとかしないしね」

二人がそう言って笑う。ユースも呆れ顔で笑う。

「みんなー?そろそろいくぞ」

グリークの声がする。三人はその声に返事をすると声のする方へ歩いていった。

***

朝早くからギルドの面々は会議室に集められた。

ノアは早くから葬儀屋の用がありこれないとのことだ。

「えー、今日の活動なんだけど……モンスター討伐はいつも通りなんだけどギルド長から頼まれたことがある」

「お?なんだ?」

「また花壇の水やり?」

以前、実際に水やりを頼まれたことがあった。

「いや、そんなのじゃなくて本格的なの」

グリークがオブデットの言葉を否定した。

グリークが持っていた封筒から紙を一枚だした。みてみるとそれは手配書のようだ。

「この辺りで旅人の盗難被害や殺害未遂が多発しているんだ。犯人はこの辺りの山賊とされているからその調査とできたら取っ捕まえてほしいと……」

「いきなり本格的なこと投げつけてくるな、ギルド長は……」

ユースがポツリと呟いた。

「まあ、それはおいといてと…そのグループってたしかこの辺りを拠点としてたよね」

オブデットは地図を広げてペンであるところをぐるりと囲った。

「まあ山賊っていっても特に目立ったことことはしてなかったんだけど……なんか長が変わったらしくそこから活動が活発になってきたから大きな事件を起こす前に捕まえようって話しになった。」

「まあ、ようわからんけどとりあえずぶっとばせばいいのか?」

横からセンリの間抜けた声が飛ぶ。

「ぶっとばしちゃ駄目だよ。とっ捕まえてしごきあげるんだよ」

「ぶっとばさなくても、しごきあげなくてもいいだろ」

オブデットの言葉にユースが横やりをいれる。この二人はたまに過剰なことを言う。

「まあまあ落ち着いて……とりあえず今日はモンスター討伐もかねて調査するからよろしくね」

グリークの言葉で今日の会議は解散となった。

そして、用意を済ませ全員が集合すると目的地へと出発した。

ここから目的地までは遠くない。すぐ、森の前にたどり着いた。

最初は旅人も使う小さな小道沿いを歩く。

「オブディー、なんか臭ったりする?」

グリークがオブディットに尋ねる。

「うーん、いろいろ臭うけど……動物の臭いばっかだね」

「そうか。うーん……道沿いに探すのはこれだけにして森で探そうか」

一同は道沿いに歩くのをやめ森の奥を探すことにした。

「分かれて探したほうがいいかも」

オブディットの言葉に一同は賛成した。

話し合いの結果グリークとユース、オブディットとセンリという組み合わせになった。

「また吹き飛ばさないでよ?」

「大丈夫だって!ちゃんと加減するからさ!」

そうなんど言ってきたことか…。オブディットの顔は呆れている。

「じゃあきりが付いたら知らせてね」

そう言ってユースたちは二人と別れた。

二人は森の中を進んでいく。

「足跡とかあったら言ってね」

そういった人間の痕跡を探すために足元ばかりを見ている。しかしあるのはウサギなどの小型動物の足跡だけだ。

「ないな………」

「木の実の食べかすとかもないしな……お」

グリークが何かを見つけたように声をあげた。

「グリークさん、何かあったか?」

ユースはグリークの目線の先を見る。

そこにはすこし崖になっているところにぽっかりと大きな穴が空いていた。

「なにこれ?」

「たぶん熊の巣だな」

グリークは穴に近づき中を覗く。

「古い巣だから多分もう使われてないけど、こんなのは猟師とかが使ってたりしてるよ。勿論山賊とかもね」

そう言って穴の中に入っていった。

「おい、大丈夫なのか」

古い巣といってももし熊がいたら大変だ。

「うん、なんかとある民族の言い伝えで熊は巣に入ってきた人は襲わないらしいよ」

だからといってづかづかと入っていく人はいないだろう。ユースは正直心配だった。

しばらくするとグリークが戻ってきた。どうやら中に何もいなかったようだ。

「何かあったか?」

「特に何も。ここは猟師とかも使ってないようだな」

二人は巣穴をあとにして再び歩き始めた。相変わらず手がかりもない。

「だいぶ歩いたけどなにもないね……あっちからの連絡も来ないし」

「そうだな…あ、また巣穴をだ」

二人は再び巣穴を見つけた。

「熊がいる巣穴ってどんなんだ?」

「えっとね……草とかが丁寧に敷き詰められてたり、獣臭かったり…あ、あと冬だと入り口に氷柱があったりするな」

ユースは巣穴に近づき、中を覗いてみる。

中には枯れた草が丁寧に敷き詰められている。動物にもこれだけ器用なことができるのだろうか。しかもどこか獣臭い。

「……これ、なんかいそうだな」

ユースポツリと言った。

「大きな声とか出さない限りは出てこないよ。あと、古い巣穴を猪とかが使っていることもある」

グリークはそう言った。

「どうする?狩っておく?」

ユースが尋ねる。

「別にでてこないからむやみやたらに狩ることはないさ。とりあえず今は後に……」

グリークがそう言った時、足元の地面をなにかが跳ねた。

すこし遅れてダァンと、いう音がする。銃声だ。

「!!」

「おい、お前ら!金目のものを全部出しな!」

弾丸が飛んできた方と同じ方向から声が聞こえる。

そこに目を向けると、三メートルほどの崖の上から4、5人の男がたっていた。そのうちの真ん中にたっている男が拳銃を構えてたっている。

「盗賊か……ちょうど良かったな」

「なんだぁ?お前ら、旅人じゃないな?」

そういって盗賊たちは崖から飛び降りた。

「もしかしてお前らディアント・リッダーオルデンのメンバーか?」

「そうだよ。今日はちょうど君たちを探していたんだよ…」

グリークが自分のレイピアを鞘から抜いた。ユースも自分の槍を構える。

「おもしれぇ……いい年した大人とガキが俺らを取っ捕まえようってか、おい!お前ら!」

真ん中の男の声に他の男たちが武器を構える。おそらく真ん中の男はリーダーなのだろう。リーダーの男も拳銃をしまい剣を構える。

「おらぁ!死ねっ!!」

いきなり一人の男がグリークに切りかかってきた。グリークはレイピアで男の刃を受ける。

男が一回離れ距離をとると再び切りかかってくる。しかし、動きに無駄が多い。剣は素人なのか。

グリークは男の刃を軽々と弾き飛ばす。剣は綺麗な弧を描き飛び、地面に突き刺さる。

武器を失い男が狼狽えると、グリークは男の腹に蹴りを入れた。

「うぐっ」

男が呻き声をあげ、その場に崩れ落ちた。

「まずは一人……」

グリークは動かない男を前にそう呟いた。

「……っ!!このっ!」

別の男が今度はユースにナイフを向け突進してきた。子供だからとグリークではなくユースにターゲットを向けたのだろう。

いくぶんなめられたものだ。

ユースは槍を横に薙ぎいた。

男の持っているナイフが手を離れた……ように見えるた。

「う、あ…あああああっ!!!」

男が膝をつき腕を押さえて絶叫する。

男の体からナイフが握られた右手が離れたのだ。

傷口からは赤い血が垂れる。

ユース自身もナイフを弾き飛ばすつもりがやり過ぎたと思った。

まあ、治療魔法でくっつくからいいか。

「おい、やり過ぎ……」

横からグリークの声がする。グリークの方をみると彼は渋ったような顔をしている。

男は完全に戦意喪失だ。

「くっそぉっ………!!!」

リーダーの男が拳銃を構え一発打った。

ユースの真横を閃光が走る。

切れた髪が数本ヒラヒラと舞う。

「これは魔法銃だ!!銃だから弾切れがあると思ったら大間違い─」

男の言葉は最後まで聞かれることはなかった。

後ろからの轟音によりかき消されたのだ。

後ろをみると巨大な熊型のモンスターがこちらに猛突進してくるのが目に見えた。

グリークとユースは咄嗟に横に飛んで避けるが、男は間に合わない。

男は悲鳴を上げる間もなくモンスターの餌食となる。

骨が砕ける音、肉が引きちぎれる音とともに他の男の悲鳴が上がる。

モンスターに殺られた男が放った弾丸は恐らく、運悪く巣穴の中のモンスターに当たってしまったのだろう。

「ついてないなぁっ……こいつら…」

グリークが焦りの混じった笑みを浮かべる。

モンスターの猛攻は終わることなく他の男を次々と襲っていく。男たちも悲鳴を上げる間もなく鋭い牙や爪に捕らわれ絶命する。

モンスターが雄叫びをあげた。

しかしただの雄叫びではない。独特のリズムがある。

「…………マジかよっ!!」

グリークの顔色が一気に焦りの色に染まる。なにが起こったのかユースはわからなかったが、周りから獣の唸り声が聞こえ始めてわかった。

「仲間を……呼ばれた…!?」

動物には鳴き声を使い分けて意志疎通を図るものがいる。モンスターになるとそれがより活発化すると聞いたことがある。

モンスターたちは一斉に襲いかかってきた。とても二人だけで戦える量ではない。

「「うわぁあああっ!!」」

攻撃を交わし、二人は駆け出した。モンスターも群れとなって追いかけてくる。

しかしもう逃げるしか手段がない。

「ヤバい!!追い付かれる!!」

「と、とりあえず狭い木の間を通って……おわっ!!」

走りながらもモンスターの猛攻は飛び交う。

二人はなんとか木の間などをすり抜けてモンスターの群れを一旦巻くことに成功した。

だが、そんなに距離はない。すぐにまた見つかるだろう。

「はぁ、はぁ…………どーすんだよこれ…」

息も切れ切れのままユースが尋ねた。

「センリがいたらまとめて吹っ飛ばせるんだけど……」

「俺たちも吹き飛ぶけどな……はは…」

この際自分のことなど言ってられない。

「どうしよ……ほんと」

二人が打開策を考えてい間にもモンスターは迫ってくる。

二人が焦りながら唸っていると遠くから何か物音がした。

二人は一瞬モンスターかと思ったが、違った。

ガガッ……ガガッ…と、何かを引きずる音だ。

「なんだ?この音……」

しかもだんだん近づいてくる。

「この音は……」

グリークは心当たりがあるのか音のする方を見る。

するとそこには遠くに小さな人影が見えた。

人影はどんどん近づいてきて、着ているものや顔がだんだんはっきりしてきた。

人影の招待は女だ。赤毛の長い右下に縛ってまとめてある。

しかしユースは女の顔よりも彼女の着ているものに目が行く。

「………軍服?」

女が着ているのは紅色の軍服だった。なぜ軍人がこんなところにいるのだろうか。

女はユースたちの目先3メートルほどで立ち止まった。

「ん?なんか人がいると思ったら……君じゃんか!」

女は二人……と、いうかグリークを見るなり声をあげた。

「なんだ……あなたでしたか……」

グリークは女のことを山賊の残党かと思ってたのか表情がすこし緩む。

「ところで君。こんなとこでなにしてんの?」

女が尋ねる。ユースはいまいち状況がわからない。

この女は誰なのだろう。

「しっ!詳しくはあとで!!ちょっと今大きな声ださない……で」

グリークが小声でいうも、モンスターの唸り声が聞こえ二人は後ろを振り向く。

そこにはさっきのモンスターの群れがいた。

「………こういうことなんだよ…」

「なんだ、そういうことか」

女は二人の間を通り、モンスターの方に歩いていく。

「!!近寄るな…!」

「大丈夫だよーこのくらい」

ユースが止めるも女は歩いていく。

そして、モンスターたちが一気に女に襲いかかった。ユースはあわてて自分の槍に手をかけて戦闘体制に入る。

が、次の瞬間。

モンスターは真っ二つに切断されていた。夥しい量の血が飛び散る。

「………え?」

「さあーてと、久しぶりに仕事しようかなー」

女は大型の鉈をぶん回し、次々とモンスターを切り刻んでいく。

さっきのあの音は女がこの鉈を引きずって歩いていたためだったようだ。

さっきのモンスターの猛攻以上の女の猛攻に二人とも唖然としたままだ。

あっという間にモンスターの群れが片付いた。

「ほら、ご心配なく」

女がくるりとこちらを振り向く。持っている鉈は肉片や血がベッタリと張り付いている。

「会ってそうそうすごいことしますね……うちの団長さんは……」

「……え?」

グリークの言葉にユースは声を上げる。

「そういや、君の隣にいるのは誰?」

女がユースを指差した。顔にも返り血がついている。

「ああ、こいつは…前いったでしょ」

グリークの言葉に女は「ああ!この子がか!」

と、言った。

「君がユースティア君?」

「えっと……もしかして」

ユースがグリークに言った。

「うん、君の言いたいことはわかるよ…ほら、自己紹介しなよ」

グリークが女にそう言った。

女がユースの方をみて少し微笑んでこう言った。

「やあ、初めまして。僕が団長のボルディー・スコーピオンだ」

これがユースと団長の初めての対面となった。

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