LASTArk 6

この森は前の森よりは明るく視界が開けている。しかしこの森はこの森で別の問題点がある。

「………俺たち、どれくらい歩いているんだろ…」

「さあ、検討もつかないけど……」

圧倒的に広いのだ。いくら進んでも同じような景色の繰り返し。

いつしか方向感覚を失いかけそうだ。

あとから聞いたことだがここの森は地元民から「迷いの森」と呼ばれているらしく、最初からガイドなしで入る者はそうそういないらしい。

歩いているうちにだんだん日が落ちてきた。

「ちょ、ちょっと……一回休憩しません?」

ルアルがそう提案してきた。森の中を暗くなってから動くのは危ない。

四人は倒れた大木のそばで休憩をとることにした。

「ねえ、こっからどうする?休憩したらまた歩くの?」

コエが大木にもたれながら言った。

「でも、もう夕方だよ」

「今日は野宿するしかないかもな」

「えー……野宿かぁ……」

こういうときにカピラタがいれば便利なんだけどな、とコエは思った。

「野宿はいいけどどこで寝るの?」

せめて雨風をしのげるくらいのところで眠るほうがいいだろう。

「この木のなかでいいんじゃない?ほら、腐って中空洞になってるし」

シンが倒木の中を覗きながらいった。他の三人も覗いてみる。

たしかに中は空っぽになっていて人が四、五人は入れるほどになっている。

「じゃあ、ここで寝るか」

「全員が寝たら危なくない?誰かが来たときに」

ルアルがそう言った。

「交代で見張りをすればいいだろ。あと、この辺り危ないのは人だけじゃ─」

木の上でバリバリ、と何かを引っかく音がした。

─敵か!?─

その場の全員が一斉に音のした方を振り向く。

だが、木の上にいたのは敵ではなく…子熊だった。

その丸い目でこちらを見ている。

「なんだ……子熊か……」

「ビックリした、ちょっと」

「なんか、かわいいね」

四人は小熊を眺める。

「……………ん?」

ふと、ユースの頭の中にあることが浮かぶ。

─ちょっとまて、小熊がいる…と、いうことは…─

後ろから轟音に近いうなり声が響いた。

驚いて四人が一斉に振り向くと……巨大な熊がこちらに猛突進してきた。

「「「うわぁああっ!?」」」

皆なんとか突進をよける。が、熊の殺気は収まりそうにない。

「なんだ!?急に!?」

「気配もかんじなかったけど!?」

熊は気配を消し、足音を立てずに獲物に接近することが可能である。

熊の猛攻に四人は攻撃を交わすばかりである。

─……やっぱりか─

ユースは頭の中でそう思った。

おそらくこの熊はあの子熊の母熊だろう。母熊は外敵が近づくと自分の子を木の上に登らせる。そうやって子を守るのだ。自分達は気づかずに熊の巣に近づきすぎたのだろう。

ユースは一旦熊から距離を取った。

そして足を踏み込むと上へ高く、飛んだ。

飛んでいる際に槍を突きだし熊の首を後ろから、刺した。

熊の頭蓋骨は固いので頭は狙わない。弾丸すらも弾き飛ばすことがあるからだ。

熊は血を撒き散らしながら雄叫びを上げた。落下時のエネルギーも加わりかなり深くまでささったようだ。

ユースは槍に力を込め引抜き、熊から飛び降りた。

熊はズンと、音を立てて倒れた。

「し、死んだ…?」

シンが熊に近づいてみてみる。

「逆立ってた毛が倒れてるから死んでる。お前ら、怪我とかしてないか?」

「うん……なんともないよ」

コエがついた土を払いながら言った。

ユースは槍についた血を拭き取った。

昔、一回拭き取るのをさぼったら槍先がめちゃくちゃに錆ついてしまい、怒られて以来必ずするようにしている。安物の槍だったとはいえ、あれだけ錆び付いたのは正直びびった。返り血もついてしまったがそれはあとでいいだろう。

ふと、ルアルがこちらを見ていることに気づく。

「どうした?顔にまだなにかついてる?」

さっき落としたが、顔に血がまだついていたのか。ユースが尋ねるとルアルははっとし、視線を反らした。

「い、いや…なんか、すごかったからさっき…」

「あ、俺も思った……」

コエも続けてそう言った。

いきなりあんなのが出てきてああやれるのは慣れてるやつか、よっぽど腕に自信のあるやつぐらいしかいないだろう。二人がそう思うのは当然だ。

「……昔いたギルドは犯罪を取り締まるよりモンスターとかの討伐が多かったから、対人戦よりもこっちの方が慣れてる」

ユースはそう言っておいた。二人は納得したように「へぇ…」と頷いた。

「……こんな時にでもさ、お腹ってへるんだね」

ぎゅるると、音がしてシンが腹を押さえる。

「まあ、生きてるんだから…ね?」

「食べなきゃ死ぬわけだし……」

他の三人の腹の虫もグゥーっと、鳴いた。

「食べるものっていったらこれくらいしかないけど」

ユースはあの熊を指差した。

「熊って食べれるの?」

「しかもこいつ、熊っていうようモンスターじゃ…」

ルアルが熊の毛をさわりながら言った。日が落ちてきて薄暗かったため分かりにくかったがたしかに。普通の熊より毛がだいぶ赤っぽい。

モンスターは普通の動物に何らかの魔力が働いてできる。モンスターの方が体は大きく、毛の色も普通とは異なる色になる。

「モンスターって食べれるの………?」

コエが聞いてきた。

「焼くと固くなるしだいぶ臭くなる」

「えー……」

「なら、どうする?別の動物でもとる?」

シンが言ったがさっきよりもだいぶ暗くなっている。見つかる目星はたたないだろう。

「だから生で食べる」

「「「………え?」」」

三人の声が重なる。聞き間違いだろうか。

「え、今なんて………」

「え、だから生で食べるって…」

三人の「はぁああ!?」と、いう声が再び見事に重なった。

***

パチパチと、アリマの火が燃える。

アリマたちは焚き火を囲んで座っていた。

カピラタは疲れているのかうとうとしている。丸一日風の声を聞いていてもらっていたから疲労がたまっているのだろう。

カピラタの風の声だが今回ははなかなか苦戦している。カピラタいわく風の声を聞こうとしても声の他に音………みたいなものが混じってくるらしいのだ。

「なんでその音が混じってくるのだろうな……」

アリマは腕組みをして唸った。全員で原因を考えている最中なのだ。原因がわかれば対策もとれるだろうと思って。

対策をとればもっと皆を探しやすくなるだろう。

「うーん………憶測に過ぎないんですけど…」

フォスターが手を上げた。

「なにか思い当たることがあるんですか?」

カリンがフォスターに尋ねる。

「カピラタさんが聞ける声………声をきくとはちょっと違うんですが魔法にも似たような用法があります」

「用法?」

アリマの言葉にフォスターが頷く。

「前に話したようにどんなものにでも少なからず魔力は宿ります。その宿った魔力を感じとることで誰がどこにいるかを把握したりできるんです」

「へぇー……」

「結構な技術と力を必要とするのでできる人は少ないんですけどね。カピラタさんの場合は少し異なるんですが風を「感じとる」というところではよく似ていると思うんです」

二人が「なるほど」と頷く。カピラタのあの行為はまさに風を「感じとる」というのにふさわしいだろう。

「じゃあ、カピラタがもともとその「感じとる」という行為に特化していると考えると……」

「この辺りの魔力は強いから……その魔力を音として感じとってしまっている……と……」

アリマの言葉に続いてカリンが答える。

フォスターが「そういうことだと思います」と、言った。

「こうなると対策のとりようがないな……大地の魔力相手だと」

アリマはカピラタの方を見た。うとうとしていたカピラタが気付き「………ん?なに?」と、眠そうな声で答えた。

「あ、あの、フォスターさん……」

「はい?何でしょうか……?」

フォスターがカリンの方を向く。

カリンは「あ、えっと………」と、何かをためらっている。

暫くためらった後、カリンが口を開いた。

「この前……あのグループと戦ったとき…その、……「お兄ちゃん」って………」

「お兄ちゃん……?」

カリンの言葉にアリマはフォスターの方をみる。カピラタも目を覚ましフォスターの方をみる。

その場全員の視線がフォスターの方に注がれる。フォスターは真顔のまま何も言わない。

「………ごめんなさい。ずっと言わなければならないと思っていたのですけど……」

フォスターは悲しそうな笑顔を作った。いままでアリマたちが見たことないようなとても深い悲しみを持った笑顔を。

「………言いたくなかったらまだ言わなくていいんだぞ」

「そうだよ…風も無理しないでっていってるよ」

「ご、ごめんなさい……私があんなことを聞いたせいで………」

三人がそれぞれ言葉を口にする。

「大丈夫です。いつか話さなければならないことですし………それにアリマさんも話してくれたなら私も話すべきです」

フォスターはそう答えた。

アリマは「そうか」と言った。そして、気のしまった顔をしてフォスターにこう言った。


「ならば、教えてくれないか。……お前に何があったのかを………」

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