LASTArk 4
「……じゃあね、バイバイ」
悲しげな笑顔であの人は言う。止めようとしてもすぐに自分は光に包まれ落ちていく。
手を伸ばしても虚しく、空気を掴むだけ。あの人は届かない。
光はどんどん強くなっていきあの人の悲しげな笑顔さえ見えなくなる。
そして光のあまりにも強い輝きによって、目は焼けたように熱くなり……目の前は真っ暗になった。
「……………………」
ぼうっとした頭を無理矢理叩き起こす。隣をみるとスバルとコエが眠っている。
昨日もあれから歩き続け、宿にたどり着いたのだった。
ラストアークは規模の大きいギルドであるため名前は結構知れている。宿主に名前を出すだけですんなりと部屋を用意してもらえた。
二人を起こさないようにユースはベットから降りて、部屋を出た。
外へでるとひんやりとした空気がまとわりつく。この辺りは年間を通して涼しい気候だ。
階段の段差に腰かけて、持っていた地図を開いた。
実をいえばユースはこの辺りに来たのは初めてではなかった。自分がラストアークに来る前に所属していたギルドがこの辺りにあるのだ。
地図を閉じ、辺りを見渡してみる。まだ前のギルドから距離はあるが、記憶に断片的に見覚えがうっすらとあるものがちらほら見える。
ユースはくあっ、とあくびをした。なんだか眠ったはずなのに眠れた感じがしない。
今日見た夢は久しぶりだった。
ラストアークに来てからは全くあの夢をみなくなったのにな、と思った。懐かしい場所にやってきた影響なのかまたは別のものなのか………。
たぶん答えはでないだろう。
ユースは立ちあがり部屋に戻った。
部屋に入ったとき、コエたちは目を覚ましていた。
「あ、………おかえりぃ……」
寝ぼけた声でコエが話しかけてきた。コエは寝ぼけた目をこすり伸びをした。
スバルもあくびをしながら、寝癖のついた髪をわしゃわしゃと掻いていた。
二人とも起きてまだ時間がたってないようだ。
「どこいってたのぉ……?」
スバルも寝ぼけた声で話しかけてきた。
ユースはポツリと「外に出ていた」と、答えておいた。
***
全員の用意ができたところで、町での聞き込みを始めた。
ルアルとカピラタは広場の噴水のそばに座っていた。
聞き込みは前よりも難航している。
とりあえずエルの特徴をあげて見かけなかったかと、この辺りで不振な事件がなかったかを聞いてまわっているのだが……
「はぁ………この辺りってかなり平和なのかなぁ…」
ルアルがため息をついた。
エルのことどころか、たいした事件すらも起こってないらしいのだ。
さっき話をきいた人によると、事件といえばお隣さん夫婦が不仲で離婚したというレベルのことしかなかった。
「カピラタ、風何て言ってる?」
さっきから風の声を聞いてくれているカピラタにルアルが尋ねた。
「風がねー……この辺はかなり平和だって言ってるよ」
風がいうほどそれはもう平和だということなのだろう。
「……………………」
ルアルは頭を悩ませた。何時でも情報は大事だ。その情報がないなら闇雲に動いても無駄な時間を潰すだけだ。それにいつ、エルにどんな危険が降りかかってくるかもわからない。
「早く……助けてあげないと………」
あのとき、エルを取り返せなかった自分に腹がたっている。悔しくて悔しくて仕方ないのだ。
ルアルは自分の拳をぎゅっと握りしめた。
いつまで悔やんでいてもなにも変わらない。この悔しさを糧に必ずエルを取り返して見せると決心した。
「お、お二人さん見ない顔だね」
話しかけられて顔をあげると、女が一人たっていた。獣のような耳から彼女は獣人であるようだ。
「観光かなにかかな?」
女が笑いながら言った。
「いや、観光とかじゃなくて……」
「調査だよ」
ルアルをさえぎってカピラタが言った。
「調査?あ、君たちもしかしてどのかのギルドメンバーかな」
「はい、ラストアークです」
ルアルがそう言うと女は少し驚いたような顔をした。
「へぇー!すごいね!名前はこの辺りでも知れているよ」
「そ、そうみたいなんですよね………へへ…」
ルアルは照れながらそう言った。カピラタも誉められて嬉しそうだ。
「あの、ちょっといいですか?」
ルアルが女に尋ねた。
「ん?何かな?」
「えーと、今女の子探してて……緑色の髪を2つに束ねた女の子…」
ルアルが女にエルの特徴を伝えた。
だが、女はしばし唸ったあと、首を横にふった。
「ごめんね。見てないかも」
「そうですか…ありがとございます」
女は申し訳なさそうな顔をして「ごめんね」といった。
「あ、あとねー。最近この辺りで変な事件とかなかった?」
カピラタが女にそう尋ねた。
「事件?事件は………とくに酔っ払いの乱闘ぐらいしかなかったけど…………あ」
女がなにかを思い出したようだ。
「どうしました?」
ルアルが尋ねた。
「いやー…事件じゃないんだけど………この辺りの廃墟で人が出入りしてるって噂があってね。目撃情報とかもでているんだ」
「廃墟………」
二人は顔を見合わせた。もしかしたらあの犯罪グループかもしれない。
「その、人数とかどんなやつとか細かいことってわかりますか?」
「どんなやつかまではわからないけど………人数は一人、二人とかだったかな」
「ありがとうございます!」
ルアルはメモを取り出し聞いた情報を書き出していく。
「おねーさん。それどこの廃墟とかわかる?」
カピラタが追加で尋ねた。
「どこかは………まずこの辺り他のところとくらべてだいぶ廃墟が多いんだ」
「なんで?」
女の言ったことにカピラタは疑問をもち、理由を尋ねた。
「昔、大きな鉱山とかがあったらしくてね。今は閉山されているらしいんだけど、その時にたてられた住居や旅館が残っているらしいよ」
女はそう言うと広場から伸びる一番大きな道を指差した。
「この道をまっすぐいったところに森があるんだけどあの中にはもっとたくさんの廃墟があるよ」
「へぇー」
「ありがとございます。いろいろ」
「じゃあ頑張ってね」
そういって女は去っていった。
「ルアル!はやくみんなに伝えたほうがいいって風が言ってるよ!」
「そうだね!急ごう!!」
二人はガバッと立ちあがり宿のほうに向かってかけていった。
***
ラストアークの面々はそれぞれ宿に戻ってきたのだがどこもたいした収穫はなかったようで頭を悩ませていた。もうすこし場所を変えたほうがいいのかなと皆でそういっていたそのときにルアルたちが帰ってきたのだった。
やけに満足げな顔をして帰ってきたので尋ねてみると
「この辺りの廃墟のどれかをもしかしたらあのグループが拠点にしているかもしれない」
と、ルアルが答えた。
その言葉に一同は驚いた。
そしてラストアークの一行はその廃墟がいくつもある森のそばにやってきた。
「カピラタ、風がなにか言ってるか?」
「えーっとね、この森にいる可能性が高いって言ってるよ!」
どうやら情報はまちがいではないようだ。
「また森かぁー……前みたいなことにならないといいけど……」
スバルがそう呟いた。
「確かに」
「そうですね…」
「なにか対策しておかないとな……」
スバルの言葉に他の者も同意した。
「やっぱり手を繋ぐ?前は森に入ってから繋いだけど、ここから繋いで行けばいいんじゃない?」
キロネックスがそう提案してきた。
「じゃあ俺はキロとルアルの間以外………」
「「は?」」
結局コエは二人の反感を買い、今回もキロネックスとルアルに挟まれる感じとなった。
「何でまた………」
「グチグチいってる場合じゃない。いくぞ」
「「「はーい」」」
一行は森の中を進んでいく。この前の森とは違い木が生い茂るも所々光がさすところもありだいぶ明るいし、小鳥の声も聞こえる。
「前とはえらく違うね……」
「この辺りは動物とかも多いらしいですしね」
「なんか……楽しいね」
キロネックスが辺りをキョロキョロと見回しながらそう言った。
木の上に目をやると大型の鳥や小鳥、さらにはリスの姿も見える。
「あそこの森は何で動物とかいなかったんだろ…」
「たぶんあそこの森の魔力が弱かったからでしょうね……」
「魔力ですか?」
カリンの問にフォスターが答える。
「この世界の者にはたとえどんなものでも必ず魔力の影響を受けているんです。人の場合、その力が大きいか小さいかによって技量が決まります」
「へぇー………そうなんだ」
さらにフォスターは続ける。
「もちろん、今私たちが歩いている土…大地事態にも魔力は働きます。その働く魔力が大きいと、良質な土となり植物が育ちやすいのです」
「なるほど、より多くの植物が育てば餌を求めてより多くの動物が集まって来るわけか」
アリマの言葉にフォスターはうなずいた。
「ただ、魔力が大きすぎてもいいことばかりではありませんね……たとえば─
そうフォスターがいいかけた瞬間。
辺りの地面にに魔方陣が出現した。
「「!?」」
その場の全員が魔方陣に目をやる。魔方陣は緑色の淡い光を発する。
「っ!先頭体制!!!」
アリマが大声で叫んだ。皆それぞれの武器に手をかける。
「なにこれ……まぶしっ………」
魔方陣はその光をどんどん強めてめが開けられないほどになってきた。
「なんなんだよこれぇ………!!!」
フォスターは目をこじ開けて魔方陣の形状を確認した。そしてすぐ驚いたような声をあげた。
「………………これは!」
辺り一面が光で満たされた瞬間。
ドォオオオオオンッ!!!!!
爆音があたりに大きく轟く。爆発が起こったのだ。
一同は爆発の衝撃により宙を舞う。
「「「うわぁあああああああああ!!!!」」」
全員の悲鳴がハモり、森に響いた。
***
「ラストアークかぁ……」
女は歩きながら呟いた。
「と、いうことはあいつもいるのかなー」
一件の店の前にたどり着き店の鍵をあける。女はこの店の店主のようだ。
「またあえるといいんだけど……ふふっ」
カチャリと音がし、店の扉がひらくと女は笑いながら店のなかにはいっていった。
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