LASTArk 2
翌日の明朝、ラストアークの面々はそれぞれ出発の用意をしていた。
が、その時ギルド長から緊急連絡が入った。
「町で複数の遺体が見つかった。調査に向かってほしい」
と、いう内容だった。
他のグループに任せたいところだが他も他でいろいろ立て込んでいるらしい。
と、いうことでしぶしぶ予定を変更し出発は明日、今日はその事件の調査ということになった。
町中を進んでいくキロネックス、ユース、サリエラ。アリマによる指命メンバーだ。
「「「………………」」」
特に会話もなく黙々と進んでいく。
サリエラとユースは特に何もなく普通だがキロネックスはどこか気まずそうだ。
キロネックスにはこの沈黙がどこか気まずくて耐えられないようだ。
「……き、今日はよく晴れてるね…」
「うん」
「そうだな」
「…………」
キロネックスが話題をふってみるも空回った。
「……ねえ…みんなって準備とかできた?」
再び別の話題をふってみる。さっきの天気の話題はさすがに答えづらかったか。それを踏まえてキロネックスはこの話題を選んだ。
しかし、二人の答えは
「まだ」
「私はあともう少し」
「へぇ…………」
二人ともそれ以上話さなかった。見事に再び空回りだ。
この二人、なかなか手強い……。
そうこうしているうちに現場近くの路地裏前にたどり着いた。
「ここか」
路地裏の入り口は規制のためのロープがかけられている。
サリエラが路地裏を覗きこんでみるも遺体などは見当たらず奥へと薄暗い通路が続いている。今回の現場はだいぶ奥のようだ。
「遺体ないね……」
「話の通りだいぶ奥のようだな、行くぞ」
三人はロープの間をくぐり奥へと進んでいった。
路地は日中にも関わらず火が 全く当たらずひんやりと湿っていて薄暗い。それに所々ゴミなどが散乱しており、この前の森同様だいぶきみが悪い。
「ねえこれどこまで行くの?だいぶ奥まで来たけど……」
キロネックスが眉を潜めて尋ねた。
「思ってたよりも結構歩くな……」
先頭を歩いているユースが答えた。
道幅が狭く物も多いのでサリエラとユースは持っている武器がたびたびどこかに引っ掛かりそうになる。
「今どの辺なんだ?これ」
「さあ……全くわからないけど………………ん」
サリエラの言葉に応答しようとしたユースが不意に足を止める。
「どうしたの?」
「……あったぞ」
ユースが指差した先にあったのは……
路地の少し開けたところに転がっているバラバラの複数の遺体だった。
「ひっ………」
あまりにもバラバラの遺体を初めてみたキロネックスは思わず声をあげた。
手足をバラバラにされているものや頭と体が離れているもの、胴体が真っ二つのもある。地面に飛び散る夥しい血の量がその凄惨さを物語っている。
「びでぇなこれ……」
「ここまでバラバラだとは……」
三人はしばし突っ立っているままだったが、調査に入り始めた。
遺体は頭の数からして4つ。すべての遺体が手足を切り離される等のバラバラ殺人事件。
メモをとっているサリエラの横からキロネックスが顔を覗かせる。
「なんか、この前のコエくん。こんな感じだったよね………」
「そうだな…コエは治療魔法が使えるから、体の異変とかの耐性がだいぶあって生きてられたけど」
遺体をみる限りこいつらはおそらく普通のチンピラだろう。
「コエくんと同じやつにやられたのかなぁ……」
「あの魔属か?」
サリエラの顔が険しくなる。その顔からには明らかに憎悪がにじみ出ている。
サリエラが魔属を嫌っていることはキロネックスは知っていたが詳しい理由は尋ねたこともない。
誰だって言えない事情の1つや2つはある。キロネックスだって例外ではない。これはこのギルドの暗黙の了承だった。
「………いや、違うな」
ユースがしゃがんでこちらに背を向けたまま二人の会話に入ってきた。二人が話している最中も黙々と遺体を調べ続けていたようだ。
「多分これは別の犯人の可能性が高い」
ユースは立ちあがりサリエラたちの方をを向いた。
「え?なんで?」
キロネックスは首をかしげながら尋ねた。サリエラも疑問に思っているようだ。
「これを見てみろ」
そういって転がってた腕を拾い上げその傷口を二人の前にズイッとつき出した。いきなりのことで二人から「うっ」と、声が漏れる。
容赦なく見せるのはどうかと思いながら二人は傷口を観察し始めた。
傷口からはまだ血が滴っている。切られてまだそんなに時間はたってないと思う。キロネックスはそれくらいしかわからなかったが、サリエラは
「………傷口がきれいだ」
ポツリとそんなことを呟いた。
一瞬キロネックスは意味を取り違えて硬直したが、すぐに意味を理解しなおした。
コエが負ったのは傷口が不均一でもぎ取られたような傷だった。回復が遅れたのもそのせいだろう。
一方今回の傷口は平たんで均一。どっちかと言えば刃物でスパンと切り落とされた傷だ。
「急に戦法を変えてくるとは考えにくいしな。犯人が一緒ならこの傷口ももぎ取られたような感じだろそれに……」
ユースは何歩か歩きまだ血の乾いていない血溜まりのそばに立った。その後に二人も続く。
一見普通の血溜りだが所々血の薄いところがある。血になにか液体でも混ざっているようだ。
「混ざっているのは水か……?」
サリエラの言葉にユースは頷いた。
「じゃあ犯人は水属性ってことかなぁ」
「その可能性が高いな。あと遺体の数から考えてあのグループの犯行の可能性もある」
「あのグループで水属性といったら……」
全員真っ先に思い付くのはマリアだろう。皆アリマと瓜二つの少女の姿を思い浮かべる。
「けど、もう一人いなかったっけ?」
キロネックスがそう言った。
「ああ……俺の腹をぶち抜いたやつな…」
キロネックスとサリエラは直接戦ったことがないため容姿などはわからないが、ユースにははっきりとロウディアの顔が頭のなかにあった。これが彼女の犯行だとすれば改めて彼女もれきっとした犯罪者なのだなと思った。
「マリアがどんな戦いかたをするか知らないしね、私たち」
「アリマに聞くのが一番だな。とりあえず調査はこれくらいにして一旦戻るか。遺体回収は他のところがしておいてくれるらしいし」
「そうだね、さっさと戻って明日の用意すましちゃお!」
サリエラとキロネックスは踵を返しもと来た道をたどっていく。
ユースも後を追いかけようとしたが足元になにかが落ちているのに気づく。
拾い上げてみるとそれはナイフだった。被害者の持ち物だろうか。ユースは何か気になることでもあるかのようにまじまじとナイフを見つめている。
そうしているとキロネックスの呼ぶ声が聞こえてきた。我に帰り、キロネックスに返事をした。
そして拾ったナイフを懐にいれると二人の後を追いかけていった。
***
「─と、報告は以上だ」
「わかった、ありがとう」
アリマの言葉にサリエラは椅子に腰かけた。
サリエラたちが帰ってきたことによりいったん全員会議室に集められ報告が行われた。
そして明日の事があり早めに会議は解散された。
解散した後もユースは椅子に座りあのナイフを眺めていた。
刃渡り10㎝ほど、本格的なナイフというより護身用という感じだ。血はついてなさそうなので今回は使われなかったのだろう。
「どーしたのそれ?ナイフ?」
スバルが後ろから話しかけてきた。
「事件の遺留品だ」
ユースがそう答えた。
「へぇー、そんなまじまじと見てるけどなんか気になることでもあんの?」
「別に」
そっけなく答えるユースにスバルは「相変わらず冷たいねぇー」と笑って部屋を出ていった。
スバルの背中を見送ると、ユースはナイフの刃の部分を布でくるみ、報告書の上に置いて部屋を後にした。
ナイフの柄には真新しい十字の傷が刻まれていた。
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