第3話 死神マリー②

「このリストの者たちは皆、不幸な最期を遂げる予定でした」


「そういう人間は付け入りやすいから、巻き上げるのも簡単だったよ」


「はい、確かに彼らは多くの金銭を失いました。中には破産にまで追い込まれたケースもあるほどです」


 当たり前だ。

 僕の占いはよく当たるように仕掛けられている。


 未来という不確で不透明なものからの解放は強い依存性を持つ。

 一度知ってしまえばもう占いの無い人生には戻れない、自分の未来に不安を持っている人間ならなおさらだ。


 だからやり方はドラッグディーラーとほとんど一緒。

 最初はお手頃な値段で簡単なものから、常習するようになったら徐々に値段を上げていく。


 そうして限界まで絞り取った後、適当に幸せな未来を指し示して解放してやる。

 人によっては多額の借金を背負うことにはなるものの、「あなたは不幸な運命の輪から逃れることができた」なんて言って、希望に満ちた毎日を送らせるんだ。

 もう自分に占いは必要ないと信じ込ませ、それ以降の余計なトラブルを回避するために。


 そう上手くいくものかと思うかもしれないけど、占いにハマりきった人間は冷静な判断ができなくなっている。

 僕の占いが、僕の言葉が、人生の全てであるかのように感じるんだ。


「なのに罰しにきたわけじゃないって? 自分で言うのもなんだけど、僕には裁かれるだけの理由があると思うよ」


「はい、普通ならそうですね」


 マリーちゃんが手をかざすとテーブル上のファイルがひとりでに開き、中から一枚のコピー紙が抜き取られ手元に飛んでくる。


 目を疑うような光景だけど特に何も言わなかった。

 どうせ種も仕掛けも無いだろうから、聞いたところで意味はない。


「たとえばこの女性、あなたと出会った当時は高校3年生ですね。覚えていますか?」


「ああ、懐かしいね。飲酒運転の車に両親を轢き殺されて自暴自棄になってた子だ。リストカットに売春、薬物乱用、それはもう酷い有様だったよ。それを利用して、最終的に慰謝料も生命保険もほぼ全額を毟り取ったっけ」


「でも彼女はあなたの言葉により更生し、その後は真っ当な人生を歩んでいます。1年遅れながらも高校を卒業し大学へ進学、その後就職した先で出会った男性と先月結婚したそうです。あら、雰囲気がどことなくあなたに似ていますね」


 そのどうでもいい情報はどこから出てくるんだと思いながら嘆息する。


「……それはあくまで副次的なものだよ。下手にお金を持っているからこそ生活が荒れていくケースは意外と多い。僕も結局はお金が原因で身を滅ぼしたわけだしね」


「重要なのは彼女が救われたという点です。あなたと出会わないままだったら、高校中退後数か月以内に薬物の過剰摂取で死ぬはずでしたから」


「仮にそういう運命みたいなものがあったとしてだ。僕は彼女をネギ背負ったカモとしか見てなかったし、より多くのお金を引き出すために彼女が望む言葉をかけたにすぎない。その結果として彼女が救われたのなら、それは彼女自身の力だよ」


 少し語気を強めて言うと、今度はマリーちゃんがやれやれといった様子で溜息を吐いた。


「あなたは自分を正当化しないのですね」


「当たり前だよ。僕は占い師じゃなくて、詐欺師だからね」


 僕と出会った客が大勢更生したというのも少し違う。

 本人が変わりたいと思っているかなんて関係ない、僕は僕が仕事をしやすいように誘導しただけだ。

 カウンセリングと言えば聞こえはいいけど、それはある種の洗脳でもある。


「……そうまで言うのでしたら、分かりました。あなたには犯した罪以上に人を救った実績がありましたので、それに対しての恩赦を与えようと思っていたのですが止めることにします」

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