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潜伏先のホテル、その地下駐車場でアルバート・フェザリーは通話を終えた携帯を圧し折り、集積場へと投げ入れた。例の物は無事船に搬入され、設置も完了した。これで明後日に控えた船上パーティー、否、船上オークションでのダイヤ強奪、そしてもう一つの目的の達成も、まさに目前となった。
奥底に秘めた企みを何度も何度もシュミレーションし、必死に笑いを堪える。長年の仕込みですべてがもうじき手に入る。笑いを堪える中、部下が駆け寄ってくる。
「クランチの野郎が保管していた武器の移送完了、皆うずうずしていますよ」
「しばらくの我慢だ。この一件が終われば、すべてが我が手中に入る。あのダイヤも、何もかもが」
思い描く最高の未来、アルバートの笑みに部下もニタッとした笑みをこぼす。
「舞台が船上というのは都合が良い。事故で片付けるにはうってつけの場所だ」
高笑いを我慢して歩き出し、一歩進むたびに未来へ向かっている感覚がアルバートの全身を駆け巡る。もうすぐ、もう少し、あと少し、と。
もうすぐ、もう少し、あと少し。
シャワーを浴び終えたアーサーはバスルームの鏡に映った自分を睨みつける。一年近くシャーロット一家のボスをやってきた。しかし、オーガストの言う通り、自分にはボスとしての素質はなく、厳しいものだったのかもしれない。しかし、先代ユージン・シャーロットが愛した組織、そう簡単に誰かに明け渡したくはなかった。たとえ、すでに組織が組織でなくなっていることを知っていても、守りたいと思ってしまう。
バスローブを羽織り、部屋に散乱したワインボトルの内、一本を手に取って直接飲んでいく。その最中、チャイムが鳴った。ドア越しに部下が声をかけてくる。
「ボス……アルバートが本格的に動くのはやはりオークション当日のようです」
「そっか……やっぱり」
あの欲深い人間のことだ、ダイヤも何もかもを一度に手に入れようとしてくるだろうとはアーサーも予想はしていた。そうなると、シャーロット一家の終わりも近いということだ。
「
「我々はボスの弾除けですよ」
「……馬鹿野郎」軽く笑って、アーサーは言葉を紡ぐ。「他の奴に言っておけ。死んでくれるなと」
アーサーは部屋の奥へと戻ってワインボトルをテーブルに置いた――ほとんどの部下がアルバートの手下になっていく。それはもう一年前、ユージンが暗殺された日から始まったことだ。信頼できる部下はユージンのことを心底尊敬し、信頼していた五名だけとなった。彼らには死んでもらいたくはない。私情を挟んだこの争いで命を落とすようなことだけは避けさせたかったのだ。
しかし、彼らは忠誠を誓い、アーサーに付いて行くと言った。ユージンの人望の厚さにはアーサーも嫉妬してしまいそうだった。
買いに行かせたワインもほとんど飲み干してしまった。明後日は――いや、とアーサーは時計を見て訂正する。
「明日は、すべてが変わり、終わる」
天を穿つ槍のように長針と短針が重なる。すべてが終わった時、我が身に明日はない。
「日本の酒を少し味わってみるかな」
閉め切っていたカーテンの隙間から月明かりが部屋の中へと伸びてくる。散らばる飲み干したワインボトルに反射し、足元に宝石が転がっているかのような幻想的な世界が広がった。
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