グリケルト・バーボンとクランチ・ハーバー。日本に入った各組織を束ねるこの二人の頭目を含めたメンバー全員が殲滅された。その情報が入って、オーガスト・フレデリックはすぐさま宿泊しているホテルの最上階レストランを貸し切り、数人の部下を引き連れ、深夜など関係無しに呼び出した今は亡き親友の一人娘――アーサー・シャーロットを怪訝な面持ちで待っていた。

 ユージン・シャーロット。

 オーガスト・フレデリックの幼少期からの仲であり、唯一心を開けた親しい友人であり、親友であった。ユージンの死後、その一人娘に遺した組織が今こうして例のダイヤに関わる騒動に首を突っ込んできたことに、オーガストは只ならぬ不安を抱いていた。どうしてこうなってしまったのか、それが自分の責任であるとオーガストは自らを責め立て、苛立ちから我知らずテーブルに拳を叩きつけた。揺らぐ花瓶の向こう、両開きの扉が乱暴に開き、入ってきたアーサーにオーガストが睨みをきかせる。両サイドに立つオーガストの部下を一人一人チェックするように見渡す。

「もう話は聞いただろう」

 アーサーはしばらく無言のまま淀んだ瞳をオーガストに向けている。遅れてアーサーの部下、そしてアルバートが入ってくると、すかさずオーガストは話を切り出した。

「アーサー、お前が何かした、というわけじゃねえんだな?」

「何もしちゃいねえよ。ただ、うちの下っ端数名が行方を眩ませた。もしうちの組織の下っ端共が勝手にやったことであれば……私の責任かもな」

「組織を束ねる頭が下層部の奴らを把握し、従えられていなかった、ということだろう。こいつはアーサー、おめえの失態だ」

 オーガストの気迫に満ちた声に言い返すこともできず、苦々しい顔でアーサーは拳を握りしめた。後ろのアルバートはアーサーを観察するような目で見ている。

「……確かに、下の奴らを抑制できなかった私に非がある……言い訳がましいが、私はまだ一年ほどしかこの組織の上に立っていない。完全に組織全体を把握できていないこともまた事実。私が未熟であると言えるし、それに反論することもできない。ケジメはつける。この件に関わった奴らはこっちで始末する……身内とはいえ、容赦なく手を下さなきゃ示しもつかねえ……そうだろ?」

 オーガストは去り際のアーサーに一言投げ掛ける。アーサーは振り返らず、アルバートだけが振り返った。

「おまえには、組織を束ねるには厳しいのかもしれんな」

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