2-8

ɪ


****************************


防御された。

完全に虚を突いたはずだ。


俺には窓から奇襲が来るのは分かっていた。

だから窓際を離れ壁に寄って身を隠していた。

予想通り突入してきた。

1人しかいなかったのも予想できていた。


この状況、完全に有利だったがそれを受けられた。

銃は使うつもりはなかったが咄嗟に放った。

それも今、


「あぶねえ。あぶねえ」


受けられた。

正しくは受け流された。

俺の左手の剣を受けたまま、相手は剣をスライドさせた。

俺が放った銃弾を剣の腹で受けた。

結果銃弾は弾かれ壁にめり込んでいる。


相手はベッドの上でうずくまるような体制を取っている。

俺はというと剣を押し当てているが事態は好転する気配がない。

膂力りょりょくで負けている。


ガンッ


剣をはじかれ、お互い距離を取る形になる。

相手が立ち上がり、窓から月明かりが射し込む。

全身が見えた。


髪はこげ茶色、ぼさぼさで整っていない。

髭も整えてないのか、無精ひげが目立った。

体躯はそれほど大きくないが、引き締まった体は十分な力を備えているように見える。

持っている剣は湾曲しており、サーベルの部類に見えたが随分と剣の幅は広い。

受けることや、長期的に使うことを想定した蛮刀にもみえる。

剣の柄、その端には真っ赤な布がくくられておりだらりと垂れていた。


男はゆらりと体を動かしたあと、真横に跳んだ。

壁を蹴りこちらに向かってくる。

荒々しい剣だと瞬時に理解した。

自分の右手側から凶刃が降りかかってくる。


銃と剣どっちを先に狙うか、選択するなら銃から狙う、そういう動きだ。

俺だって自分と対峙したならそうする。

銃のほうが圧倒的に殺傷能力が高いが、破壊しやすいからだ。

だからこそ相手が動いた瞬間に、俺は上半身をひねり左手の剣を右のわき腹に抱えるような構えを取っていた。


ガギン


鈍い音が耳に入る。

相手の剣は弾いた。

鍔迫り合いの形になるのは避けたかった。

こちらが有利だったにもかかわらず力負けしたことを考えると、鍔迫り合いで勝てる道理はない。


相手は弾かれた勢いを利用して振りかぶる。

その隙を逃さず改めて距離を取る。

即座に銃の弾丸が入っていたカートリッジを外し、次弾のカートリッジを装填しながら一歩だけ身を引く。

装填しきったころには次の攻撃が飛んできた。

即座にもう一歩下がった。


サスパッ


薄皮一枚切り裂かれた。

充分に距離を取ったはずだが、それでもギリギリだった。

暗い部屋で武器の射程距離を見誤ったか?

いや、そのはずはない。

事実、敵の初撃は受けきれた。


男と距離を取りなおす。

部屋は狭く、次の一撃を避けたとしても次はない。

受けきるのは困難だ。

次の一撃で何とかするしかない。


男が三度攻撃してくる。

上段からまっすぐ振り下ろす形だ。


サ ズダン


攻撃に合わせて男の剣をそのまま叩き割ろうとした。

結果は半分失敗、半分成功。

壊れはしなかったが、サーベルのような剣が床にめり込んだ。

今はこれでいい。

男が驚くような表情をしているのが見て取れた。

左手の剣を突きだす。


ガギン


再び鈍い音が響く。

床にめり込んだはずの剣が男の手元にある。

一瞬のことで理解が追い付かなかった。

今度は男の方が距離を取った。


自然とお互い動きを伺う形になっていた。

隙を見せれば必殺の一撃が飛んでくるだろう。

それは俺も同じで、相手が隙を見せるのを待っていた。


さっきまでは動きのある硬直。

今は動かないせめぎ合いといったところか。

この間を利用して改めて相手のことを考察する。


手合いとしてはかなり厄介だ。

まず銃弾の対処方法を理解していること。

次に力の勝負で不利であること。

加えて剣術の型がわからないこと。


理由としては最後が特にかなり重い。

床にめり込んだはずの剣が急に手元に戻ってきたカラクリがわからない。

剣術ではなく俺が知らない魔術の可能性もあった。


「厄介だ、、、」

「面倒だな、、、」


お互い似たような言葉をつぶやき、目が合う。

目が合った瞬間、男が笑い出した。


「ハハハハッ、あんた強いだろ!」

「…さて、そいつはどうかな」

「強い奴と戦う予定は無かったんだけどなあ。あんたも俺と一緒で”雇われ”だろ?」

「”雇われ”?何を言っている?」

「あれ?違うのか?」

「追手ではなさそうだな、、、」

「お前、公国の、、、えっと、ナントカ姫に雇われたんじゃないのか?」


内容は理解できないが、とりあえずこいつの目的は俺や俺の相方じゃないことがわかる。

それとも言葉巧みに剣をおろさせる作戦か?

そういう手合いには見えないが、気は抜かずに話を続ける


「ナントカ姫の名前は何だったか、、、ああそうだ!ノノチアだ!」

「ノノチア??」

「おいおい、その様子だと本当に知らないのか?それとも直接依頼されてねえのか?そんな余裕はなかったと思うがな」


首をかしげる男。

剣先は床に落ちている。

随分とあちらは脱力しているようだ。


「まあいいや。久しぶりにすぐに死なない人間を見つけたんだ。もう少しろうぜ」

「俺はそういうタイプじゃないんだ」

「そうなのか?まぁ関係ねえ、、、、けど!」


言い終わるタイミグで剣先がこちらに伸びてくる。

真下から振り上げるような形。

剣は床に落ちていたというのにその勢いは鋭かった。

受けずに横に避けた。

その時にカラクリが見えた。


男は剣の柄にくくられた布を右手で握りしめており、柄を握ってはいない。

よくよく思い出せば、最後の攻撃を受けられたときに剣を握っていた手は左手だった。

右手で布を手繰り寄せ、左手で受ける。

そうすれば剣がどこにあろうが一瞬で手元に戻ってくるわけだ。

おそらくさっき床にめり込んだ後に攻撃を止められたのはそういうことだろう。

そして今はその逆、布で剣を操ることで攻撃範囲を広げる。

そういう戦い方なのだ。


鎖鎌の短いバージョンといったところか。

改めて厄介だと思った。


攻撃範囲で負けているのは非常にまずい。

銃のほうが射程範囲は広いが、相手は防御の仕方を理解している。

できれば銃は必殺のタイミングで撃ちたい。


相手の攻撃を避けながら通路につながるドアの方へと移動する。

部屋の中での戦いは不利だと思った。


「おい、逃げんのか!そんなに強いのに!」

「さっきから言ってるだろ!俺はそういうのじゃない!」


男の攻撃を剣で受け、その勢いでドアを押し込みながら通路に出た。

瞬間、真横に槍の穂先が見える。


ヒュゴッ ドツッ


すんでのところで避けた。


「ほかにも敵がいるのか!!」

「てめえ!女の仲間か!余計なことするんじゃねえ!」


剣を振り回しながら男が新しい敵に向かって叫ぶ。

どうやら仲間がいたようだ。

仲良くはなさそうだが、、、


通路には手槍を持った人間が2人。

前には手練れの剣士。

後ろはどん詰まり。

状況は不利から最悪へと変わった。




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