2-4


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ダァンダァン ダァンダァン


絶え間なく銃声が聞こえる。

馬車が見えるところまで駆け戻るとそこには凄惨な状況があった。

馬車は横倒しになり、味方は銃弾を受けたのか半分は地に倒れている。

横倒しの馬車を盾に、残った兵士たちがしのいでいた。

あるものは弓を構え、あるものは盾でそれをサポートする形をとっている。


ノノチア姫の姿が馬車の外に見えた。

侍女に囲まれ、その周囲を兵士に守られるような形になっている。

だが兵士の数が足りていない。

回り込まれれば一瞬で瓦解しそうな守りだ。


「ヨエン!」


姫様がこちらに気づき声を出す。

そのまま姿勢が少し伸びる。


「姫様危険です。伏せていてください!」


ダァン


まずい。

今ので私の位置がばれた。

銃撃がいくらかこちらへ飛んでくる。

木に隠れ様子をうかがう。

姫様は馬車に身を隠しなおしている。

それを見て一息つくが事態は好転していない。


次の手を思案しながら銃弾をしのぐ。

銃は強いといっても距離が離れれば命中率は落ち威力も弱くなる。

陣形をしっかり保てば盾で防ぐことは可能だ、と上官が話していたのを思い出す。

そうでなければ帝国との戦いで公国側が押し込むはずがないのだ。


余計なことを考えている間にも状況は悪くなっている。

負傷した兵が1人増えており、馬車自体も銃撃にさらされ崩れ始め盾の役目が薄くなってきている。

よく見ればリアニは馬車の近くにいるが、ジェリーオットマン副長は見当たらない。


奇襲をかけるしかない。

そう考えていた。


状況は悪いが、個人的な立ち位置としては悪くない。

銃弾の雨をかいくぐり、森の中を迂回できれば敵の横をつける。

そう考え動き始めた。


幸い銃撃はこちらには向かってこない。

足早に移動する。


ダァンッ


ひときわ大きな銃声が聞こえた。

不安がよぎり馬車の方を見る。

胸のあたりが弾けるノノチア姫の姿が見えた。


理解が追い付かなかった。

いや、理解しようとしたくなかったのだろう。

静寂が流れた。

いや、流れていない。

時間が止まったようにも思えた。

でも確実に地へ倒れ込む姫様の姿がゆっくりと目に入る。


とにかく混乱したことだけはわかった。

すぐに怒りが込み上げてきた。


憤怒の気持ちが沸き上がり、激昂し、号怒した。


「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


先の作戦は消え去った。

盾を構えて敵兵に突っ込む。

10人は超える敵兵を確認する。

統一された鎧が敵兵であることを認識させてくれたのを覚えている。


ダゥンダゥンダゥン


銃撃が自分に浴びせられるが関係なかった。

何発かは足や腕に当たり、1発は腹部にもらったが止まることはなかった。


「あああぁぁぁあっ!」


ズダム


眼前まで迫った敵兵士を深く突き刺した。

鎧ごと胸のあたりを突き刺す。

いや、正確には槍でえぐった。


ダァン


腹部にもう一発貰った。

だが足は止めない。

いや、止まらない。


近くにいた敵兵に槍を伸ばす。

的確に急所を突く。

鮮血が噴き出した。


「な、なんだこいつ!人間じゃないのか!?」


敵兵の恐れるような声を聴きながら槍を引き抜く。

3人目の目星を付ける。

銃を構えて狙ってくる兵ではなく、逃げようとしている兵が目に入った。


逃がそうという気は起きなかった。

皆殺しだ。


駆けながら槍を上段に構える。


「あぁあっ!」


背を向け逃げる兵士へ投げつける。

首元に突き刺さりそのまま兵士は倒れた。

近づいて槍を拾い上げ、また周囲を見回した。


そこからは一瞬だったようにも思えるし、長い時間だったようにも思える。


走る。

突く。

駆ける。

薙ぐ。

跳ぶ。

刺す。

それの繰り返し。


幾度かして槍を拾い上げた時には周囲に生きている敵兵の姿はなく、今度こそ静寂が訪れていた。

自分の傷を確認しようと腹部を触るがよくわからなかった。


「いや私のことなどどうでもいい、先に姫様の無事を、、、」


顔を上げると姫様が走ってくる姿が見える。


「幻か、、、?」


そのまま抱きつかれた。

姫様が声を震わせながら声を出す。


「もういいですよ。。。ヨエン、、、もういいのです。。。」

「ひめ、、、様?」


感触がある。

幻ではないことがわかるまで時間がかかった。


「ヨエン、大丈夫。私は大丈夫ですから、、、」


何があったのかよくわからないがとにかく片付いたことは理解した。

姫様の手が私の胸元にある。

感覚はなかったが、どこか心地よかったのがその時の最後の記憶だ。





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