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「あれがノノチア姫が乗る馬車とその護衛です」
街道から少し離れた見晴のいい丘の上。
女が俺に言う。
名前は何だったか、会った時に聞いたが忘れた。
「兵士は10人くらいか?思ったより少ないな。それでどいつが俺の目標なんだ?」
「貴方様の目標はノノチア姫ですよ。わかっていますか?」
「……そうだな」
適当に女と話しながら目標を探した。
隊の中にやたらと周囲を確認している男がいる。
「あいつだな、、、」
「……」
「こっからは俺の好きなようにやらせてもらうぞ」
「えぇ、かしこまりました。ただ、目的だけはお忘れなきよう」
目的?
俺に目的なんかない。
仕事はこなすが、面白いほうがいい。
ただそれだけだ。
~~~
バラム・ルヴリコ。
俺の名前だ。
傭兵稼業で食っている。
物心ついたころには海賊に育てられていた。
海賊の仲間に聞けば誘拐した子供の中での生き残りだそうだ。
そのまま海賊の1人として色んなところで略奪を繰り返していた。
善悪など分からずただただ生きていた。
あの時は楽しかった。
飛び交う矢弾、激しい剣戟の音、時には火薬の樽を船に仕掛けて発破することあった。
いつ死ぬかわからなかった。
それが面白く、心が常に沸き立っていた。
俺の体が成長を止めて10年くらいは経っただろうか、帝国の軍艦が俺たちをつぶしに来た。
思いのほかあっさり俺たちはやられた。
船は沈み、気づけば俺だけが陸に打ち上げられていた。
陸に上がってからは傭兵になった。
不思議と俺が海賊をやっていたことはバレなかった。
陸の戦いは船の上での戦いと違い簡単だった。
帝国側で傭兵をやると、公国の兵は槍や弓を持ってくる。
帝国の傭兵部隊は捨て駒のように扱われることが多かった。
俺はそこから抜けて、敵の背後を取る。
そのままリーダーの首をとった。
それの繰り返しだった。
いつの間にか金が手元に溜まっていた。
公国側で傭兵をやると、砦の守備をやらされることが多かった。
帝国の攻撃は銃での制圧射撃ののち突撃をかけてくることが多い。
狭いところでは銃を使えないのか近距離戦に切り替わる。
そうなるまでは退屈だった。
わざと砦の入口を開けて敵を招き入れたこともあった。
そうしないと俺は戦えなかった。
それがうまくいくと奇策を用いる傭兵だともてはやされた。
いくらか戦争を経たのち、村の守備として雇われた。
それこそ腕利きのなんとやらが仕掛けてきたこともあったが、俺にとっては敵ではなかった。
そういう輩を打ち倒す日々が続き、ついには村に住まないかと誘われた。
断った。
俺が求めているものはそういうものじゃない。
俺は戦いを求めていた。
退屈しない場所が欲しかった。
そういう時は真っ青な海、真っ青な空を臨んで戦う船の上を思い出す。
公国領内に入ったころ、いつもと違う仕事の話が舞い込んだ。
話を持ち込んできのは女だった。
「公国の姫さんの、、、、暗殺??」
「えぇ、いかがでしょう?あなたほどの腕なら可能でしょう?」
「残念だったな。俺はそういう仕事は請けない」
戦う気のない奴を殺すのは違うと思っていた。
もちろんそういうことをやったことが無い訳ではない。
だがそういうのを殺めた時、心に何か引っかかるものがあった。
それを言葉に出すのは難しい。
「それにもし成功したとすれば、俺は公国に追われる身になるだろ?いや、未遂だとしても追われるな」
「それは問題ないと約束しましょう。時間はもらいますが確実に公国であろうとも街の中を歩けるような状況を作りましょう」
「信じられないな」
正直怪しい話だった。
報酬はやたら高い。
そういう仕事は危険がつきものだ。
内容から言って金は渡すが、最後には罪人としてすべてをなすり付けられる可能性はあった。
わがままかもしれないが追われる人生は避けたい。
俺は好きなことをして生きたいのだ。
「女、悪いがこの話は」
「わかりました。あなたが本当に求めているのは強い敵なのでしょう?」
「あ?何言ってるんだ?」
「ジェリーオットマンという男がいます。その男は帝国との戦いで窮地にありながら第1公子を守りながら100人、200人を切り伏せたと噂になった男です」
「200人?それは言い過ぎだろう」
「えぇ、200人は噂です。私たちが調べ上げたかぎりでは切り殺した敵兵の数は47人でした。最低で47です」
「47、、、」
間違いなく俺が一度の戦場で戦って倒せる人数ではなかった。
心がうずくのがわかる。
「つまりそいつが今回、姫さんの護衛に付くわけか」
「左様です」
「……」
「いかがでしょうか?」
「……」
「では報酬を今の1.5倍にしましょう」
「いや、追加の金は要らない。代わりに生き残ったら俺の安全を確実にしてくれ」
「かしこまりました。では承諾いただいたということで、、、当日は私共の兵とともに、、、」
それからの話はしっかりと覚えていない。
ジェリーオットマンがどういう戦い方をするのか、武器は何を使うのか、身体はどんななのかとか、
色々と浮かんでは答えが出ないことを考える。
少なくともこうやって考えをめぐらすだけでしばらく退屈することはなさそうだと思った。
~~~
馬車と護衛の部隊を追う。
女が私兵をよこすといっていたが周りにはいない。
目標が近くにいる今となってはどうでもいいことではあった。
道の先に森が広がっている。
好都合だと思った。
「さて、それじゃあ行きますか」
俺は俺の心に従うだけだ。
そう思いながら、草木の中に体を潜ませた。
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