街道の襲撃

2-1


******************************


夏に入り始めたころだった。

陽の光は強く、頬に汗が伝わるのを感じる。

開けたところを歩いているのでその陽射しの強さに少し参っていた。

もうすぐ行けば森林がある。

涼しいだろうが無新声もやかましいだろうな。と思いながら歩を進めた。


公国の主城へ向けて進む私たちの速度は速くはない。

馬車に近寄って中にいる人物へ声をかけた。


「お暑くございませんか?姫様、」

「心配なんて無用ですよ、ヨエン。私は大丈夫です。皆様のほうが大変でしょう?」

「いえ、私共のことなどいいのです。責務ですので、」

「えぇ、そうですね、、、」


ノノチア姫は少し遠くを見るようにして外を眺める。

馬車にいるため陽が当たらないとはいえ中も暑い。

なのにその顔は涼しげだ。

目には憂いを含んでいるように見える。


「もう少しで渓谷に入ります。森が近いので日影があります。休憩を取りましょう」

「まぁ、それはよかったわ。ありがとう。ヨエン、」


顔が明るくなるのを見て少しほっとした。

機嫌を取るつもりで言ったのが後ろ暗く感じるほど姫様の笑顔は素敵だった。


ゆっくりと馬車を離れ、護衛の指揮を執っている男へ声をかけに行く。


「隊長、次の通りで渓谷に入ります。そこで休憩を取りませんか?」

「……ヨエン殿、森はあまりよくないと思いますが?」

「心得ています。ただ、姫様が兵士たちの様子を気にされているようでして、、、」

「そうですか。では行程も順調なうちに休憩しましょう」


死角が多い場所は危険だ。

街道を進んでいるので襲われる可能性は少ないといっても、公国の姫君の移動である。

よからぬ輩が誘拐を画策しないとは言えない。

それに今は帝国との関係も悪い。

帝国から暗殺を狙った攻撃を受ける危険性もあった。

そういう意味では森や林の近くで休憩をとるのは良策とは言えない。


そういった時のための私たちだ。

公国では軍とは別に親衛隊を立てている。

その親衛隊が10名、姫の護衛に就いていた。


親衛隊の規律は厳しく、出自が確かでない場合は入隊もかなわない。

というのが過去の親衛隊であったが、今は優秀であれば取り立てるのが方針らしく色々な人間がいた。

特に今、隊を率いているジェリーオットマン副長は年齢は30ながらも、軍に居た時の戦働きが認められ親衛隊に入隊、親衛隊副長という4人しか選ばれない役職に就いている。


実際私などは訓練で副長に勝てたためしがない。

まぁ私は親の七光りで入隊したようなものだ。

戦場を走ってきた人間とは違うのが当たり前だ。。。


パンパンッ


頬をたたいた。


「いや、今はそんなことは関係ない!姫様をお守りすることが大事なのだ!」

「???、、、ヨエン殿??」

「あ、いや。今のは、、、!」


キョトンとした顔で副長がこっちを見ている。

顔が一瞬で熱くなった。

完全に日光や外気のせいではない。


「えっとその、、、」

「ははは。ヨエン殿は冷静沈着なお方だと思ってましたが、どうやらほかの一面もお持ちのようですね」

「あの!今のは気にしないでください!」

「いえいえ、ヨエン殿こそお気になさらず。ヨエン殿のことを支えるようにも言われております。任務以外のことは内密にしておきましょう」

「た、助かります」


ジェリーオットマン副長はもう一度軽く笑いながら歩を進めた。

私もそれに続く。


相変わらず陽射しは強く、仕事の内容も責任のあるもので少し気持ちは重かった。

だが今のやり取りのおかげか気持ちは軽くなる。


「……よし、仕切りなおして頑張ろう」


今度は小声で気合を入れなおした。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る