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ワズが昼過ぎてからやってきた。

少し真剣な面持ちだった。


ミアはクローゼットの一件の後、特段問題なく静かにしている。

しきりに本を読みたがってはいるが。


彼女の謎は増えた。

なぜ銃のようなものを持っているのか。

あの時感じた悪寒のようなものは何だったのか。

彼女が抱えているなにかは計り知れない。


もっとし彼女について知りたいが、今は片づけられるものを片付けよう。


「ルタン、ワズとエニーを呼んできてくれないか」

「え」


ルタンはキョトンとした様子だったがすぐに2人に声をかけに行った。

俺は適当なところに椅子を並べる。

しばらくして3人が来る。

椅子に掛けるよう促した。

ミアは居ない。


「一体何なんだ」


ワズは少し怪訝そうな顔をして言葉を放った。

それに答えるように俺は話し始める。


「本当はこれを事前に現地の人間に話すのはルール違反なんだが、お前らは信用ができる。そう判断して話すことにした」

「イルクさん?」

「ルタン、スマナイが先に話を聞いてくれるか。俺は明日この村を発って都に戻る。調査を報告をするためだ。それは大した問題じゃない。予定通りだ」


正確には予定よりだいぶ遅れていた。

それがこいつらのせいだとは思ってない。

いろいろと不幸が重なったせいだった。


「それで俺は報告を次のように予定している。まず村の状況、家屋は建て直しが必要であり多くの建材と人手が居ること。次に収入、主としていた畜産は現在生産不可能、農産にシフトする予定だがそれも未定、土壌を見るにしばらく安定はしないだろうということ」

「おい。何言ってるんだ?イルク、」

「また畜産が難しい理由として成人男性が大きく不足しているという状況であること。以上により村の復興は非常に困難だということが分かった」

「おい!」


ガタンッ


ワズが立ち上がり胸ぐらをつかむ。

瞳は赤黒く見えた。


「俺らに故郷を捨てろって言うのか!」

「ワズ!」


ルタンが止めに入る。

エニーはこちらをにらんでいた。


「まだ話は終わってない。聞いてくれ。俺の仕事は報告だけだ。そこから先は国がやる」

「だからなんだ!結局俺たちにこの土地を捨てろってことだろ!」

「おそらくそうなるだろう。だが俺はこれに加えてお前らが優秀な人間であることをつたえる。普通なら違う集落への移民になるところだろうが、別の土地が与えられるよう努力する」

「それじゃ意味ねえだろうが!!」


間近で怒号が向けられる。

うるさくは感じなかった。

言われることは覚悟していた。


「もし親父たちが生きてたら、ここに戻ってくるだろうが!あいつだって!」


あいつ、っていのうはおそらくフィリのことだろう。


「それを、、、俺たちは、守らなきゃならないんだ、、、!」


ワズの手の力が一層強くなる。

息はかなり荒い。

うつむいた顔から涙がこぼれるのを見逃さなかった。


村の皆を守る、土地も守る、これからの生活も守る。

そういった重責が彼にはあった。


「どちらにしてもどちらかになるはずだ。それともどこか別の村に移民したいか?それはそれで大変だろうが」


移民を受け入れてくれる集落は少ない。

もし受けてくれても受け入れざるを得ない状況に瀕していたりする。

それは大体よくないことだった。

帝国の支配力が強かったり、治安が悪かったりなど様々だ。


「なんにしても俺は明日の昼前には発つ。どちらがいいか考えてくれないか」

「ねえ」

「ん?」

「、、、おじさんは、どうしたいの?」


エニーが聞いてきた。


「俺がどうしたい?」

「そう、おじさんは私たちをどうしたいの」


今まで似たような仕事はいくらかあったが、聞かれたことのない質問だった。


「俺の意思はない。これは仕事だ。だがせめて上手く行くようにはしたい」

「そう。それがおじさんの意思なのね」


矛盾していた。

仕事ならこんなことをワズたちに話す必要はない。

かなり肩入れしてしまっている。


「イルクさん、僕らには国の支援を受けるという選択肢はないんですか?」

「なくはないが、そういう村や街は大概、重要な港であったり街道沿い宿場町であったりすることが多い」

「ここは公国との国境近くです。それを理由には」

「それこそが国による接収される理由だ。この土地が接収された後は砦か何か築かれるかもしれないな」

「そう、ですか」


ワズの手はすでに離れていた。

ルタンは俺に質問しながらワズに腰掛けるよう誘導していた。


「ルタン、お前は賢い。発想することは強い武器になる。ワズ、優秀な力と結束する力がある。エニー、兄を支えてやれ。兄妹2人が合わされば倍以上の力が出る。新天地でやり直したほうがいいはずだ」

「それは、、、」

「……」

「それはイルクがそうしたいだけだろ」


ワズがつぶやいた。

俺は答えなかった。

いや、答えられなかったのかもしれない。


雨の音が聞こえた。

朝は曇っていたがついに雨が降ってきたか。

それとも彼らの心に反応したのか。


地面に黒いシミが増えていく。

雨の勢いは弱く上がるのは早いと思った。




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