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3日目の朝は静かだった。
昨日、ミアとエニーを寝かせた家の一階で睡眠をとった。
屋根のある状況で寝るのはやはり気が落ち着く。
昨日は墓を作り終わった後戻ると、村にはルタンが来ておりその日の経緯を説明した。
しばらく話をしたが新しい情報はなかった。
ルタンはルタンで協力してくれている。
ベッドへ向かうとエニーは起き上がっていた。
本調子というわけではない、しかしいくらか回復したようだ。
ミアと何か話をしているようだったが、話がはずんでいるのかはわからなかった。
そのあと村の3人はいつも通り避難場所へと戻っていった。
帰り際にワズから家を使っていいといわれた。
いくらか信頼は得たのだろう。
カーテンの隙間から明かりが入るのを感じる。
外は曇っているのかその明かりは弱々しかった。
しばらく薄目をあけながらボーとしていると大きな瞳が視界を覆った。
「おうわっ!」
「ん。おはよう。イルク、」
ミアだった。
俺の顔を覗き込んでいたがゆっくりと引いていく。
「な、なにしてたんだ」
「見てた。生きてるかどうか、」
「あ、ああ、ありがとう。ありがとう?」
「どうということはない」
えらいだろ、というような顔をして手を腰に当てている。
相変わらず意図がわからない。
「美味しかった。昨日の晩御飯、」
「あぁそうか糧食をバラして炒めただけなんだがな。よかった」
「それで?朝は」
「え?朝?朝メシのことか、そうだな。何か作るか」
すっかり彼女のペースだった。
そのうえ随分なつかれたように思える。
というより俺はミアに飯を食わせなければならないのだろうか。
準備をしながら、ちらりと彼女を見る。
椅子に座りずっとこちらを見ている。
まあ、何も持っていなさそうなので面倒を見るのも仕方ないか。
仕方ないのか?
疑問を感じながらも家のかまどを借りて朝食を作った。
昨日、ルタンにいくらか穀物を分けてもらったのでそれを砕いて鍋に入れる。
そのまま水を汲み入れ火にかける。
しばらく火にかけ煮込んでリゾットを作った。
山の中にあった香草を入れ香り付けする。
食料が少ないので、ここら辺の料理が腹を膨らすにはちょうどいいだろう。
「ほれ」
「ん」
手を出し受け取るミア。
右手の内側、小指と薬指にちいさなタコができてるのが見えた。
なにか握る道具、、、農具か何かで出来たのか?
「美味しい」
「そいつはよかった。だが悪いが食料が随分少なくてな。次からは期待するなよ」
「ん」
おそらく肯定の返事をして食事の手を進める。
彼女は随分と食べるようだった。
昨日は予定していた量の倍は食べていたので、持ってきた食料のほとんどがなくなってしまった。
帰路は帰路で何か食べられるものを確保しなければならない。
そんなことを考えていると予想外の一言が出てきた。
「弟を探しているの」
「え?」
「弟」
「弟?」
「そう。それでここに来た。だから教えて。国のこととか」
ミアの話し方はとぎれとぎれで時折順序もめちゃくちゃな時があるが内容は理解できた。
要は情報が欲しいのだろう。
「無理?」
「いや、いいだろう」
いいかどうかは不明だった。
だが心を開いてくれたのか、自分のことを少し話したのだ。
常識くらいは教えてやっても良いとは思う。
「だが改めて聞くがどこから来たかは『わからない』んじゃなくて『言えない』んだな?」
「うん」
他国のスパイの可能性はあるが、スパイであれば堂々と『言えない』とは言わないだろう。
適当に身分を偽装するほうがやりやすいはずだ。
「それじゃ、いくらか教えてやろう。何が知りたい?」
「その帝国?のこととかそれ以外にもいろいろ」
そこからは結構な時間を要したと思う。
帝国は400年前に初代皇帝がこのヤツィマを含むデュニア半島を統一した時にできた国であること。
公国は150年ほど前に帝国に所属していた公爵が帝国に反乱を起こし独立しできた国であること。
それ以外にこの半島には帝国が統一後、自治区として大小いくらかの国や街を帝国が認めていること。
多くはこの半島の最近の歴史とそれぞれの土地の地理などを説明した。
「本当にこんなことが知りたいのか?」
「うん」
「弟がどこに居そうかわかったか?それともヤツィマに居るのか?」
「ん。それはこれから探す。わからないから」
「そうかい」
会った時から思っていたが、服装や話し方を見るにこの半島の人間とは思えなかった。
デュニア半島は大きいが世界にはここよりも大きな島や大陸がある。
そもそもこの半島も、とある大陸の一部に過ぎない。
そう考えれば半島の外から来た、というのが妥当だろう。
いくらか内陸のにあるヤツィマに来た理由は不明だが。
「イルクは、今日はどうするの?」
「仕事だ。今日は土地がどれだけ活用できるか調べる」
「わかった」
「ミアは?」
「ここにいる。見てる」
「そうか」
見てる?何を見るつもりなんだ?
何かはわからなかったが害はなさそうなので好きにさせることにした。
外に出ると空は曇っていた。
季節的にも日が当たらないと少し寒い。
森の方からルタンとエニーが手を振りながらこっちに来るのが見えた。
ワズは居なさそうだ。
「参ったな。こんな僻地で子供のお守りをするつもりはなかったんだがな。まあ一番元気な奴がいないだけましか」
1日1回は仕事をよこした上司を憎むようになっていた。
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