1-9

wā


*************************************


妹はそう、親父から弓の手ほどきは受けていたもののそれは狩りの為であり、人を撃つものではなかった。

俺自身も妹に人殺しをさせるつもりはなく、人との戦いになれば手足を撃つように言っていた。

それが喉元に当たった。


狙ってやったのかどうかはわからない。

結果、妹はその手を汚したことになった。


妹はひとしきり泣いて落ち着いたのか目を腫れさせながら立ち上がった。


「もう、、、大丈夫」


そうは言うが、視線は泳ぎ定まっていない。

少なくとも盗賊二人の死体には向いていなかった。

もちろん今は無理に見る必要はない。

エニーに声をかけなおした。


「弓を取りにさっきの家まで行けたんだろ?いったん戻ろう」

「いえ違うの。裏の窓を破って家に入ろうとしたのだけどそれがなかなかできなくて。そうしたら上から弓と矢筒が落ちてきたの。それで兄さんを助けようとして弓を構えて、、、」

「いい。言わなくていいぞ」


肩に手をかける。

これで安心してくれればいいが、、、


「多分寝ていた女の子が窓から投げてくれたんだと思うんだけど、、、」

「起きたってことか」


だがそれを確認するにしても表側の様子を見なくてはならなかった。

自分たちのことで精いっぱいだったので表は何が起こっているかはわからない。

もしかしたらまだ盗賊の残りが居て歩き回っているかもしれない。


「行こう。エニーもついてこれるか」

「大丈夫。ついていく」


大丈夫とは言っているが顔色はまだ青白く見えた。

妹の手を引く。

その手はひどく冷たかった。

なるべく温めてやろうと強く握った。


さっきまで戦闘をしていた二人の死体を越え表側を静かに確認した。

死体が転がっている。

立っているのはイルクと1人の盗賊だった。

正確には盗賊のほうは立ちひざの状態で手を上げ降参しており、イルクはその男の顔に向けて鉄の筒のようなものを向けていた。


イルクの怒気を含んだ声が聞こえる。


「それが事実なんだな」

「あ、あぁ確かにそうだ。あれは雨の日だった」

「名前は?」

「わからねえ。商品のことなんかいちいち気にしてられるかよ」


ダゥンッ


さっきの音と同じ音、弾ける音が周囲に響く。

盗賊の男は体勢を崩し、新しく肩から流血していた。

よく見ると両足からも出血しておりそれが立てない理由のようだった。


「本当だっ!本当に知らねえ。あぁそうだ髪の色は黒で短かった」

「そうか」


イルクが剣を握りなおす。


「お前には悪いとは思わん。責任は取ってもらうぞ」

「全部話したじゃねえか!!」

「関係ない。許せ」


イルクの左手が剣を振り下ろす。

男の体に逆袈裟に剣は切り込まれ鮮血が周囲を赤く染めた。


他にも盗賊の死体が寝転がっているその風景は凄惨だった。

返り血を浴びたイルクがこちらに歩いてくる。


「ふたりとも無事か」

「あ、あぁ。大丈夫だ。でも、そのなんだ、全員あんたがやったのか?」

「そうだ」

「それにその右手のやつ。銃か?」


銃は最近他国から流れてきた武器で帝国が躍起になって量産しているものだった。

鉄の筒でできており火薬と弾を弾薬庫に詰めて火薬に火をつけると弾が筒を抜けて飛び出るという仕組みだ。

最近火薬への火のつけ方が火縄から火打石を用いたものになったことを接収した軍の兵士が言っていた。

銃は公国や他の隣国ではまだ自力で開発ができず数が少ない。

それを理由に帝国が戦争を仕掛けた、というのが最近流れている噂だった。

村を接収した軍の何人かも持っているのを覚えていた。

少し違いがあるが。


「銃は見たことがあったが、あんたの銃はそれよりだいぶ短いんだな」


色んな事が起こりすぎてどうでもいい質問をしていたと思う。

それが逆に自身を冷静にさせたと後になって理解した。


「こいつか?こいつは特別性だ。数少ない奴でな。。。。まあこんな話はいい。お前の妹が今にも倒れそうだ。家に連れて行こう」

「え?」


後ろを振り返るとエニーは真っ青な顔色をしていた。

視線が合うやいなやその場に倒れ込んでしまった。

すぐに抱きかかえる。

イルクも支えてくれた。

そのまま少女が寝ているはずの部屋まで運ぼうと提案する。

ベッドはもう一組あったはずだ。


視線を家へと向ける。

玄関にはさっきまでベッドに寝かせていた少女が佇んでいた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る