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赤い瞳が煌々と輝いていた。

もちろんそれは陽の光の反射であることはわかっていたが、それでも意思の強さを感じた。

その強さは昨晩のそれよりも強い。


「俺を殺しても何も変わらないぞ。次の調査員が来るか、それとも俺が殺されたことを判断に軍がよこされるかもな」

「知るかっ!」

「脅すつもりはない。それにここが接収されるのは自力で立つ力が無いと判断した時だけだ。まだわからん」


ワズを安心させるために言ったが、実のところこのヤツィマの村が自力で何とかなるとは思えない。

家屋の多くは建て直しが必要。

収入となる作物や畜産物が育つにも時間がかかるだろう。

いくらかの支援があれば復活するのも可能かもしれないが、それでも難しいと思えた。

圧倒的に人手が足りない。

危険な作業をするのにワズやルタン、エニーのような少年少女が出てくるあたりがそう言えた。


剣はまっすぐこちらを向いている。

ワズは出方をうかがっているのか動かない。

静かな時間が流れる。


「……」

「……」



ズガタガタンッ


近くから何かが倒れるような、もしくは落ちるような激しい音がした。

反射的に音が鳴った方向を見た。

家屋の中から音が鳴ったように見える。


「なんだ?家の中か?」

「あんた何かしたのか!?」

「あの家にはまだ入っていない」


ワズの意識も音の鳴った家に向いていた。

剣先はすでに床にだらりと落ちている。


「ワズ、今は休戦しよう。あれを確認するほうが先だ」

「おい!待て」


武器を手に取り家屋まで駆ける。

ワズも一歩出遅れたが追いかけてくる。

一番近くの窓まで近づき身を隠す。


「おっさん!」

「静かにしてくれ。周りを警戒していろ」


追いついたワズが騒いでいるのを無視して指示を出す。

もしかしたら夜のうちに野盗が家に入り込んでいた可能性もある。

先に状況を把握するほうが賢明だ。


「おっさん、周りに人が居るような気配はないぞ」

「そうか、ありがとう。次は2階と屋根のほうを見ててくれ。時折周りも見てくれると助かる」


ワズは素直に言うことを聞いてくれたようだ。

反抗的なんだか素直なんだかよくわからない。

そこが嫌いじゃないところでもあるんだが、今はいいだろう。


家の中はというと昨日見た家同様きれいに家具が並んでいた。

違う窓に近づき中をのぞく。

そこに異変があった。


2階へと続く階段の1番下、そこに人が倒れてるのが見えた。


「黒髪の、、、子供、、、か?」

「なに!?子供だって!」


ワズが窓を覗く。

覗いたのも一瞬のことで次の瞬間には家の中へ駈け込んでいった。

入るときに『フィリ』と叫んでいた。

子供の名前だろうか。


「さすがにまっすぐすぎるな」


剣を片手に追いかけた。

戸をくぐるとワズが少女を抱えている。

少女は首をだらりとたれ意識がないようにうかがえる。

あまり見慣れない衣服を身にまとっている。


口を軽く開き困惑しているワズに声をかけた。


「そいつが『フィリ』か?」

「いや、違う。村の人間じゃない」

「生きているのか?」

「息は、、、えっと、してる。生きてる」


ワズは少女が『フィリ』じゃなくて混乱しているのだろう。

少し詰まり気味に俺の質問に答えた。


「そうか。まあ誰でもいい。介抱しよう。意識が戻ったら事情が聴きたい」

「2階にベッドがある。そこに寝かせよう」


ワズが少し冷静さを取り戻したのか、彼女を抱えなおし動き出した。

その姿を見ながら改めて外に出て警戒しながら見回る。

特に問題はなさそうだった。


しかし謎は増えるばかりだ。

突如全滅した帝国軍の部隊、異様な崩壊を見せる家屋、謎の少女。

少し厄介になってきたな、と改めて仕事をよこした上司を恨んだ。





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