夕方の教室
今日、僕は放課後。教室に残った。残って何するかというと、一来先生が立つ教壇に立って誰も居ない教室を眺めてみるんだ。
好きな景色、昼間の賑やかな教室と合わせて、先生になった気分をして。
そして、写真を撮る。窓際の席、カーテンのすぐそこの4つの席をフレームに入れて。
僕含めた4人が好きな席、理由は揃って「落ち着くから。」一来先生も、この席が好きらしい。でも先生は「俺は教壇がお似合いだからな」って言う。僕らは窓際、先生は教壇。この位置関係がお決まりだった。「広い教室なのに、お前らみんな窓際かよ」って先生はよく笑うけど、
僕はそれが好きだ。なんでもない、当たり前って感じで。
「どうした眞嶋、1人で。」
「あ、一来先生。」
見回りに来た一来先生が声を掛けてきた。カメラを構えていて毛程も気づかなかった、もう下校時間はとっくに過ぎている。
「やば、もうこんな時間か。」
「もうみんな帰ってるよ。何してたんだ?」
寝癖の酷い頭をかきながら先生が眠そうに言う。カメラ持ってるんだから気づいてもいいのに顧問なんだから。
「写真撮ってたんですよ。」
「そりゃ分かるけどさ。何のだよ。」
「今度の僕達最後の文化祭で飾る写真です。」
3年生の僕達しかいない写真部は事実上、今年で一度終わりを迎える。今年の文化祭は写真部の最後の晴れ舞台と言ったら少し大袈裟かも知れないが。見せ場なんだ。
部長の僕はテーマを「好きな景色」に設定した。好きな景色。簡単そうだけれどありふれているだけあって切り取るのが難しい。最後に相応しいテーマだと自分でも思った。文化祭までまだ6ヶ月はあるけれど、この長期間で他の3人がどんな写真を撮ってくるのか楽しみだ。何より、
「一来先生も、ちゃんと撮ってくださいね。」
「わかってるよ。」
僕は一来先生にも撮ってもらうようにお願いした。3年間顧問をして貰ったし、折角だから。先生にも文化祭で飾る写真を撮ってもらうように。後個人的にどんな写真を撮るのか気になっているから凄く楽しみだ。
「いい写真、撮れたか?」
「はい、過去最高かも知れないです。」
「そりゃ良かった。んじゃさっさと帰れよ。」
一来先生はそう言うと教室の扉を閉めて鍵を掛け始めた。
「ほらほら、早く出ないと閉じ込められるぞー」
先生は無邪気な笑顔を見せて急かした。僕は急いでカメラを片付けると鞄を乱暴に持って、走って教室から出た。
「ホントに閉じ込める訳ないだろ。」
「一来先生ならやりかねないでしょ。」
「確かにな。」
先生はまた無邪気そうに笑った。
写真部、最後の年。大事にしていきたいな。
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