第35話 茜

後ろを振り返ると茜さんがいたので、ソウタは混乱した。


元の世界にいるはずの人間がこの世界にいるのだから混乱してもしょうがないだろう。


「私が何でこの世界にいるか知りたい?」

「あ、あぁ、そうだ!なんでこの世界にいるんだよ!」

「ソウタ君声が大きいよ!ほら、そこのカフェでゆっくり話しましょ」

「...そうだな」


カフェの中に入ると店員さんが茜さんの顔を見てから俺の顔を見ると何か驚いたような顔をしている。


「あ、茜さんにもついに彼氏ができたんですね!」

「残念、この子とはそういう関係ではありませ〜ん」

「なぁーんだ、それじゃあただのお友達?」

「そうだよ〜」


茜さんと気楽に話しているということは知り合いなのだろう。では茜さんはいつこの世界に来たのだろうか。


そんな事を考えていると茜さんに頭を叩かれた。


「そんなに私の事が知りたい?」

「なんで意味ありげな言い方をするんだよ」

「だってそうなのかなー?って思ったんだもん」

「はぁ、それで、いつこの世界に来たんだ?」


茜はこの話の前にもっと話したかったみたいで少しつまんなそうにしている。


「で、君はこの世界でも一人なのかな?」

「話を逸らしてんじゃねぇよ、さっさと言えよ」

「も〜、図星だからって怒らないの!」

「うぜぇ」


確かに茜さんには会いたかった、会いたかったんだがこういうめんどくさいところがあるという事を忘れてしまっていた。


「とにかく、いい加減話してくれよ」

「もう、しょうがないなぁ」


そしてようやく話してくれた。茜さんは二ヶ月前ぐらいにこの世界に飛ばされ、それからずっとここに住んでいるらしい。


「で、それ以外は?」

「え?私のスリーサイズを教えて欲しいって?どうしよっかなぁ?」

「誰もそんなこと言ってねぇだろが!」


あははっと茜さんは楽しそうに笑っているので、この世界に来ても能天気なままなんだなと思っていると、あることを思い出した。


「茜さん、旦那さんと子供はどうしたんだ?」

「え?私結婚してないよ?」

「おい、その冗談は旦那さんと子供がかわいそうだろ」

「いやいやいや、私本当に結婚してないって!」

「え、でもこの前言ってたよな?」

「あぁあれ?あんなの嘘だよってもしかして、あの嘘を本気にしてたの?あはははっ可愛いところあるじゃない!」


茜さんに背中をバシバシ叩かれながら言われた事実に少し混乱したが、この人の事だし結婚のことは嘘だろう。


そういえば茜さんの年齢って聞いたことないよな?


「茜さんって年は幾つなんだ?」

「...ソウタ君、それは女性に聞いちゃダメな質問だよ」

「茜さんなら別にいいだろ?」


そう言うと茜さんはあからさまにやれやれとしている。その姿をじっと見ているとようやく折れてくれた。


「...今年二十歳だよ」

「結構若いんだな、俺はてっきり二十g」

「え?十五歳に見えてたって?いやぁ口が達者な男の子だねぇ!」


俺が言おうとした言葉を遮り、自分の都合のいいように言いやがった。


「で、今まで何してたんだ?」

「ギルドで働いてたの」

「え?なんでそんなことしてたんだ?」

「ギルドで働いてたらこの世界のことが良く分かると思ったの。だからソウタ君がこの世界に来たことも知っていたんだよ」


このふざけた人がそんなことを考えていたことに驚いてしまった。


「じゃあステータスのことも知ってるよな?」

「もちろん!私の見る?」


返事をしていないのにステータスペーパーを取り出し見せてきた。


椎葉 茜 職業 魔剣士 Lv19


体力 30000


力 35000


魔力 38000


敏捷 32000


魔防 28000


<スキル>


自然治癒、自然魔力回復力up、毒.麻痺.催眠無効化、火輪、風刃、ライトニング、天刃、剣姫



これはすごい攻撃的なスキルばっかりだ。昔のことを思い出してみると確かに攻撃的な行動ばかりしていた。


スキルのことより気になることがある。それは能力の数値だ。この世界の人間の平均は10ということは、茜さんはすごく強い部類だということだ。


俺らのクラスの北神でオール100。それはまだまだ伸び代があるということなのだろうか?


この世界の能力の差について考えていると茜さんにデコピンされた。


「いってーな!」

「何度も呼んでるのに無視するからです〜!」


もうすぐ二十歳の女性が頬を膨らませ拗ねている。茜さんは可愛いのでその姿は似合っているのだが、やはりセリスの方が可愛い。


「これからどうするつもりなんだ?」

「そうだ!ソウタ君について行ってもいい?」

「ダメだ」

「えー!なんで?」

「怪我でもしたらどうするんだよ」

「ソウタ君が守ってくれるでしょ?」


その目には不安と期待が込められている。やはり別の世界に一人で連れて来られて今まで一人で暮らし、やっとの思いで知り合いに会えたのですぐに離れたくないのだろう。


「...はぁ、わかったよ。でも条件がある」

「わかってるよ、私の体を差し出せばいいんでしょ?いいよ!好きにして!」

「そんなもんいらねぇよ!ただ無茶するなよってだけだ!」

「えー?本当にそれだけでいいの?」

「どういうことだよ」

「私の体を好きにするチャンスなんだよ?」


若干頬を染めて恥ずかしそうに言う茜さん。他の男なら茜さんがこんな事を言ったら手を出すだろうが、俺は茜さんの体に興味をもったことがないのだ。


「お前はどうしてほしいんだよ」

「えっ!?私!?」


俺が聞くと茜さんは顔を真っ赤にさせ、慌てだした。こんな茜さんを見るのは初めてだ。


「だってソウタ君男の子だし?そういう事に興味もってるかなぁと思って気をつかってあげただけだし」

「茜さんはそういうことに興味あるのか?」

「えっ!?!?!?」


その途端茜さんは顔から湯気が出るほど顔を真っ赤にして倒れてしまった。


そして仕方なく茜さんを背負い、会計を済ませ、とりあえず宿に戻ることにした。


「で、誰その女?」

「まさか浮気ですか!許しませんよ!」

「なんでメイがそんなに怒るんだよ、この人は俺の恩人で、これからの旅に同行することになりました」

「「えっー!!!!」」


二人の驚く声で茜さんが起きてしまった。


「えっ!ここどこ!?あれ!?ソウタ君!?私はとうとうソウタ君に食べられちゃうのね...」

「ちょっとソウタどういうこと!」

「説明してください!」

「あーもー!うるせぇよお前ら!」


三人を落ち着かせ、三人との出会いを全て話した。本人の目の前で話すのは恥ずかしかったが、みんなも恥ずかしがっていたので良しとする。


「よろしくね、茜!」

「よろしくお願いします!茜さん!」

「よろしくね!セリスちゃんにメイちゃん!」


三人とも仲良くしてくれそうで安心した。


一安心すると、プレゼントを買ってきた事を思い出した。


「セリスとメイにプレゼントがあります。まずはメイからどうぞ」

「え!?いいんですか!?」

「あぁ、約束しただろ?」

「これは、チョーカーですか?」

「気に入らないか?」

「いえいえ!嬉しいです!大事にしますね!」

「そうしてもらえると俺も嬉しい」


メイが喜びながらチョーカーを首に付けてくれた。


「似合いますかね?」

「すごく似合ってるよ!メイちゃん!」

「うんうん!綺麗だよ!」

「えへへ、そうですか?」


すごく喜んでもらえたみたいでよかった、次はセリスの番か。そう思うと急に緊張してきた。


あのおじさんが言ってたことはこの事だったのか!!そんなことを思っているとセリスに急かされた。


「私のは何?ネックレス?イヤリング?」

「えーと、その、」

「ソウタ君のことだから指輪だったりしてね、」

「あはは!それはすごい勇者ですね!」


そのすごい勇者が目の前にいるぞ!お前らのせいで余計緊張してきたじゃないか!


「どうしたの?もしかして無いの?」

「いや、あるにはあるんだが...」

「「「???」」」


みんなが不思議そうな顔をして見てくる。その目は「なんで早く渡さないの?」と言っている。


そして、一度深呼吸をして覚悟を決めた。


コントロールスペースに入れておいた小さな箱を取り出し、セリスの方へ差し出し、


「俺と、結婚してくれ」


と言った。よし、ちゃんとかまずに言ったぞ!目的はひとまず達成だ!


そんなことを思いながら周りを見ると、みんなが固まっていた。


ほんの数秒間を数時間に感じていると、セリスが動いた。


「ほん、と?」

「な、何がだ?」

「私と、結婚するの?」

「あぁ、俺はセリスと結婚したい」


そういった瞬間、セリスが抱きついてきた。顔が見られないようにか、俺の胸に頭をぐりぐり押し付けてきた。


その体制のまま、セリスが聞いてきた。


「私、魔人族と人間のハーフだよ?」

「関係ないって言っただろ?」

「チビだし胸もないよ?」

「別に小さくてもいいじゃないか」

「...ロリコン」

「なんで今罵倒するんだよ」


二人ともそんなことを言っているがすごく幸せそうだ。


「返事を聞かせてもらってもいいか?」

「不束者ですがよろしくお願いします」

「ははっ、即答かよ」

「だって返事はとっくに決まってるもん!」


もう二人には周りが見えていようで、普通にキスをし始めた。それをきっかけにメイと茜が意識を取り戻した。


「わぁー!おめでとうございます!セリスさん!」

「お、おめでとう!セリスちゃん!」


メイは感動して涙を流しながら祝福し、茜は複雑な思いを隠すように祝福した。


だが、その思いを隠すことはできず、涙を流してしまった。


「あ、あれ?おかしいな?なんで涙がでるんだろ?」


それにいち早く気付いたソウタは茜の方を見た。


「茜さん?どうしたんだ?」

「な、何でもないよ!ちょっと目にゴミが、はいっちゃっ、てね、ひっく、」

「茜さん!」「茜!」「茜さん!」


茜が膝を折り泣き崩れてしまったのを見て三人が駆け寄った。


「本当にどうしたんだよ!らしくないじゃないか!」

「ごめ、んね?一世一代の告白が終わった後に、泣いちゃって、ぐすっ」

「茜、もしかして...」

「セリスさん、それは今言っちゃダメです」

「そう、だね」


セリスとメイは何かわかったのか話している。話し合いが終わるとセリスが申し訳なさそうに言ってきた。


「ごめんね、ソウタ。少し外で散歩してきて?」

「...わかった」


俺があの場にいたらダメな気がしたので返事をした後、すぐに外に出た。


「茜さん、もしかして...」


いや、この事を考えるのはやめよう。茜さんに失礼だ。


そしてソウタは茜の事を心配しながらも散歩に出かけるのであった。

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