第36話 お風呂

ソウタが外に出てくれた後、茜は数分間セリスとメイに泣き止むまで慰められていた。


「ごめん、ね?もう、大丈夫」

「本当?じゃあ、何で泣いてたか教えてくれる?」

「セリスさん、それはちょっと...」

「いいんだよ、メイちゃん。私ね、ソウタ君の事が好きなの」


私は茜の気持ちがわかっていた。あの寂しそうな笑顔を見れば誰でも分かると思うけど、多分ソウタはわかってないだろうなぁ...


「だから泣いちゃったんだよね。私も同じ立場なら茜と同じことになってたと思うししょうがないよ」

「ごめんね、セリスちゃん」

「うん、気にしてないって言ったら嘘になるけど、もういいよ」


茜はセリスが優しすぎたのでまた泣いてしまった。よしよしとあやしていると、茜は泣きながらも言ってきた。


「私ね、ソウタ君に振り向いてもらうように頑張る」

「「え?」」

「それで、ソウタ君の愛人にしてもらう...」

「え?ちょっとまって!」

「ソウタ君をとられるのが怖い?」

「「...」」

「私はもうずっと前から好きなの。だから簡単に諦められないの。だからね、それぐらい許してね?」

「...いい度胸ね、奪えるものなら奪ってみなさい」


茜の目には強い意思がある宿っている。それを見たセリスはこの人は本気なんだと確信した。


「でもその前に、ね?」

「そうだね」


二人の目線から火花がバチバチなっているので、メイは少し怖がっている中、二人は近づいた。


「これからよろしくね!」

「こちらこそ!」

「...へ?」


なんと二人が笑顔で抱き合ったのだ。それを見たメイは何が起きたのかわからなかったようで、マヌケな声が出てしまった。


「えっ!?セリスさん!?どうしたんですか!?」

「ん?どうしたって言われても、これから一緒に旅するし、茜のこと大好きだもん!」

「えーっと、メイちゃんは私のことが嫌いなの?それならすごく申し訳ないんだけど...」

「いえいえいえ!私だって茜さんのこと大好きですよ!?でも、あんなに二人とも怖い顔してたじゃないですか!」

「それはソウタに関係してることだったからだよ。それ以外では仲良くしたいもん!」

「そうそう!私もセリスちゃんと同じ!」

「そ、そうですか...」


なんだか自分が馬鹿みたいに思えたメイは、もう気にしないことにした。


「ソウタはいつ帰ってくるかな?」

「ん〜、多分あと一時間後ぐらいだと思うなぁ」

「なんでそう思うんですか?」

「ソウタ君って気を使って外に出た時は、だいたい一時間後に帰って来てたからね」

「そうなんだ」


そして、ちょうど一時間後にソウタが帰って来た。


「茜さんの言う通りでしたね!」

「すごい!」

「えへへ〜、それほどでもあるかな?」

「なんかすごい仲良くなってんな」


私達はソウタの言う通りすごく仲が良くなった。建前上ではなく、互いを信頼し合えるほどだ。


「とりあえず、夜も遅いし寝るか」

「きゃー!ソウタ君ったら私達と寝るだなんて!」

「??...どういうことですか?」


メイが本当にわからなそうに言うので茜が小声で教えると、メイは顔を真っ赤にした。


「そ、ソウタさんの変態!」

「そういう意味じゃねぇよ!ていうか茜さん!メイに変なこと教えんなよ!」

「えー?私は別に変なことなんて教えてないんだけど〜?」

「ったく、あんたって人は...」


ソウタが呆れながら言うと、茜は楽しそうに笑っている。


それを見て私は茜のことをすごいと思った。さっきまで泣いていたのに、今はあんなに綺麗な顔で笑っている。私なら多分できない。


「いいからお前ら三人は早くベッドに行って寝ろ」

「まさかの4P!?ソウタ君って女なら誰でもいいのね!」

「ソウタ!!」

「なんでセリスも本気にするんだよ!茜さんも悪い冗談はやめてくれ!」


茜は本当にすごいと思う。いつも冷静で落ち着いているソウタをいとも容易く弄ぶだなんて。


私にもできると思うけど多分すぐにからかわれることになるだろうなぁ。


「ほら早くベッドで寝ろ」

「私達まだお風呂はいってないの」

「そうなのか?なら先に入ってくれていいぞ」

「そしてその間にソウタ君は自分の...」

「その先は言わせねぇぞ?」


これ以上はダメだ、とソウタがキレる寸前になると茜は風呂場に逃げていった。


危機回避能力まで備わっているの!?と驚いていると、「早く風呂に入ってこい」と言われた。


おとなしくメイと一緒に風呂場に行くと、茜が服を脱ごうとしていた。


「一瞬ソウタ君が来たのかと思ってびっくりしちゃった」

「ソウタはそんなことしないよ!」

「昔、一度だけしたことあったよ」

「え!?そうなの!?」

「意外ですねぇ」

「わざとじゃなかったみたいだけどね」

「ソウタさんらしいですね」


三人で笑いながら風呂に入り、セリスはあることに気付いた。それは、自分だけ胸の大きさが違うということだ。


メイは元々大きい事を知っていたので、茜に期待したが裏切られた。


茜はすごく着痩せするらしく、モデル顔負けのプロポーションをしている。


それを見たセリスは固まってしまい、その原因を茜に気付かれてしまった。


「セリスちゃんも大きくなるから安心しなよ!」

「...別に?私は胸なんて気にしてないし」

「まぁいっか!ソウタ君って貧乳の方が好きみたいだしね」

「ほんと!?」

「ウソ、本当は知らない」

「ゔぅぅぅ」

「セリスさん、どーどー」


ソウタがとっさに怒ってしまう理由がわかった。この人は人を怒らせることが絶妙に上手い。


「...二人とも、なんでそんなに胸が大きいの?」

「私は遺伝だと思います」

「私は特別なことはないかな?でも、強いて言えばやっぱり遺伝かなぁ」

「うぅ〜、私も遺伝なのかなぁ?」

「ふっふっふ、悩める子羊ちゃんに持ってこいの情報があります」

「ほんと!?」


これで私の悩みは解決するのかと思うと嬉しくて茜に抱きついた。


「ちょっとセリスちゃん!もう、目に水が入っちゃったじゃない」

「早く教えて!どうやったら大きくなるの?」

「それはね?好きな男に揉んでもらえばいいんだよ!」

「え、」

「ほ、本当にそんなことで大きくなるんですか!?」

「本当です!私達の世界ではそう伝えられてきました!」


メイが「茜さんの元いた世界はすごいですぅ!」と大騒ぎしている中、セリスは考えていた。


好きな人に揉まれると大きくなる、ということはソウタに揉んでもらうと大きくなるっていうこと?ならもう揉んでもらうしかないじゃない!


そう確信したセリスは湯船からザパァッ!と飛び出ると、タオルを巻いて風呂場から出ていってしまった。


「あのぉ、これ、まずいんじゃないですか?」

「うん、多分私死ぬね」

「ソウタさんならきっとデコピン程度で許してくれますよ!」

「だといいね...」


風呂場に茜の乾いた笑い声が響くと、居間の方からソウタの驚く声が聞こえた。


それから数分後、顔を真っ赤にして泣いているセリスが戻ってきた。


「ど、どうしたんですか!?」

「...ぐすっ、ソウタがね、そんなの迷信だから信じるなって、ひっく、言ってたの...」


うわぁぁぁぁぁん!!!!と泣き出したセリスに驚くメイと茜。


「ど、どうしたらいいの!?」

「とにかく慰めましょう!」


そう言ってセリスをお湯の中に入れると二人で抱きしめた。


「ごめんね、私があんなこといったばっかりに...」

「...ぐすっ、うん」

「セリスさんは胸なんてなくても大丈夫です!だってすごく可愛いですもん!」

「そうそう!女の価値は胸じゃないもん!」

「...ありがとね」


セリスが泣き止むと、三人は仲良く胸の話以外をした。





その頃、ソウタは悶々としていた。


「くそっ、茜さんめ、何してくれてんだよ...」


愛しの彼女がタオルだけを巻いて彼氏に「胸を揉んで?」とか言われたらもう我慢なんてできねぇだろ?それを我慢している俺を褒めてくれ、と言いたいぐらいだ。


「はぁー!我慢しろ!絶対に我慢しろよ!俺っ!」


そう少し叫ぶ。まだ女性陣はお風呂に入っていると思うので聞こえてない筈だ。


それにしても、やっぱり女の子っていい匂いするんだなぁ。いやいやいや、やめろ、そんなことを考えるな、考えちゃダメだ。男子高校生の性欲をなめるなよ。我慢してるのがすごいんだぞ!


って誰に言ってんだよ...


そんなことをずっと考えてるソウタは、お風呂から帰ってきた女性陣に不思議な物を見るような目で見られ、慌ててお風呂に入り、女性の残り湯だということに気付くとまた悶々とするのだった。

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