第7話 過去と現在
俺とエギルは何も話さずギルドまで来た。ザックは俺とエギルを見て安心していた。どうやら全て解決したことが分かったのだろう。
「ソウタ君、ありがとう!君のおかげで街が救われた!この王国を代表して感謝する!それとエギルさんもありがとう!君達王国の兵士がいなければすでにこの街は本当の地獄になっていたところだったよ!」
「俺は感謝されるような人じゃない。俺のせいでこの街は地獄になりそうになったんだからな」
「だが止めてくれたことに変わりはないだろ?」
「そんなこと言うのはあんたとエギルだけだよ」
街の人達の俺に対する評判は相当悪いはずだ。既にこの街の半分ぐらいの人が俺のことを恨んでいてもおかしくない。ならばさっさと違う場所へ行こう。
「俺はこのまま大迷宮に行くよ。食料を少し分けてくれ」
「黒輝ソウタお前に1つ言いたいことがある」
「なんだ?」
「お前はなぜ、そこまで人に嫌われるような行動をとる?」
「別に好きでやってるんじゃない。」
「ならなぜあんな対応をするんだ?」
「俺はただ事実を言っているだけだ。それで相手が勝手に怒るんだよ」
「なるほどな。悪意はないんだな」
「当たり前だ」
「では街の人達になぜ事実を話したんだ?嫌われることはわかっていただろう?」
「俺が犯した罪を知らせるためだ」
「知らせて何か意味があるのか?」
「ないな」
「馬鹿だな、お前は」
「あぁ、そうだな」
俺も街の人達と仲良くできるならしたいさ。でも、俺のせいで怪我をした人や死んだ人はたくさんいるはずだ。そんな奴がこの街の人達と仲良くするのはおかしいだろ?だがこのことは誰にも言わない。自分の弱さを教えるようなものだからだ。
「これ、お礼だよ」
ザックが食料と冒険者の証<金>と謎の瓶を渡してくる。
「この瓶はなんだ?」
「それは飲むと傷が治る飲み物だ。是非使ってくれ」
「ありがたくもらっておくよ」
そう言いながら受け取るとザックとエギル別れの挨拶を言う。
「じゃあな、また会えたら会おう」
「「あぁ」」
「クラスのみんなには俺は旅に出たと言っておいてくれ」
「了解だ」
かるくエギルにお願いをしてからソウタは大迷宮へ向かう。
「彼は大丈夫だろうか?」
「大丈夫だろう。あいつは腐っても勇者だからな」
「そうだよな」
ザックはすごく心配していたが、彼はきっとまた、ここに帰ってくると信じ、家の瓦礫などの撤去を手伝うため、エギルと共に外に出た。
「彼に幸福が訪れますように」
ザックは心の底から思ったことを呟いた。
ソウタは、大迷宮へ向かう途中に様々な人から石を投げられた。そして、小さな子供達が泣きそうになりながらソウタの目の前までやってきた。
「あたし達のパパとママを返してよ!」
「かえして!パパとママをかえして!」
この子達の両親はきっと、モンスターに殺されてしまったのだろう。
「無理だ。死んだものは生き返らない」
「そ、そんなの、わがっでるよぉぉぉ!!でも、それでも!!う''っ、ひっく、」
「姉ちゃんを泣かすな!!」
女の子が泣き崩れ、その子の弟達であろう男の子達が目に涙を浮かべながらも女の子の前で守るように立っている。
「すまないな」
「謝ったら返ってくるならはやくかえして!!」
「いい加減にしなさい!!」
周りで見ていた大人の1人がそう言い、子供達を止める。そしてその大人の人が俺を見る
「頼む。早くこの街から出て行ってくれ。君を見ると殺意が湧いてしかたないんだ!」
たぶんこの人も大切な人を失ったのだろう。俺のせいで。俺は頷き、誰にも見えない程の速度で大迷宮まで走った。
「俺はこの世界でも嫌われ者かぁ」
大迷宮の扉の前で昔の事を思い出す。
ソウタは元の世界でも嫌われ者であった。だが最初から嫌われていた訳では無い。嫌われ始めたのは小学5年生の終わりぐらいであった。理由は、サッカーを習っている子達と一緒にサッカーをして、ボコボコにしてしまったからだ。本人にもちろん悪気はない。ただ周りとの才能が違いすぎたのだ。そしてそれからソウタの悪い噂が流れ始めた。それでも仲良くしてくれた子はいたのでソウタは寂しくなかった。だがある日突然、仲の良かった子達がソウタに言ったのだ。
「ごめんね。ソウタ君。ソウタ君といると僕達がいじめられるんだ」
みんなが同じことをソウタに言い、離れていった。これが小学6年生の夏に起こったことだ。こんなこと、普通は耐えられるはずがないだろう。だが、ソウタは違った。
『僕は何もしてないのにみんながどっかいっちゃう。ただみんなと楽しく遊びたかっただけなのに。まぁしょうがないか!1人で遊ぼ!』
ソウタは超がつくほどのお気楽人間だったのだ。それから何日も1人でも楽しそうに遊ぶソウタを気味悪がった同じクラスの男子がソウタに暴力を振るった。ソウタは始めは何をされたのか分からなかったが、次第に状況を理解していく。
『1人で遊ぶのも悪いことなの?いや、それはおかしい。なら何故僕は殴られているの?僕が弱そうだから?舐められているから?やめて。痛いよ。殴らないで?誰か助けてよ』
そう思いながら周りを見ると助けようとするどころかみんなが笑っている。それを見た瞬間、ソウタの中で何かが壊れた。
「おい」
教室の全員が静まり返るほどのドスが効いた声。その声はソウタのものだった。
「痛ぇじゃねぇか」
そう言い、ソウタのことを殴ったやつを片っ端からボコボコにしていき、最後はその場にいた全員が半殺しにされていた。そしてソウタは、『俺が弱そうだから殴られたんだ、ならもうそんな姿誰にも見せない』と決め、心を閉ざし笑顔も消えた。
このことが原因で少年院で過ごす羽目になったソウタ。ここで椎葉 茜 《しいば あかね》という人に出会う。茜はすごく優しい人だった。どんな子に対しても、平等に優しくしてくれる人だ。身長はその頃のソウタとあまり変わらない160cmぐらいで、髪は茶色の綺麗なロングヘアだ。そして茜はソウタにも優しかった。
「君が黒輝ソウタ君ね!はじめまして、椎葉茜と申します!よろしくね!」
「あぁ」
「ちょっとー!元気だしてよー!」
それが黒輝ソウタと椎葉茜の初めてのコミュニケーションであった。その日から毎日茜はソウタに構うようになった。
「ソウタくーん!お話ししよ!」
「…………………………………」
「それで昨日ねぇ美味しいもの見つけたんだ!」
「…………………………………」
「なんか反応しなさいよ!」
「うるせぇなぁ!あっち行ってろよ!」
「ふん!そんな態度とるならホントに行くからね!私、人気物だから他の子とすぐに遊んでくるわ!」
「はやく行けよ」
そう言い茜は歩いて行く『やっと行ったか』と思っていると、茜が急に振り向きこちらに向かって走ってきて、そのままソウタに突っ込む。
「いってーなぁ!なにすんだよ!」
「ソウタ君が追っかけてこないのが悪いんだよ!」
「悪い?俺が?俺が悪い。」
ソウタは黙ってしまった。それを心配して茜が近付くと、何か言っているのがわかった。何を言っているんだろうと思った茜は、声が聞こえるまで近付く。
「俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い」
「ソウタ君!!しっかりして!!」
茜がソウタを揺さぶるとようやく気を取り戻す。
「どうしたの?いきなりビックリしたよ?」
「すまん、少し前のことを思い出しただけだ」
「話して」
「何をだ?」
「何でここに来ることになったのかを話して」
「嫌だ」
「話して」
「嫌だ」
「お願い、話して」
「...わかったよ、話すよ」
そう永遠続くと思われたが、意外にもすぐにソウタが折れた。そしてあったことを茜に全て話すソウタ。
「辛いことがあったんだね。君は悪くないよ。だから、弱くたっていいんだよ」
「よわくて、いい?」
「そう、もうここには君に意地悪する子なんていないからね」
そう言うと茜はソウタを抱きしめる。この人は本気で俺のことを気にかけてくれているんだ!と理解した。その瞬間、涙が溢れた。ソウタは今まで我慢したもの全てを吐き出すように泣いた。茜はそんなソウタを我が子のように抱きしめ、泣き止むまでずっと頭撫でててくれた。
ソウタは泣き止むとすごく恥ずかしそうにしている。弱い所を見せないと決めたのによりによってコイツに見られるとは!と思っていたのだ。だがそんなこと茜は気にしていなかった。
「ほら!泣き虫ソウタ君!お風呂入ってお寝んねしましょうねー!」
「だぁーーー!!!!馬鹿にすんじゃねぇ!!」
そして俺は気が付かないうちに茜さんに変化させられていった。それもいい方向に。なので今の俺が笑えるたりできているのは茜のおかげだ。その茜は、今はもう結婚して子供もいるがまだ少年院で働いている。たまに茜の手伝いや、子供達の面倒を見るソウタは、優しいお兄ちゃんとしてよく行くので、そこらへんはよく知っている。
「あー、久しぶりに会いたいな、茜さん達に。」
ソウタは上を向く。とても綺麗な夕焼けが見える。
「さてと!では、行くとしますか!」
茜さんのような元気をだす。そうすると、よりいっそう元気が出るからだ。
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