第5話 それぞれの気持ち

ソウタが出ていってから30分後、皆が目を覚まし、先生が生徒であるソウタの名を呼ぶ。


「黒輝君!黒輝君いますか!?いたら返事してくださーい!」


もちろんソウタはいないので返事は聞こえない。辺りが一瞬静まりかえった後、今度はざわつき始める。そして、それを止めたのは騎士団長であるエギルだった。


「黒輝ソウタは、皆が気を失った後に出て行った。そして魔王を倒す気はないらしい」


皆がまたざわつき始める。


「なんなんだよそれ!」「みんながこんなにやる気になってるのになんなんだよあいつ!」「やっぱり黒輝は黒輝だな」


「みんなやめてよ!!」


みんながソウタの悪口を言っているのを香帆が止めた。というより、香帆がこんなに大声を出すとは思わなかったのでみんなは驚いて黙っただけである。


「香帆、黒輝はみんなのことを置いて逃げたんだ」


「黒輝君はそんな人じゃない!」


「この現状から考えて、どう見ても逃げたとしか考えられないだろ!」


「それでも...黒輝君は!」


「もうやめなさい」


エギルが2人の間に入って止める。

そしてエギルが言う。


「光、黒輝ソウタは別に逃げた訳ではない。ただ1人で行動するだけだ」


「なんでそんなことを!」


「ここにいる者達と一緒に行動するのが嫌なだけだろう」


「なんでそんなことがわかるんですか!」


「さきほどの皆の対応だ。香帆以外誰も彼を信用していない。つまり、君達は彼のことを仲間だと思っていないんだろ?それを理解している彼は出て行ったんだろう」


「そ、そんなことありません!俺はあいつのことを!」


「なら、なぜ殴り合いを?しかも負けを認めるまで殴り合いだと提案したんだ?少しでも腹いせに殴りたかっただけだろ?違うか?」


「ち、ちがっ!」


「もうやめてください。エギルさん」


零が光を庇うように立ち、今度は面と向かう。


「これ以上、光をせめるようなことを言うのはやめてください」


「あぁすまない。少し黒輝ソウタが可哀想に思えたんだ。光もすまない。少し言い過ぎた」


「いえ、別に俺はいいです。ありがとう零」


「別にいいよ!いつものことでしょ!」


「そうだぜぇ光!もうここにいない奴のことなんて気にしないようにしようぜ!」


「そうしようか。香帆も、それでいいな?」


「嫌よ。私は!」


丁度そこでドォォォォォンと山の方から爆発したような音が聞こえた。みんなは少しパニック状態になったがエギルがそれを吹き飛ばすように指示をだす。


「みんな!!早くここを出て外の様子を確認するんだ!!」


【は、はい!】


みんなは慌てて外に出る。そして絶句する。あまり気にしていなかったが、協会の中からでも見えていた山が無くなっていたからだ。


「な、何が起こったの?」「も、もしかして魔王が来たんじゃッ!?」


とみんなが口々にしていると、山の方から20歳ぐらいのお姉さんがこちらに走ってくる。


「あっ!!エギルさーん!これはいったい何が起きたんですか!?」


「す、すまない。私にもわからないんだ。だが、とりあえず様子を見に行くことにする。光!みんなとここで待機しておいてくれ!」


そう伝えるとエギルは山があった場所に走っていく。


そして数十分後、エギルが焦るように戻ってきた。


「君達はここから早く避難するんだ!」


「ど、どうしてですか!」


「モンスター達が山があった場所からどんどん街に来ているんだ!だから早くここから避難しろ!」


「嫌です!俺は勇者だ!勇者がこんなところで逃げるわけには...!」


「だからだ!お前達にはこんなところで死んでもらっては困る!それにここは王国だ!私よりは劣るものの強い兵士ならたくさんいる!だから早く避難しろ!」


「で、でも!」


「零!龍二!光を無理やりにでも連れていけ!」


「「わかりました!」」


「ほら、行くぞ!」


「わ、わかったよ!エギルさん、また後で会いましょう!」


「あぁ、また後でな」


そう言うと、エギルは腰の剣を抜き、山の方へ向かってしまった。


その時、ソウタは報酬をもらい、寝ていた。


30分後


「くそ、まだまだいやがるぞ!」「気を付けろ!上からも来るぞ!」「うわぁぁぁ!!!!」


兵士達の様々な声が街に響き渡る。それにより街の人達は、神に祈るものや、頭を抱えている人、泣き叫ぶ子供までいる。まさに地獄だった。


ザックは『何故王国の兵士達が全員出撃したならもう大丈夫だろう。と安心なんかしていたんだ!』と思いながら、慌ててソウタのいる部屋に向かう。


「ソウタ君!起きてくれ!街が大変なんだ!」


揺さぶるが起きない。ソウタの眠りはものすごく深い。初めて魔力というものを使ったからであろう。だがこんな緊急事態を打破できるのはソウタしかいない。ザックは必死になって起こす。


「ソウタ君!!頼むから起きてくれ!!ソウタ君!!」


「ん、ん〜?」


ソウタが反応したことによりザックは力いっぱいに揺らす。そしてついに起きたと思いきやザックの胸ぐらを掴む。


「ぐっ!?」


「何すんだよ?俺は今、眠いんだよ。わかってんだろ?」


明らかに不機嫌なソウタが降臨した。だがザックは食い下がる訳にはいかない。なんとか必死に説得すると、


「じゃあ今この街は俺のせいで襲われてるってことか?」


「簡単に言うとそういうことになる」


「すまん。すぐに片ずける」


ソウタはそう言うと今すぐに行動しようとするがザックが止める。


「待ってくれ。モンスターは殺してもどんどんでてくるんだ。その原因を潰さない限り我々に勝ち目はないんだ」


「その原因はわかったのか?」


「もちろん分かったさ。君が吹き飛ばした山の場所に穴があったんだ。そこからモンスターが出てきていることがわかった。だがすでにモンスター達がいすぎて近付くことができないんだ」


「なるほど。今の話しで思ったんだが、もしかしてブラックフォレストは大迷宮じゃなかったんじゃないか?」


「そうか!それならブラックフォレストと同じモンスターが扉からでてきていたことと辻褄が合う!」


「とりあえず、俺は街のモンスターを殲滅し、山へ向かうことにする。穴は閉じるだけにしたいんだがいいか?」


「なぜそんなことをする?」


「大迷宮全てを攻略する。こんな世界でやることなんてないからな」


「そ、そうか。了解した。他のギルドには私から話しておこう。」


「助かる。それじゃぁ行ってくる」


「あぁ、頼んだよ」


ザックは笑顔でソウタを送り出す。


彼が本気でモンスター達を殲滅しようと思ってくれているならもう安心であろう。さて、私は今のうちに他のギルドにこのことと彼のことを話しておこう。

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