🐈

 ――かくして、長きに渡って繰り広げられてきたという、猫の縄張り争いに終止符が打たれたようだった。数分後には、睨み合っていた猫達が、もはやどっちのボスに付いていたのかさえわからないほどに混ざり合い、その中心にいたタマゴは、かつての仲間と、新たな同士と一言二言交わし、悠希の傍までやって来る。

「……私が言うのも何だけど、いいの?」

「敵対していたが、アイツは頼りになる猫だ。それに、天秤にはかけられねえが……家族を大事にしねえ奴に、なっちゃいけねえような気がするのさ」

 渋い、と思いながら悠希は微笑んだ。


 多くの仲間と新たなボス猫に見送られ、悠希はタマゴと共に帰途へ着く。欠伸を漏らしながら、何とも不思議な時間だったなあと、隣を歩くタマゴを見下ろす。これから先もタマゴの言葉がわかるのだろうか。もし、魔法の時間のようなものが流れているのであれば、いつか消えてなくなってしまう。ずっと毛嫌いされて、引っ掻かれて、叩かれてきた思い出しかなかったが、やっぱりタマゴのことは嫌いになれない。魔法が切れる前に、と悠希は訊ねる。

「アンタ、どうして私の事嫌いなの」

 ずっと知りたかったことを訊ねる。タマゴは少し躊躇った後、渋い声でこう答えた。

「フグの奴と目付きが似ていたからな」

「フグ?」

「あのボス猫さ。トラフグみてえな柄だろ?」

 思い出して、眉間にしわを寄せる。フグじゃなくてトラでもよくない? というか似てないだろ、いや似ているのか? いや、そんなことで私は嫌われていたんか――と不思議と笑いが込み上げてきた悠希は「理不尽ね」と笑顔を浮かべた。

 家に戻り、ベッドに入るとタマゴも欠伸を漏らして、珍しく悠希の足下で眠り始めた。やっぱり猫なんだな、と思える丸まり方をして眠り始めたタマゴ。現実かどうかもわからない体験だったけれど、アンタと話せて良かったよ――そう思いながら、悠希は静かに目を閉じる。


 目を覚まして聞こえてきたのは兄の感極まる泣き声だった。ベッド、足元には抜けた毛が散らばっている。粘着カーペットクリーナーで毛を取ってから階下に降りる。タマゴを抱き締める兄をほっこりとした気持ちで眺めていると、両親も起きてきて騒ぎ出す。さて妹にも連絡を入れておこう、と崩壊を免れた家族らに背を向け、自室に戻った。


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