🐈
一時間後、再び敵対するボス猫と対峙する。悠希の姿に動揺を隠せないでいるボス猫は「人間を味方に付けるとは、ついに猫としてのプライドを捨てたか」と言い放つ。しかし、猫の戯言に悠希は付き合うつもりはない。
「おい猫、私は寝不足だ」
「だから何だ!」
「……ご尤もだ」
しくじった、と背後に座るタマゴたちから白い目が向けられる。咳払い、仕切り直す。
「目的は聞いたよ。この子たちの縄張りを占領して、勢力を広げようとしているみたいだけれどさ……それって必要なことなの?」
「縄張りを巡る争いは昔からやってきた!」
「うん。だから、それって必要なのって聞いているの」
睨み付け、こういう時は迫力満点なこの目も役に立つというもの。威圧的な態度にボス猫もたじろいでいるように見える。
「私ね、思うのよ。長い歴史があって、現代では不釣り合いで噛み合っていなくても、昔からやって来たことが現代まで続いているのだから正しいことなんだ、的な風潮。あれさ、ようするに現代に合わせられない奴が、自分のやり方を否定されるのを嫌がって、過去を引き合いに無理矢理正当化しようとしているようなものだと思うのよ。猫の世界も同じでしょ。本当に正しいのであれば、誰一匹たりともこの争いに対して疑問を持っていないはず。ねえ、この中にそういう疑問を持った猫はいない? これだけいて、いないわけないと思うんだけれど」
悠希の言葉に、明らかに顔を背ける猫がちらほら。それを見たボス猫は眉間にしわを寄せて「じゃったら、どうすればいいんだ」と悠希に訊ねてくる。
「協力し合えばいいんだと思うよ。後ろの猫たち、皆大切な仲間なんでしょ? 家族同然なんでしょ? その仲間が争いで命を落としたら、あなたはどう思う? 嬉しくないでしょ? だったら初めからそんな思いをしないように工夫しなさい。まあ、習性的に縄張りは致し方ないとしても、縄張りが狭くて餌場が少なくて困っているのなら、助けを求めたっていいじゃない。同じ猫なんだから、助け合いなさいよ。まあ……人間の世界でも、こういうことで無駄な争いをしているから偉そうなことはあまり言えないんだけどさ」頭を掻いて、悠希は苦笑する。「でもさ、『これはおかしいんじゃないか』って誰かが声を上げない限り、ずっと正しいとは言えないことが続いて行くんだよ。それに、これだけの数がいれば、外敵から仲間を守ることもできる。協力し合えれば、アンタ達なら無敵だよ。タマゴ、アンタは仲間とプライド、どっちを守りたい?」
振り返り、仲間の視線を集めるタマゴを見る。しばし沈黙し、タマゴは前へ歩み出す。悠希の横を通り抜け、ボス猫と対峙する。睨み合い、しかし一触即発の気配は欠片もない。
「……傷付け合うことを俺達は望んじゃいねえ。もしも今夜、長きに渡る縄張り争いに終止符を打てるのであれば、この先協力して生きていくことを誓い合えるのであれば……俺ぁ、一度背を向けて逃げた身……頼めるか、俺の仲間を」
タマゴの言葉に、猫達が騒めいた。タマゴの仲間が鳴き始め、共鳴するかのように、対峙する軍勢らも鳴き始める。ボス猫はジッとタマゴを見て、静かに瞼を下す。まるで紫煙を吐き出しているかのように、長い息を吐く。
「幾度となくお前と命のやり取りをした……不思議だな、お前の頼みを、俺は断れねえ」
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