第45話 レイミアの不安
「よーし、ハピー!腹ごしらえは済んだか!?」
「すこぶる済んだよー魔王さまー。」
「ハピー!我の事は佐藤様と呼べと言っただろう!」
「あれー?そうだっけー?」
「むぅー…まぁ良い。ハピーにはまだ難しかったか!ははは!」
「きゃははははは!」
これは、佐藤様とハピーが森の奥で先生を見付ける数時間前の事。
「では!"第一回ロアゾブルの森で発見!巨大生物大会"を開催するぞー!」
「わーーーい、僕ちゃん初参加だー」
「佐藤様、それってどんな大会なのかしら?」
お昼ご飯を済ませ、意気揚々と立ち上がりそう宣言した佐藤様に私は静かに問いかけた。タロとお昼ご飯を探しに出掛けた先生が戻らない事に対して、少し不安はあったけれど…まぁ私の能力があれば、たとえ迷子になったとしても簡単に見付けられるでしょうからそこまで心配は無いかしら。
第一回なのだから初参加なのは当たり前でしょう。とハピーに突っ込みたい気持ちはあるけれど…。
「よくぞ聞いた!レイミアよ!」
私の質問がお気に召したのか、とても楽しそうに大会の内容を説明し始める佐藤様。人間との戦争が始まって以来、久しぶりに見る彼の楽しそうな笑顔に私の顔もほころぶ。
「この大会はだなー、このロアゾブルの森でより大きな生き物を捕まえた者が勝者だ!」
「簡単で僕ちゃんにもわかりやすいんだねー。」
参加する気満々のハピーも楽しそうに手をパタパタさせている。
「お、俺たちも参加していいのか!?」
「「勿論、優勝するのはルルとアイよ。」」
「ぼぼぼ僕はここでししし審判っするよっ。」
「じゃあぼくもー。」
「俺様も参加してやっていいぞ。」
「リトは汚れるのNGだから~。」
子供達も何人かはやる気満々みたい。迷子になっても私が探し出せるし、この森にはそこまで危険で攻撃的な獣も少ないから大丈夫ね。ただ───
「大会に参加するみんなには、一つ注意事項をいいかしら?」
「ちゅーいじこー?」
第一回ロアゾブルの森で発見!巨大生物大会に参加する子供達を集めて、私は一つの約束事を伝える。
「そうよ、とても大切な事だからよく聞いてね。ドラン、ルル、アイ、ジム。森の中で泉を見つけても、決してその水を飲まない事。」
「泉の水?なぜだ?その水は毒か何かなのか?」
ジムが不思議そうに首を傾げて私を見上げる。
「そうね…とても美味しい…毒ね。」
ロアゾブルの森の中には泉がある。それはそれは綺麗で透き通った水の溜まる泉が。その泉はまるで森から隔離された様に美しく、見る者の心を奪う。
【贄の
美しい泉とは対照的に付けられたその名前は、読んで字のごとく生贄の泉。
その泉に踏み入れた全ての生き物を魅力し、堕落させ朽ちさせると言う。甘い水には罠がある、と言うものだ。捉えた生き物をその甘美な水で虜にし、泉から逃がさないように縛り付ける───
縛り付けられた生き物はその水がこの世の全てだと信じ、永遠にそこから出られなくなってしまうらしい。そして自身の身体が朽ちて行く事さえ意識出来ず、泉や周りの木々の養分となってしまう。
そうして沢山の命の上に成り立っているのが【贄の
それ故にとても美しく、生き物を魅了する。
「そ、それは怖いな。」
ドランが不安そうな顔をしながら身体をブルリと震わせた。先程ギュウデンを見つけた時とは違った恐怖が、彼の中を駆け巡ったらしい。
「大丈夫よ。泉の水さえ飲まなければ、こちらに帰って来られるわ。」
「「飲んじゃったらどーなるの?」」
ルルとアイはこう言った類の話が好きなのか、キラキラした瞳で聞いてくる。これは下手をすれば誰かに飲ませてやろうと企んでいる時の顔…。本当に悪戯っ子なのだから困る。
「そうねぇ…もし飲んでしまったら…泉に片足を突っ込んだ状態、死に近い状態になってしまうから…私でも見つけるのは困難になるかしら?」
「「わーお。素敵。」」
これは決してフリでは無いのだけれど、私の回答は2人の好奇心をくすぐる形になってしまったようだ。
そう言えば、先生はこの事を知っているのかしら?これも決してフリでは無い。
「おい、レイミアー!もういいかー?」
なんだか嫌な予感がした私を他所に、佐藤様は今か今かと"第一回ロアゾブルの森で発見!巨大生物大会"の開催を待ちわびていた。もちろんパピーも走り出していきそうな勢いだ。
「えぇ、佐藤様。どうぞ始めてもらって結構ですよ。」
私がそう言い終わるのが早いか、佐藤様とハピーはロアゾブルの中へと姿を消した。私は少しの不安を口には出すこと無く、それを見送った。
「みみみみんな、だ、大丈夫、かな?」
私より心配そうにオロオロしているアルゲールを抱き上げ、小さく「大丈夫よ。」と言った後、私は木陰に移動し静かに腰を下ろした。蛇女に腰があるのか?なんて野暮な事は聞かないでね?
そうして佐藤様の気まぐれで慌ただしく始まった"第一回ロアゾブルの森で発見!巨大生物大会"が先生を救っただなんて、流石の私でも予想出来ない展開だった。
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