第43話 満点の星空と共に
強い決意と共にタロくんを探し始めてから4時間弱。流石の僕でも何かがおかしいと感じ始めていた。辺りは暗くなってきたし、季節は正確には分からないけど少し肌寒い。
レイミアさんが見つけてくれると高を括っていた僕の考えが甘かったのだろうか?一向にそんな気配も無く、僕の時計は夜の8時を指していた。
もしかして置いて帰られた?
もしかして忘れられた?
いや、魔王佐藤さんやパピーちゃんならともかく鈴木さんやレイミアさんに限ってそれは無いと信じたい。子供達だってタロくんがいない事には気付くはずだ。
しかし実際に誰も探しに来ていない様なこの空気感は危機的状況である。何らかの問題があって、レイミアさんが僕を探し出せない状況なのだとしたらかなりピンチだ。僕の頼みの綱はレイミアさんだと言うのに。
未だにタロくんも見付からないし…。
この世界に来てから、こんなに長い時間一人でいる事の無かった僕は少し感傷的になっていた。このまま誰にも見つからず、差し当ってはこの森に住む魔物に喰われて人生を終えるのか…なんて事も考えなくはなかった。
はぁー…なんだか現実味が無いので、溜息にも気合いが入らない。
「………あれ?」
未だに呑気な僕が鬱蒼とした木々を掻き分けて進むと、そこには数時間前にお世話になった泉がまたもや広がっていた。
「…………………。」
そしてなんと、その泉の傍らにタロくんがちょこんと体操座りしていたのだ。これには僕も感極まったが、驚きが先に出た。
「タロくん!!!」
僕は体操座りするタロくんの元へ駆け寄る。
「……………………。」
案の定タロくんは無言だったけれど、そのいつも通り変わらない対応が僕にとっては何よりだった。
「ごめんね、タロくん。僕がしっかりしてなかったばっかりに…心細い思いをさせちゃったね。」
隣にしゃがみ、タロくんの頭を撫でる。
「……先生…悪くない。…タロが……石…探すの夢中で……遠くに…行った……。」
「それでもタロくんをちゃんと見てなかった僕の責任だよ。」
「……………ごめん…なさい…。」
「ううん…僕の方こそごめんね。」
お互いに謝罪を繰り返し、この広い森でもう一度出会えた喜びを噛み締めながら僕達は抱きしめあった。実に感動的な再会。奇跡的な偶然。
しかし
「迷子なのには変わりないんだよね。」
ひとしきりタロくんと再会の感動を分かちあった後、僕は冷静になった。再会出来たのは喜ばしいけれど、結局のところ問題は解決していない。さて、ここで僕の腕時計を恐る恐る確認してみよう。
「10時。」
辺りはすっかりどころか真っ暗だ。月明かりが少しあるが、大した役には立たないだろう。月明かりに照らされて輝く美しい泉も、満天の星空も、今は手放しで感動できない。
ぐぅ~~
「…………………。」
そして僕のお腹の音がより一層その感動を打ち消すのだ。
「……先生………。」
「ありがとうタロくん。でも流石に石は食べられないかな。」
僕はタロくんに差し出された丸くてつるつるした石を静かに返す。ちなみにタロくんは迷子になりながらも石を食べながら歩いていたらしく、お腹は空いていないとの事だった。まぁそれだけでもまだ良かったと言える状況だろう。
僕は仰向けに寝転がり、空腹を紛らわせるかの様に空を見た。隣でタロくんも真似をして寝っ転がる。
「……き………れい…。」
「僕のいた世界ではね、星には星座って言うのがあって…それぞれを線で繋いで名前をつけてるんだよ。」
「………せいざ………?」
「そう。有名なのは十二星座って言って、自分の生まれた月の星座かなぁ…。後、簡単なのは砂時計みたいに並んでるオリオン座。フライパンみたいな形の北斗七星…夏の大三角にカシオペア座とか、かなぁ?」
「……ここ…にも…あるっ…?」
タロくんは僕の話を聞いた後、少し嬉しそうに空へ手を伸ばした。
「んー?どうだろう?見た感じは無いんだけどー…」
「……せいざ…ない……?」
「……あっ!僕達で作ろうか!」
悲しそうに手を下ろしたタロくんに僕はそんな提案をした。この世界に僕の知っている星座が無いのなら、タロくんと新しい星を繋げてここで作ってしまえばいい。
「……いい…の?」
「いいのいいの!星はみんなのモノなんだから。」
「…………………。」
こういう時のタロくんの無言は照れ隠しである。
「…じゃあ……あれと…あれ…と…ああやって……繋げて………小石座…。」
タロくんは空に光る星を指さしながら、星を繋げて丸い形を作りながらそう言った。
「見える見える!」
「……美味し……そう…。」
「タロくんは本当に石が好きなんだねー。」
「……うん…。」
それから僕はタロくんと新しい星座をいくつか創った。その殆どが小石座だったのは言うまでもないけれど。そうして僕の腕時計が12時を指す前、タロくんは静かに眠ってしまった。
「おやすみ。」
今日は雑な野宿になってしまったな。なんて思いながら僕は着ていた薄いシャツを脱ぎ、タロくんにそっと掛けた。
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