第41話 森=食堂
「あれはね…ギュウデンって言って、雨が降った日にしか出てこない珍しい生き物だよ。」
僕はみんなの顔を見ながら説明する。それは僕の世界で言う、カタツムリ。のようなものである。しかしこのギュウデン、雨が降った時にしか見られないから珍しいってだけではない。
「ギュウデンはね、ドラゴンに取り付いてその精神を喰らうと言われているのよ。」
珍しいと言われたギュウデンを捕まえようと手を伸ばしたドランくんに、レイミアさんはカラカラと笑いながら付け足した。
そう…この4cm程の小さな生き物ギュウデンは、ドラゴンにとって唯一の天敵なのだ。
「えっ!?」
慌てて手を引っ込めるドランくん。もう、レイミアさんったらそんな言い方しなくてもいいのに意地悪だなぁ。
確かにギュウデンはドラゴンの体内に入り、その精神を喰い散らかす。と生物図鑑に書いてはいたけれど、ギュウデンが体内に入るのは大人のドラゴンだけである。
洗練された強靭な精神を持つ、大人のドラゴン。そんなドラゴンにギュウデンは寄生し、精神を喰らい大きくなると、抜け殻になったその体内に新たな命を産み落とすのだ。その数が少ないのは、雨の日しか活動しない上に、その事実をドラゴン達が知っているから中々寄生するタイミングが無いからだろう。
ドールハウスを背負うと言う可愛い見た目にも関わらず、割とエグイ繁殖方法を持つ生き物である。
そんなエグい生き物だが、今のドランくんが触ってしまった所で何の害も無い。しかし触らないに越したことは無いので、ドランくんには悪いけれどこの事実は僕の胸の中に秘めていようと思う。たまには僕だって悪い虫が騒ぐってもんだ。
「おっ!ギュウデンじゃーん!」
僕達が何を見ていたのか気になった魔王佐藤さんが、ハピーちゃんとの雑談を終えこちらへとやって来た。
「雨降ってたからなー…ラッキー!」
───パクッ!
「ちょっ!佐藤さん!?」
そして僕達の目の前で、雨の日にしか現れない貴重で希少な可愛いギュウデンは食べられた。
「何してるんですか!この駄魔王!」
「えっ!?なになに!?もしかしてコレ食べるのアウトだったやつ?」
「アウトだったやつです!」
「いやでも
「味とかは関係無いんですよ!」
「ちぇっ、石田もアレだな。鈴木みたいに小言ゆーようになりやがって!。」
唖然とするドランくんや子供達を前に、ちょっと拗ねた魔王佐藤さんはそんな事を言いながら渋々と列の先頭へと戻って行った。小言とかそう言う問題では無いのだけれど。
「ま、まぁ、みんなギュウデンの観察は出来た事だし…先に進もうか?」
僕は取り繕いながらそう言った。むしろそれしか言葉が出なかった。貴重な生き物なので採取して帰ろうとは思ってはいなかったけれど、魔王佐藤さんに食べられる位なら採取した方がマシだったな。
その後も、色によって味が変わるナナイロフシや触ると眠り粉を撒くミンチョウ、魔界で一番硬い殻を持つイワマダラ、透明で中身が透けて見えるメイドウガエルなんかを観察しながら歩いた。
まぁその約8割は魔王佐藤さんに食べられたけれど。彼には虫のどんな抵抗も防御も効かないみたいだ。毒も麻痺も硬さも魔王佐藤さんの前では何の役にも立たない。まるでこの国の全てが魔王の為にあるみたいだ。
そんな不条理な食事風景もプラスで観察しながら僕達は、一時間程かけてロアゾブルの森にある少し開けた高原に出た。
「ここでお昼にしましょうか。」
僕はそう言いながら荷物の中からみんなが座れるであろう大きめのレジャーシートを出す。きっと魔王佐藤さんや鈴木さんの魔力を使えばレジャーシートも要らないんだろし、テントでさえ一瞬で建てられてしまうだろうけれど。
誰もそんな野暮な事は言わず、せっせとみんなでシートの端を持ってそれを広げた。
一様お弁当にはみんなの好きな食べ物を詰めてきたんだけれど、タロくんだけは「ロアゾブルの森にある石が食べてみたい。」と言ったので、子供達をレイミアさんとハピーちゃんに、魔王佐藤さんを安定の鈴木さんに任せ、僕はタロくんと二人で石を探す旅に出たのだった。
僕に石の善し悪しは分からないので、とりあえず見つけた石を手当り次第にタロくんの元に持っていく。聞くところによるとタロくんの中でも、この石は不味い、この石は美味しい。と言うのがある様だ。
「……先生……一番…簡単なの…丸くて……つるつる…した…石。」
やたらめったらそこら中の石を持ってくる僕に、タロくんは少し黙った後、的確な指導をしてくれたのだった。僕の中でタロくんが"石の先生"になった瞬間である。
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