第39話 これがお約束


「おい、石田よ。」

「はい、何ですか?佐藤さん。」

「雨だぞ。」

「雨、ですね。」

「土砂降りだぞ。」

「土砂降り、ですね。」

「どーする?」

「どうしましょうか?」


僕達2人は、魔王城にある大きな窓から抜け殻のように外をぼんやり眺めていた。窓ガラスに強く当たる雨粒の音が、その降り方を嫌でも教えてくれる。外は土砂降り、気分は駄々下がりの急降下。


今朝起きた時から何となく嫌な予感はしていた。まさにフラグとも思える程、昨晩は大量にてるてる坊主を作ったのだ。回収されて当然である。


「仕方が無いな…。」


魔王佐藤さんは僕の隣で目を伏せた。


「そうですね、こればっかりは仕方無いですよね。」


子供達の落ち込んだ表情を想像しながら、僕も目を伏せる。所詮てるてる坊主だ。降る時は降る。今日は残念だけれど、屋内で出来る遊びをして…また後日ロアゾブルの森へ行けばいいか。


そう僕が考え始めた時、魔王佐藤さんがいきなり目の前の大きな窓を盛大に開け放った。


「えぇ!?ちょっ!何してるんですか!」


開いた窓からは強い風と共に、大粒の雨粒が僕達に降り注ぐ。しかし魔王佐藤さんは雨で濡れる事なんて気にもせずに、掌を天へと向けた。


僕は一体何をしているのか何をするのか分からず、ただただ魔王佐藤さんのその奇行に唖然としながら目を見張る。


天へと上げた魔王佐藤さんの手の中に渦を巻きながら集まる光の微粒子。それは段々と大きくなり、辺りの風や雨さえも巻き込んで黒く染まっていった。


そうしてその黒く輝く光の渦が次第に大きくなり、僕の身体の半分程にまで膨れ上がった時───


照楼輝琉てるてるぼーーーーず!!!!」


大きな掛け声と共にそれは天へと放たれた。


魔王佐藤さんの手から放たれたその照楼輝琉坊主てるてるぼうずと言う禍々しい程の黒い光は、暗く空を包んでいた雨雲目掛け、真っ直ぐと登っていき、突き抜けた。


黒い光で穴の空いた雲は徐々にそこから散ってゆき、隙間から太陽が除く。叩きつけるように降っていた雨は次第に止み、雲一つない晴れやかな空となった。


「見たか、てるてる坊主よ!我の照楼輝琉坊主てるてるぼうずにかかればお前も形無しだなー!はっはっはっ!」


鉄板で十八番の流れだな、これ。腰に手を当て、晴れた空に笑顔を向ける魔王佐藤さん。本当に効いたな、照楼輝琉坊主。お陰様で僕はずぶ濡れになった訳だけれど。


「これで行けるな!遠足!」

「です、ね。ありがとうございます。」


うん、見事な(強制的)遠足日和だ。






「きーちゃん、おはようだねー。」


ずぶ濡れになった服を着替えて魔王城を出た僕の目の前に、大きな籠を掴んで現れたのはハピーちゃんだった。中には、まおう園の子供達が輝く笑顔で勢揃い。


どうやら魔王佐藤さんの照楼輝琉坊主は見られていなかったようで「晴れて良かったー。」「てるてる坊主のお陰だな!」と口々に零していた。


そして、ハピーちゃんの小さな身体のどこにそんな力が隠されているのか…距離は詳しく分からないがこれでロアゾブルの森まで飛ぶのだ。素直に凄いの一言である。ハピーちゃんの籠に乗り込みながら僕は感心した。


「おはよう、みんな。それからハピーちゃん、今日はよろしくね。」


籠の中にいたみんなに挨拶してから、僕はハピーちゃんを見た。


「僕ちゃん楽しみ過ぎて、昨日…あれ?その前かなー?あ、その前の前かもー眠れなかったんだよー。でもきっとーたぶんーかならずー籠は落とさないからねー。」


これはよろしくして良いものなのか、かなり不安だ。一瞬だけ転移魔法で行く案が浮かんだ。ちょと待って、やっぱり転移魔法で行こう。それが良い。その方が絶対良いに決まっている。何だかそっちの方が安心で安全な気がするし、やっぱり初めての遠足なんだからバラバラで行くよりもみんなでいっ───


「じゃあしゅっぱーつ。」


そんな考えを口に出すよりも早く、ハピーちゃんはその腕を羽根へと変えると力強く空へ飛び上がった。


魔王城の入口で転移魔法の準備をしながら「御武運を…。」と呟いた鈴木さんの声は、僕にはもう届かない。


「僕、まだ死にたくないんだけどーーー!」

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