第37話 初勝利ながら苦笑い


「あらあら、先生。これはまた…派手にやったわね。」


僕が勝利の雄叫びを上げる中、どこからとも無くレイミアさんが現れた。隣にはドン引きしているリトちゃんと、鬼を見るかの様な目で今にも泣き出しそうなアルゲールくん。

鬼はハピーちゃんの筈だったんだけどな…。


「石田先生ぇったら…まさか…こんなディープな趣味があったなんて…いくらリトでもビックリしちゃう…。」

「ややや、やっぱり、人間って、こ、怖い!」


あらぬ誤解を凄いレベルでされている様だ。絶対にこの過程を知っているであろうレイミアさんも、冗談なのかカラカラと笑いながら引き気味で僕を見ている。


確かにフォローのしようがない現状なのは認めるけれど。せめてレイミアさんには労って欲しかった。まぁ大人げなかった僕も悪いとは思うけれど。


「でも先生。私、ハピーに遊びで勝った人を見たのは初めてだわ。凄いじゃない。」


僕のそんな気持ちを察してか、レイミアさんは優しく微笑んだ。あぁ、やっぱり彼女には敵わないな。


「そうなんだよー、僕ちゃん初めて捕まったんだねー。きーちゃんは凄いんだねー。」

「いやー…みんなの助けと…犠牲があった上ですよ。」


僕はハピーちゃんの縄を解きながら、この数時間を振り返るようにそう言った。


「ところでレイミアさん達はどこにいたんです?」

「あら、私達?私達は…三人で仲良く絵本読んでたわよ?」

「呑気!」


僕達が必死で戦っている最中、絵本部屋で優雅に読書してたのか。確かにあそこもハピーちゃんにとっては興味の無い場所だろうから、探しに来ないだろうけれど。


「みんながハピーに捕まっちゃった時は、潔く降伏しましょう、て。ねぇ?リトちゃん、アルゲールくん?」


縄を解かれたハピーちゃんと共に、子供達を抱えながら教室に戻る中、レイミアさんはそんな絶望的な事を言いながらカラカラと笑っていた。

僕は、本当に勝てて良かったと心の底から思ったのだ。


「それできーちゃん、次は何して遊ぶのー?」

「え、ハピーちゃんまだ遊ぶの!?」


子供達を運び終えて、そんな恐ろしい事を言い出したハピーちゃんに僕は体力馬鹿の真髄を知った。








「はっはっはっはー!そりゃあ大変だったな、石田!」


その日の勤務を終えて魔王城に帰ってきた僕は、例のごとく魔王佐藤さんと一緒にお風呂に入ってた。広い浴室に響き渡る魔王佐藤さんの笑い声を聞きながら、僕は溜息を吐く。


「流石に今日は死ぬかと思いましたよ。」


僕は湯船の淵に頭を預け、目を閉じた。


「いやーまさかハピーに遊びで勝つとはなー!我もそれには驚いたぞ。どうだ石田!今度、我とも遊ばないか!?」

「いやいや勘弁してくださいよ、佐藤さん。魔王でしょ、貴方。」

「いいじゃんいいじゃーん!魔力とか使わないからぁー」


そんな可愛くない駄々をこねる魔王佐藤さんを、僕はチラリと見た。これは魔力を使う使わない以前の問題だろう。2m近くあるその巨体に、ハピーちゃんばりの体力。昔は闘技場で戦っていたと言うのも頷けるその引き締まった筋肉。


僕とはまるで土俵が違う。一般人がヘビー級に挑むようなものだ。そもそも魔王佐藤さんはヘビー級より遥かに上、キング級。


「ジャンケンぐらいならいいですよ。」

「えぇーーー別に我は、勝っても石田の一部とかいらないから、ジャンケンは却下だな。」

「僕の知ってるジャンケンと違うみたいなんで止めときましょうか。」


やはり恐ろしいな、魔界。おちおちジャンケンも出来やしない。


「まぁまぁ良いじゃ無いですか。言ってる間にもうすぐ遠足ですし…少なくともそこでなら佐藤さんも羽を伸ばせるんじゃないですか?」

「おぉ!そうだな、遠足!我はその為に今日も鈴木に連れ回されて軍議に執務に視察に…仕事三昧!」


魔王佐藤さんは頭の後ろで手を組みながら、あーあと身体を伸ばした。どうやら春の遠足の為に、魔王佐藤さんは珍しく真面目にお仕事しているみたいだ。


「ほんっと、魔王使い荒いわー。」

「あはは、きっと鈴木さんも遠足楽しみにしてるんですよ。」

「笑い事じゃないぞ?石田。あいつの仕事の詰めっぷりったら、今日テオリスで詰めた画面のブロック共より詰めてくるからな。」


ちゃっかりゲームする時間あるんじゃん!


「会議中に机の下で遊んでたらバレた。」


駄魔王!


「しかもゲーム機割られた。」


その風景が嫌でも想像つくところが怖い。


「明日も詰め詰めのブロックだと思うとなー。まじやる気なくす。」

「疲れきったサラリーマンみたいな台詞ですね。」


僕のいた世界でなら、一杯いきますか?と言いたくなる状況だ。


「ま、子供らが今日も元気に遊んでたってだけで…我は満足だけどなー。」

「元気でしたよ。今日も元気に笑顔いっぱいでした。」


そんな僕の報告に、うんうんと満足気に頷く魔王佐藤さん。てっきり自分も一緒に遊びたい、だなんてまた駄々を捏ねるかと思ったけれど。


その後も魔王佐藤さんは、今日の魔勇隠れんぼの話を聞きながら嬉しそうに相槌を打ってくれた。どうやら今日は、ちゃんと勤務報告が出来たみたいで僕としても大満足だ。


そしてお風呂から上がり魔王佐藤さん、レイミアさん、ハピーちゃんと夕食を一緒に食べた後、僕は明日くるであろう筋肉痛を密かに恐れながら眠りにつくのだった。

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