第34話 優秀な鳥女
それは俺様の両親が鍛治職人として魔王軍の傘下に入り、戦場に出てから長い時間が経った頃。その鳥女は突然現れた。
「君はー…と、と、とーきんぐへんなじむ?」
「トールキン・ヘンソン・ジムだ。」
「あーそうそう、ジムくんー。」
最初はなんだこの鳥女、と思った。俺様の名前を変な喋り方するジムみたいに言いやがって。そんな鳥女は俺様の事をジドウヨウゴシセツとやらに連れて行くと言い出した。
そこは戦争で親と離れたり家を無くした子供達が一緒に暮らす場所だと言う。もちろん俺様は断った。こんなどこの鳥とも知れない女について行くのも嫌だったし、とーちゃんやかーちゃんが戻ってくるかもしれないこの家から出るのが何より嫌だった。
戦火がこのゴブリン谷のすぐそこまで迫って来ているのは俺様も知っていたし、他の仲間はもう殆ど他の谷へ引っ越していたけど、俺様はこの場所から離れたくなかった。
「じゃあさー、僕ちゃん達と遊ぼーよ!」
そんなゴブリン谷への愛を語った俺様を無視し、鳥女は脈略も無い訳の分からないことを言うと俺様の返事を待たずに空へと飛び立ったのだ。そして数時間して戻ってきた時には、自分の何倍もある大きな籠をその足に掴んでいた。
中にはケンタウロスのルル、ミノタウロスのアイ、ゴーレムのタロ、サイクロプスのアルゲール、夢魔のリト、5人の幼魔達が入っていた。
べ、別にその時リトに一目惚れしたとかそんなんじゃないからな!
それからその鳥女は人数も居る事だし、魔勇隠れんぼをしようと言い出した。俺様も何回かはやった事はあるが、これはいつも中々勇者が決まらない遊びだ。自発的に勇者をやりたい奴なんていない。それはそうだ、敵なんだから。
だからいつもは誰かジャンケンに負けた奴が勇者をやるんだけど、やりたくないもんだからやる気なんて到底無い。いつも魔王軍が勇者を捕まえて終わり。
それでもそこそこ戦略を練ったりして面白い遊びだから、子供の遊びなんて嫌いな俺様も渋々いつも参加するんだけど。今回はどうやら違った様で、鳥女が勇者をやるらしい。
「僕ちゃんが勇者だからねー。捕まえたら拷問だよー。ちなみに僕ちゃんが勝ったらージムくんを連れて行きまーす。」
そんな呑気な掛け声と共に、魔勇隠れんぼは始まった。こんなネジの緩い鳥女なんて一瞬で捕まえられると思った。この鳥女がどんな意図でこの遊びを選んだのかは分からなかったが、子供とは言え、俺様達は魔物や魔族。それが6人も揃えば、こんな鳥女なんて簡単に捕まえられると。その時、俺様は信じていた。
まさかこの鳥女がそうやって遊びながら、数々の勝負に勝利してこの5人を連れてきたなんて事は考えもせずに。
まぁ俺様がこのジドウヨウゴシセツとやらに来ている事を見れば、結果は分かるだろう。負けたんだ。それも尽く惨敗。俺様を含め残りの5人も、あの鳥女に触れることすら出来なかった。俺様の駆使した作戦も、谷中に張り巡らせた罠も、尽く突破され看破された。
ハーピーと言う種族の事は少し聞いていたから知っていたけど、あそこまで素早くて体力のある魔物だとは思ってなかった。
簡単だと高を括っていた俺様じゃなくとも、多分あの鳥女を捕まえる事は不可能だったはずだ。なぜならあの鳥女は俺様達が子供だからと気を使ったのか舐めていたのか、自分の武器であるその羽根を一度も使わなかったのだから。
悔しい気持ちと反面、久しぶりに誰かと全力で遊んだ俺様はかなり満足していた。別に寂しかったとかじゃなくて!谷のみんなが出ていってからずっと一人で暇だったし、そうだ暇だったんだ。
それにする事も特に無かったからな。あんなに沢山の奴等と一緒に笑ったのは久しぶりだった。あの鳥女の楽しそうな顔を見てたらジドウヨウゴシセツって場所も悪いもんじゃないかもしれないなんて思えてきて。
そもそも俺様は勝負に負けた訳だし、そこは男に二言は無い。俺様はこの鳥女について行くことにしたんだ。とーちゃんやかーちゃん、みんなが戻ってくるまでの間、それからこの鳥女にいつか勝利するその日まで。
「つまりそう言うことだ、石田。」
「成程ね。確かに手強そうだ。」
「それにあの鳥女は容赦無く拷問する。」
「もしかして…その時も?」
まさかあのハピーちゃんが遊びとは言え子供を拷問するだなんて信じられない。
「あぁ。それはそれは阿鼻叫喚、地獄絵図だったぜ。縛られたタロは石を目の前に並べられてお預け状態。ルルとアイは谷の端と端に縛られお互いが全く見えない状態。アルゲールは…とりあえず捕まった時点で泣いてたな。リトは最後まで俺様と粘ってたけど、結局捕まって……速攻で魔王軍を裏切って鳥女の仲間になってた。」
ちょっ、リトちゃん。想像つくなー、それ。
「あいつは血も涙もない悪魔だ!」
「え、ハピーちゃん?リトちゃん?どっち?」
「今日こそ…今日こそあの鳥女を捕まえて、あの日の出来事を精算してもらう!」
志高いジムくんには、もう僕の言葉は届かないらしい。それにしてもハピーちゃんは、僕が考えていたより遥かに強敵だ。
あの魔王佐藤さんが遊びの天才だと太鼓判を押すだけの事はある。これは隠れつつも仲間の魔王軍を探さないと、流石に三人ではハピーちゃんを捕まえる事は出来そうに無い。
僕的にはレイミアさんを見付けたいのだけれど…多分あの人は本当に見付からなさそうだし、大人がタッグを組むのも違うような気もする。
「とりあえずタロくんはグラウンドにいるとして…ジムくん、他の子を探そうか。」
「お、石田。中々分かってきたな!」
僕は部屋からそっとグラウンドを覗き込み、ハピーちゃんがいない事を確認すると、ジムくんの手を取りプレイルームへと向かった。これは勘なのだけれど、あそこにはドランくんが居そうな気がしたからだ。
今、僕達に必要なのは空を飛べる仲間である。リトちゃんも一様は飛べるけれど、どこにいるのかまだ分からない。ここは先にめぼしい場所を当たるしか無いだろう。
僕とジムくんはプレイルームに到着し、お城の中でドランくんを発見した。
「やっぱりハピー強いなー!」
膝を擦りむいていたドランくんは開口一番、満面の笑みでそう言った。どうやら僕とジムくんがここに来る前に、既にハピーちゃんを捕まえようと奮闘したみたいだ。
「ドランくんもハピーちゃんと遊んだ事があるの?」
僕はドランくんの膝の手当をしながら聞く。
「うん!俺の住んでる山にもむかし来たことあるんだ!その時は決闘ごっこしたけど負けたんだよなー。」
決闘がごっこ遊びだと言う事を僕は初めて知った。
「ありがとう石田先生!」
手当の終わった膝を見て、ドランくんはニカッと笑った。子供とは言え竜でも敵わないなんて、これはいよいよ侮れないなハピーちゃん。何だかもう隠れんぼなのかハピーちゃんを捕まえる遊びなのかよく分からなくはなって来たけれど。
しかし目の前のジムくんとドランくんは闘士を燃やし、とても生き生きとした表情を浮かべていた。こんな表情が見られるのはやっぱり相手がハピーちゃんだからだろうか。相手にとって遊ぶのに不足無し、といった所だ。
「とりあえずこれで4人、かぁ。」
「石田先生、もう一人いるよ!ここ!」
ドランくんの指差す方を見ると、そこには寝起きのベンヌくんがいた。今日は朝から寝ていたので、すっかり影に隠れていたけど。どうやらこの騒動に起きてきた様だ。
「おはよーございます、石田せんせー。」
「おはよう、ベンヌくん。」
不死鳥であるベンヌくんは、眠る事でその身体を維持している。初日にルルちゃんとアイちゃんに下半身を吹っ飛ばされたので、その回復もあってか最近はよく眠っていたけれど、どうやらもう起きてきて良いみたいだ。
「これで5人。俺様的には後二人位は欲しい所だな。」
「そうだね、数も多ければそれだけ有利だろうし。」
ジムくんの提案に、僕は小さく頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます