第27話 謎が謎を呼ぶ骸骨面
浴室の中を自由型のように泳ぐ魔王佐藤さんを見ながら僕は考えていた。この人本当に魔王なんだろうか?と。
「我も世界は超えられないからなー。」
そんな事を言いながら背泳ぎしてるもんだから。
「魔王って世界征服とかするんじゃないんですか?」
「え、そうなの?まじで?怖い。」
こりゃ平和な訳だ。いや実際問題この世界では戦争しているんだけど。
「僕の見ていた二次元の話では、よく他の世界とか征服しに来てましたよ?」
「あぁー…なんかそんなのもあったな。」
そんなのって。一様そう言うのも見てるんだ。
「そーゆう事があるから、その世界で絶対的な力を持つ者は世界超えられないんだってよ。鈴木が言ってた。まぁ我レベルになると本気出したら超えれるけど。」
え、結局超えれるんじゃん!
僕は心の中で突っ込んだ。魔王佐藤さんがなかなか本気を出さないタイプで良かった。こんな無茶苦茶な人が僕の世界に来たら…引きこもってゲームしたり漫画読んだりしそうだ。恐ろしい。
「え、じゃあ佐藤さんってどうやって僕の世界にあるゲームやら本を入手してるんですか?」
「それは鈴木が持って帰って来てくれる。なんかあいつお前の事迎えに行って以来、ニホンとやらにハマったのかちょくちょく行ってるぞ。」
「そっか、鈴木さん悪魔だから…。」
と言うかあの人、魔王佐藤さんに振り回されながらもここ数日そんな事してたんだ。凄い多忙だな。
「まぁアイツ寝ないで良いタイプの悪魔だしなー。」
「側近にピッタリのタイプですね。でも実際、鈴木さんが僕の世界に来たら周りの人にかなりビックリされると思うんですけど。」
あの山羊の骸骨面は中々に初対面のインパクトが凄い。僕はこの世界で初めてあったので、それほど驚かなかったけれど、日本で会ってたら腰を抜かすレベルだ。
「それは心配無いんじゃねー?あの見た目なのここでだけだしな。」
「え!?そうなんですか?」
「当たり前だろ。湯浴みとか寝るときどーすんだよ、あの頭で。」
確かに考えてみればそうなんだけれど。つい鈴木さんはあぁ言うものだと思っていた。あれって付属品だったんだ。と、言う事は本来の顔がある筈。あの山羊の骸骨面の下に隠された、本当の鈴木さんの顔が。
それは気になる。正直、今日の出勤報告なんてどうでも良くなるぐらい気になる。そんな責任感の無い考えも浮かんでしまう程に気に掛かる。
人間、触ってはいけないと言われれば触りたいし、してはいけないと言われればしたいし、見てはいけないと言われれば見たい生き物だ。
そもそも何故、鈴木さんはあの骸骨面を着けているのか…取れると言うならその理由も知りたい。
「あ、それで石田!今日の報告に来たんだろー?」
「あ…そうでしたね。」
僕はすっかり他所に行ってしまった思考を引き戻した。鈴木さん(骸骨面)の事を考えるだけで入浴が終わってしまう所だった。
「石田ぁー仕事忘れんなよなぁー!」
魔王佐藤さんには言われたくない台詞ナンバーワンだ。僕は軽く謝りながら、心の中でそんな事を思っていた。
「でっ!凄かっただろー!あの建物!」
「そうですね。正直、本当にビックリしました。あの規模の建物を一日で建てちゃうなんて感動です。」
僕の素直な褒め言葉に、そうだろうそうだろうとドヤ顔をする魔王佐藤さん。どうやら泳ぐのはもう飽きた様だ。今は僕の隣で静かに湯船に浸かっていた。
「とりあえず初日は子供達を全員見つけた所で終了です。ははは。」
「おっ!見つけるだけでも数日かかると思ってなんだけどなー。やっぱ優秀だな、石田は。」
「あー…いえ、レイミアさんにヒント貰いながらでしたからね。」
寧ろ自力で見つけたのはドランくん、ベンヌくん、ルルちゃん、アイちゃんぐらいだ。それでも見つけたと言うより、グラウンドにいたのを偶然タイミングよく居合わせたってだけだけれど。
「それでも大したもんだ。どーせレイミアが一緒に捜すとか言い出して、断ったんだろー?」
「あれ?なんで分かったんですか?」
「んーーーなんとなくだ。なんとなーく。石田はプロだからそーしたんじゃないかと思ってな。」
「プロ?」
僕は慣れないその言葉に頭を捻った。
「そ、プロ!お前の仕事に対する姿勢はプロそのものだと思うんだよなー。的確に要る物と要らない物を分けてるっつーか、子供達に対する考え方っつーか?」
「そこ疑問形なんですね。」
僕は疑問形に少し笑いながら、魔王佐藤さんの考えを聞いていた。割と仕事をサボりがちな佐藤さんだけど、それでもこの国の子供達の事はしっかり考えているんだな。
「施設作るとか、我には考えても考えても出てこない答えだからな。煮え切らないとこが煮え切ってすっきりしたわー。」
「とりあえずは一歩踏み出したって感じですね。」
「だなー。問題はまだあるんだろーけど、あいつ等が安心して暮らせる所があるってのはいい。」
そう言った魔王佐藤さんはとても優しい顔をしていた。王であり、全者の父の様な。それを見て今日一日の疲れも忘れるくらい、僕は暖かな気持ちになった。
この人が魔王で良かったな、と。
「よしっ!そしてじゃあ上がってご飯にするかー!」
魔王佐藤さんは勢いよく湯船から出ると、豪快に笑いながら脱衣所の方へと歩いて行った。
「あ……今日の報告してない。」
取り残された僕は、本来の目的を忘れていた
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