第26話 ラッキースケベとは一体…
「はぁぁーーー、疲れたぁーーー。」
僕は長めの溜息と共に椅子にしなだりかかった。日頃からある程度軽くは運動していたりするけど、流石は魔物の子供達と言うか何と言うか。体力が凄い。それも桁違いに。
プレイルームに集まっているみんなを前に、今一度軽く挨拶し、それぞれの自己紹介が済んだあと
みんなでお昼を食べ、グラウンドに出たまではよかったのだ…明らかに体力のありそうなドランくんを初め、ちょっと大人しめだと思っていたアルゲールくんやタロくんまで、底が無いのかってくらい元気だった。
それぞれ遊び方は違うけれどポテンシャルは同じだろう。
唯一ずっと僕の隣を着いてきていたリトちゃんは、それこ将来が心配になるほど耳元で放送禁止用語を連発していた。そう言う悪魔とは言え、なんとかしないとなと思う。せめて少しは自重して貰わないと、受け流す僕の身が持たない。
「石田殿、大変お疲れのご様子で。」
「あ、鈴木さん。」
魔王城の食堂でダラダラしていた僕に声をかけてきたのは魔王佐藤さんの側近、鈴木さんだった。ちなみにレイミアさんは帰ってきてすぐに資料図書室である自分の部屋に戻っていった。疲れた様子では無かったけれど、施設の遊具について改良の余地を見つけたとかなんとか…。
「すいません、だらしない姿で…。」
僕は椅子に座り直しながら苦笑いした。
「いえいえ、今までとは世界も勝手も違う場所です。急にこの様な事になって石田殿もお疲れでしょう。」
心做しか鈴木さんはそう言いながら微笑んでいたように思う。鉄壁の骸骨面なので相変わらず表情は分からないけれど。
「よろしければ、夕食前に湯浴みなどいかがですか?佐藤様も今入っておられますし、出来ればその際に今日のご報告などして頂きたいのですが。」
鈴木さん曰く、魔王佐藤さんはお風呂時か食事時しか長話(難しい話)が出来ないらしい。どんな性分だそれは。まぁどちらにせよ、初勤の報告をしようと食堂で待ってたってのもある。ついでだから鈴木さんのお言葉に甘えてお風呂を頂くとしよう。
僕は鈴木さんにお礼を言ってから、魔王佐藤さんが湯浴みしていると言うお風呂場に向かった。
そう、やっぱりと言うべきか流石と言うべきか…それは僕の知っている家庭のお風呂では無かった。ここで紹介すると長くなるので割愛させていただくとして、これは魔王佐藤さんのセンスだろうなって感じだ。本当に一つだけ伝えられるとしたら、等身大の魔王佐藤さんの口から、滝のようにお湯が出ている。
「一緒に失礼しまーす。」
広い浴室に響く僕の声。
「きゃっ!やだもう!石田ったら!」
そこに顔を隠して恥ずかしがる魔王佐藤さん。なんだこの状況。
「何してるんですか、佐藤さん。」
「いや、女子とお風呂でばったり出会う"ラッキースケベ"ってやつの再現だが?」
僕はもはや突っ込みも忘れ、素早く身体を洗って湯船に浸かった。
「レイミアだと思ったかー?ははは!初めましてのラッキースケベが我で残念だったな!」
「いや入ってるの知ってて来たんで大丈夫ですよ。」
「なに!?石田は我の身体が目当てだったのか!?」
「違いますよ!」
「えっ、じゃあこの洗練された精神が!?」
「なんでそうなる。」
何を言い出すのやら。そんな事になったら話が変わってくる上にややこしくなるだろう。どっちにしろ魔王の肉体も佐藤さんの精神も僕には必要ない。
「さっき食堂で鈴木さんに会って…今日の報告がてらお風呂を進められんですよ。」
「あぁ。我も部屋でゲームしてたら、鈴木に湯浴みしろ湯浴みしろとしつこく言われてな。あいつってさー口煩い小姑っぽくない?」
「ゲームしてたんですか?」
「おう!今日は真面目に軍事会議に出たからなー。バイオラザートしてた。」
「まさかの同族倒すゲーム!?て言うか佐藤さん、"ハーレム"とか"ラッキースケベ"とかゲームもそうですけど…どこで仕入れてるんですか?」
僕は湯船でバタ足しながら泳いでいる魔王佐藤さん(鈴木さんが見たら注意するんだろうな)にふとした疑問をぶつけた。
「ん?お前の世界からだけど?」
端的に返ってきた返事は耳を疑うものだった。まさかのまさか、僕のいた世界から?つまり僕のいた世界と、この世界は行き来が出来るって事なのか?僕がここに来れてるんだから、可能なんだろうけど。
つまり僕は元の世界に帰れるって事じゃないのか?そんな事ここに来てから数日、考えた事も無かったしそんな事を考える暇も無かったけれど。
別に今すぐ帰りたい訳じゃないけれど、僕にとってそれはとても重大な事柄だった。
「あ、ちなみに石田は帰れないぞー。」
「え?そうなんですか?」
「世界は悪魔にしか超えられないんだってよー。あ、あと天使?」
オーマイゴッド。
どうやら僕の希望的観測は見事に砕け散ったみたいだ。
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