第25話 下手と嫌いは別物だ

さて、なんだかお城と化してきたプレイルームに集まった(集めた)6人の魔物と魔族の子供達。みんなそれぞれ仲良くお城(プレイルーム)で遊び、僕は微笑ましくそれを見ていた。


いよいよ残す所あと一人となったけれど。どうやらこの後一人、レイミアさんに聞いた所によると居たり居なかったりするらしい。

存在を感じたり、感じ無かったり。なんだか幽霊みたいな話だ。


「この感じは…どんな種族か当たりがつくんだけれど。ちょっと先生には難しいかもしれないわねぇ。」


「んーーー。それは困りましたね…お昼までには見つけて、みんなでお昼ご飯食べようと思ってたんですけど…。」


これはいよいよ本格的にレイミアさんの出動か……いや、僕が見つけなきゃいけない。何となくそんな気がする。僕は他の世界の者だし、ましてや人間だ。みんなとは多少なりとも距離を感じていたりする。


だからかもしれないけれど、何故か他には頼れないと言うか…いやレイミアさんにヒントは貰っているんだけれどね。


ファーストコンタクトは僕が取ってあげたいんだよなぁ。こう見えて意外に頑固でもある僕は、手伝いましょうか?と提案してくれたレイミアさんに断りを入れ、いざあと一人を見つける為に気合を入れた。


「よしっ!行ってきます!」

「はぁい。気を付けて。」


ひらひらと手を振るレイミアさんに見送られ、僕はラストスパートへと洒落込む。


洒落込む。



洒落込む。





洒落込む。









洒落込めない!!!!


なんだ!?全く見つからない。影も形もない。どこにもいない。気配も無い。尻尾も掴めない。予想も立てられない。ましてやレイミアさんみたいに感知も探知も出来ない。


一通り全ての教室を見て周り、もちろん音楽室も絵本部屋も理科室も、音楽室も放送室も美術室も、水辺の魔物かな?とも思ってプールも見に行った。途中から血迷って花瓶や靴箱や謎に自分の靴の中まで探した。


だけどいないのだ。


僕はグラウンドに出張っていた岩に腰掛けて、大きな遊具を見上げた。


「はぁー…まさかここまでとは…。」


大人でも遊びがいありそうな遊具が駄目な僕を見下ろしている。ちょっと一回遊んでやろうか。


グラグラ───グラグラ────


僕が諦め半ばでそんな事を思っていると、突然地面が揺れた。いや地面というより揺れているのは僕の座っている岩だ。僕はたまらずバランスを崩し尻餅をつく形で仰向けに転んだ。


「…………………。」

きょとんとする僕の前には岩の塊。


「…………………。」


その岩の塊はグラウンドにあった石を拾うとパクリと口へ放り込んだ。ボリボリと石を砕く咀嚼音が聞こえるけれど、未だにその岩は声を発さない。


「こんにちは…。」


僕は石を食べ続ける岩に向かって言った。


「ポリポリ…………………。」


沈黙。


え、多分この子だよね?最後の一人。岩だけど。凄く岩っぽいけど。サイズ的にも僕の膝位だし、うん。子供サイズ。


「初めまして、だよね?僕は石田って言うんだけど…君の名前は?」

「……ポリポリ………………。」


まさかここへ来て、初めてのスルー。もしかして言葉の壁?そーいえば僕はこの異世界でどうしてみんなと言葉が通じ、会話出来るんだろうか。あ、これ考えちゃ駄目なやつだ。大人の都合大人の都合。


「んーーー、困ったなぁ。」


僕は小さく言って、首をひねった。

目の前で石をポリポリ食べているこの子に言葉が通じているのか分からない。英語でいってみるか?いや、フランス語?それとも……いや僕は日本しか話せない!馬鹿!


「……………タロ。」

「え?」


石を選別しながら、石に違いがあるのかは謎だけれど。その子ははっきりと名前を言った。


「タロくん?」

「…………………ポリポリ……。」


よし。またも無視されたけれど、名前は"タロくん"らしい。


「タロくん。僕は今日からここで先生としてみんなと一緒にお勉強する事になった石田って言うんだ。よろしくね?」

「ポリポリ……………………。」

「タロくんは石が好きなの?」

「……………ポリポリ…………。」 「美味しい?」

「……ポリポリ………………………。」

「グラウンドが綺麗になって一石二鳥だね!」

「…ポリポリ……………。」

「みんな中のプレイルームで遊んでるんだけど、一緒に行かない?」

「……………………。」


くっ…手強い。ずっと石を食べている。ちょっと心が折れそうだ。しかしタロくんは無心で石を食べているけど、僕の話を聞いてはくれている様だ。たまに食べる手が止まる。


「タロ………話すの……ヘタ……。」


そしてポツリと呟き、僕の方をチラッと見た。


「だけど…先生は良い人そうだから…たまに話す。」


なんだ、そういう事か。僕は少し笑顔を作りながら「ありがとう。」とタロくんの頭を撫でた。岩で出来た表情からはあまり感情を読めなかったけれど、タロくんは何度か頷きながら何か納得したようだった。


それから少しグラウンドでタロくんとお喋りをした。お喋りと言っても、僕が五回程何かを聞いたり話したりして、タロくんがそれに一回答えるか頷くかって感じだったけれど。


それでも大事な事や伝えたい事に関してはちゃんと言葉で伝えてくれた。

タロくんは本当は沢山お喋りしたいけれど、のんびりしているから会話する早さとか話に入るタイミングなんかが難しくて苦手らしい。それを自分で"ヘタだ"って思っているみたいだ。


だけどそんなタロくんと話していると、僕はとても穏やかな気持ちになった。時間がゆっくり流れていて心地よい。朝から子供達を探して走り回っていたのが嘘みたいに、凄く癒される。


~~~♪~~♪~~~♪~~~~~


そんな憩いの場に大音量で流れてきたピアノの伴奏。

え、これって?


「シューベルトの…魔王?」


始まるピアノの序奏。変形したロンド形式に4分の4拍子。そしてオクターブで歌い出すオペラばりの声。


「先生!お昼のチャイム鳴っちゃったわよー。」


タロくんと対峙する僕に、施設内からグラウンドに出てきたレイミアさんが叫んだ。ちょっ、これチャイムなの!?なんでこんなに可愛い建物に対してチャイム魔王!?馬鹿だ。誰のセンスなのかと疑ったけれど、これはアレだ。絶対に魔王佐藤さんに決まっている。


僕は呆れながらも、石をたらふく食べたであろうタロくんに「お昼にしようか?」と笑顔を向けた。


馬鹿みたいな音で施設内に魔王が響き渡る中

お話好きのお喋り下手タロくんは、僕の服の裾をそっと掴んだのだ。

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