第24話 プチ誘惑

プレイルームにジムくんを送り届け、僕は再び施設内を散策する。ドランくん達に至ってはもう自作のお城の周りに街なんか作っちゃって、なんだか子供の遊びの域をこえていた。


レイミアさんはどこから持ってきたのか本を片手にべンヌくんを膝枕。ルルちゃんとアイちゃんはドランくん達が作った街でおままごとをしていた。内容が【双子と知らずに両方と関係を持ってしまった男に対してどう責任を取らせるのか】と言う昼ドラ的な内容だったので、僕は見て見ぬ振りしたけれど。


「あと二人、か。」


僕は首をひねりながら考える。ジムくんが泣きながら走ってきた方角は確か、給食室だったかな?きっとそこにも一人、魔物の子供がいるはずだ。そう思った僕は足早に給食室へと向かう。


そこには園児用のテーブルと椅子が並んでるだけだった。低めで、だけど魔物達が座る用にしっかりとした作りの椅子。僕はそっとそこに座ってみる。まぁ案の定、凄く膝が曲がり座りにくかった。大人には無理のある高さだ。当たり前だけど。


「あららぁ~?大人のにそんな所に座って何してるのかしらぁ~?」


僕は急に耳元で囁かれ、びっくりして振り向いた。


「男の人って、みんなそうよね~。みんな少年みたいに可愛い心を持ってるのよねぇ。」


そんな事を言いながら魔物の子供達用に作られた椅子に脚を組みながら座る、一人の児童。少し挑発的な目で僕を見ている。またジムくんの様に、大人になりたい系子供の登場だと思った。


「あはは、男はいつまでも子供って言うからねー。」


僕は小さな椅子に座っている手前、そんな事を言った。


「僕はね、石田希月って言うんだけど。君のお名前教えてくれるかな?」


「そんなに子供扱いしないでくれる?あたしはねぇ~リリトゥ。リトって呼んでもいいのよ?自分で付けたのよ、何だか可愛い響きでしょう?」


頬に手を当て、リトちゃんは流し目で軽く微笑んだ。本人的には精一杯の妖艶さを出しているのかもしれないが、僕はレイミアさんと言う本物のソレを知っているので、優しい目でそれを見守る。いや、レイミアさんを知っていなくても子供のする事だ。反応なんてしない。え?どこがって?心がだよ。


「リトちゃんか。確かに可愛い響きだね。」


僕がそう言うとリトちゃんは少し顔を赤らめてそっぽを向いた。実に子供らしい、可愛い反応だった。それでも


「可愛いだなんて…そんな子供っぽい評価要らないわ!」


と言う姿もまた、残念ながら僕から見ればいじらしくて可愛いのだ。残念だったね!リトちゃん!


「そっか、そっか。それでー…リトちゃんは何の魔物さんなのかな?」


正直、今まで見てきた子供達とどこか違う雰囲気のリトちゃん。僕はこの子が何の魔物の子か分からなかった。上向きに角が生えているけれど、アイちゃんのそれとは少し違う。尻尾も生えているけれど、ドランくんのそれとも違う。そしてピンク色の長い髪を高い位置で二つ括りにしている。


こんな特徴の魔物は"魔物大全集"にも載っていなかったような…。僕が見落としただけなのかな?


リトちゃんは、僕の質問に口角を少し上げると


「あれぇ~?先生ぇなのに分からないの~?しょうがないわねぇ~教えてあげる。」


「あたしはねぇ~夢魔、サキュバスなの。」


とクスクス笑いながら答えた。


魔族か。だから"魔物大全集"に載っていなかったんだな。そう言えばさっき、名前を可愛い響きだって表現していた…そっか魔族といえば鈴木さんと同じ。突然産まれた存在だから、名前と言う概念が存在しなかったのか。


これは今度レイミアさんに"魔族大全集"も借りないといけなくなりそうだ。有るのかは分からないけれど。


そしてリトちゃんは言い終えると、椅子からスルリと立ち上がり僕の膝の上に座った。ゆっくり首に手を回し、前から抱き着くような形になると、僕の耳元で囁いたのだ。


「だからね、先生ぇ。あたしの───《ピーー》で先生ぇのいやらしい───《ピーー》を───《ピーー》しない?」

「いや、しないよ?」


何たる放送禁止用語連発かっ!子供の癖に!どこからそんな情報を仕入れて…ってサキュバスだからか!これは特性だと言っても教育上かなりよろしくないなぁ。リトちゃんの将来が心配になる程の爆弾発言だった。


「えぇーーーー!?しないの!?」


リトちゃんは驚いているけど、まだまだ甘い。僕は今日まで生まれてこの方彼女なんていた事は無いけれど、子供のサキュバスに誘惑される程に弱いメンタルの持ち主じゃない。


ちゃんと健全なお付き合いをして、ちゃんと順序を踏んだ後にそう言う事をしたいタイプなんだっ!って何を言わせるんだ!


「しないしない、当たり前でしょう?」


ふぅーっと溜息をついている僕に対して凄く不満そうに頰っぺを膨らませるリトちゃん。むしろ意味を分かって言っているのか謎である。


「ちぇっ…先生と生徒、禁断の関係って萌えるのにぃ~つまんない男~。」

「つまんない男、大いに結構!」


僕は胸を張りながら答え、そのままリトちゃんを抱きかかえると屋内プレイルームへと向かった。そう、この子を早く本物の妖艶さと魅惑さと魅了さを兼ね備えるレイミアさんに会わせたくて。


ただし、先にこれだけは言わせて欲しい。


僕は決して面白がっている訳じゃないから!

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