第23話 現実的な彼との出会い
「おい、石田よ。俺様は一体どうしたら年収600万円の安定した職業に就き、彼女と平和な生活をおくって行けるんだ?」
「いやー、ジムくん。そんな大人な考えはまだ必要ないんじゃないかなー?」
さてと、僕の目の前には小さなゴブリンの男の子が体育座りしながら絵本部屋の床を見つめていた。ドランくんやべンヌくん、そしてアルゲールくんよりも少し小さなその身体。
ゴブリンと言う事もあって、同年代の子達より小柄みたいだ。
そんな小柄な身体からは似ても似つかない程の大人な発言に僕は正直戸惑っていた。
「いやいや、石田よ。考えてもみてくれ。今からしっかりと将来を見据えて、計画していないと…ろくな大人に成れないに決まってるだろう。」
「あ、うんそうだね。」
この子の名前はトールキン・ヘンソン・ジム。ゴブリンの子供、ジムくん。僕がプレイルームを出た後、最初に見つけた魔物の子だ。なぜ僕がこの子とこんな将来?の話をしているのかと言うと、それは数十分前に遡る。
大きな泣き声と共に、廊下を走って来る男の子とぶつかった。一瞬何が起こったのか分からなかった僕は、痛みを覚えた下半身を見る。先端が丸く尖った耳に大きな目。その目にいっぱいの涙を溜めて、その子は僕を見上げた。
「えーと、こんにちは。」
僕は男の子の涙を拭いながら言った。
「お、おう…っ…ぐずっ…。」
泣いているのに少し虚勢を張っているかのような返事に、僕はクスリと笑ってしまった。泣いていても、小さくても、男の子なんだなーなんて思いながら。
僕はその子を落ち着かせるために、近くにあった絵本部屋に入る。お互い自己紹介をした後に、なんで泣いていたのか理由を聞いた。
「……理由はない。」
ジムくんはその一点張りだった。
あれだけ泣いていたのに、理由が無いなんて嘘だろうけど。これは初対面である僕には言い難い事なのかもしれないと思い、話をちょっとそらし世間話をする事にした。
そして話は冒頭に戻る。
『おい、石田よ。俺様は一体どうしたら年収600万円の安定した職業に就き、彼女と平和な生活をおくって行けるんだ?』
すっかり泣き止んだジムくんはそんな事を言い出したのだ。僕の事を呼び捨てにしている点はさて置こう。自己紹介して世間話をし始めた時からこうだから、特に気にもならなくなってきたし。
ジムくんはきっと早く大人になりたい子供、はたまたもう大人だと思っている子供って感じだ。
男として僕と対等な関係でいたいのかもしれない。それならとりあえずはこのままでいいかな、と思う。それにこの世界では常識に囚われていてはいけない。
「もしてして…ジムくん、好きな子とかいたりするの?」
大人びた発言を繰り返すジムくんに、僕はちょっと踏み込んだ質問をしてみた。これは選択のひとつとしてなんだけれど、きっと幸せにしてあげたい子がいるから、しっかりしなきゃと大人にならなきゃと思ってるんだろうと僕は思った。
そんな僕の質問に耳まで赤くしながら
「なっ!そっ、好きな奴!?そんなのっ…いるわけっないだろ!なに、言ってるんだ石田っ!ば、ばかじゃないのかっ!?」
ジムくんは明らかに動揺していた。
「仮に…仮にいたとしても別に関係ないだろ。」
そして俯くと小さくそう言った。
ジムくんの好きな子とやらが誰なのかは気になるけれど、まぁ今は聞かなくてもいいだろう。きっとこの動揺っぷりだと聞かなくても後々分かりそうだ。
「まぁ、それは関係ないとして…ジムくんは将来安定した職につくのが夢なの?」
「あ、あぁそうだな。戦争なんて生産性の無い事なんかしたくない。俺様は公務員とやらになって固定給ってやつを貰うのが夢だ。」
魔物なのになんて現実的な。その公務員やら固定給やらの言葉はどこで覚えたのやら。僕は感心しながら聞いていたけれど、確かに平和的で良い夢だと思う。前半の台詞には耳が痛い。
「ジムくん、実は僕のお仕事も公務員なれるお仕事なんだよ?」
「そ、そうなのか!?」
僕は"公務員保育士"と言うものがある事をジムくんに説明した。僕の就職先は魔界と言う特殊な場所なので、公務員では無いけれど。公立に採用されれば公務員保育士になれるのだ。小中学校の教員も地方公務員だったりする事が多い。
もちろん"公務員"って言うのは職種や職業ではなく"地位"みたいなものなので、その他にも色んな職業がある。
そんな話を噛み砕いて話すと、ジムくんは目をキラキラさせていた。
「公務員って色々あるんだな!」
どうやら夢が広がったみたいだ。良かった良かった。僕はもうそろそろ完全に落ち着いて来たジムくんに、プレイルームにみんな集まっているからそっちに移動しようかと誘った。
プレイルームに向かう最中、もっと色んな職業を教えて欲しいと言うジムくんに、僕は公務員以外も紹介したかったのだけれど…どうやら公務員以外には興味無いみたいだ。
「石田よ、それは公務員では無いだろ?」
とちょいちょい怒られた。
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