第22話 どきどきの追跡




僕はキュクロプス・ダ・アルゲール。


お父さんとお母さんが

人間との戦いから戻ってこないので

魔王様が建ててくれた

この建物で暮らす事になった。


この、カラフルな柵にオレンジ色の建物。


なんだか可愛い。


僕が建物の中に入ると

お外がなんだか騒がしかったから

そっと覗いて見た。


わわわっ!誰か倒れてる!


それに凄く怒ってるドラゴンの子もいる。


暴れん坊な種族だって噂のケンタウロスとミノタウロスも。


怖い、怖い、怖い。


僕は魔物だけど

争い事や戦いが凄くきらいだ。


僕の顔には大きな目が一つある。


小さなゴミが入ったり強い風が吹くと痛い。

そんな柔らかい弱点が顔の真ん中にあるんだ…


だからどうせすぐに倒されちゃう。


人間との戦いにいったお父さんやお母さんの事は

凄く凄く尊敬してる。

だけど……痛いのは、いやだ。


倒れてる子には悪いけど

僕はここに隠れていよう。ごめんね。


お父さんもお母さんも

魔物にはそれぞれ役目があるんだって言ってた。


戦いに行く前の日

二人は僕に隠れていなさいって言ったんだ。


だから僕の役目は隠れること。


そんな事を思ってたら

ドラゴンの男の子が大きな声で叫んだ。


僕はびっくりしてまた扉の影に隠れたけど<PBR>そんな僕の横を何かが走り抜けて

その騒ぎの中へ飛び込んでいった。


なんだろう?


ににににに人間だ!


なんでこんなところに人間が!?


まさか僕を見つけて倒しにきたんじゃ


どどどどうしよう!?


『ちょっとちょっと!どうした?何があったんだ?』


あ、なんだか僕には気づいてないみたいだ。

怒ってるドラゴンの子達と何か話してるみたいだ。


よかった。


するとケンタウロスとミノタウロスがこっちに向かって走って来た。


僕はびっくりして近くにあった

水色の箱の中に隠れる。


二人はここにはこなかったけど

代わりにさっきの人間達が

こっちに向かって来てた。


僕はそのまま静かに隠れる。


『僕は石田希月いしだきづき。今日から君たちの先生として、ここで一緒に学んで行く人間です!よろしくね?』


僕は箱の隙間からその人間を見た。


やっぱり!やっぱり人間だ!


人間は一番怖い。


人間は僕のにーちゃんや友達を殺す。


人間は僕を追いかける。


人間は僕の家を壊して燃やす。


人間は一番怖いんだ!


でも一緒に学んでいくってなんだろう?


一緒にってことは

あの怒っていたドラゴンの子達も一緒?


僕は出ていったその人間を追いかけた。


バレないように。そっと。


蛇の女の人とときどき目が合ったけど

その女の人は何も言わないでただ笑ってた。


なんだかお母さんの笑顔と似てる。


石田希月いしだきづきっていってた人間は

ケンタウロスとミノタウロスに

『ごめんね。』って言ってた。


なんだか僕は心がポカポカした。


お父さんとお母さんがいなくなってから

久しぶりに感じた気持ち。


なんか優しい気持ちだ。お日様みたいな。


人間なのに不思議だ。


二人も怒っていたドラゴンの子と倒れていた子に

『ごめんね。』ってしてた。


仲直り、したのかな?

みんな楽しそうにしてる。


それからも僕は少し

その先生って人について歩いた。


たまに振り向く蛇の女の人にびっくりしながら。


石田先生。


人間なのに

どっか僕の知ってる人間と違う。


なんでだろう?


なんであんなに優しそうに笑うの?



『こんにちは。』



なんでそんなに優しい声をしてるの?



僕はキュクロプス・ダ・アルゲール。


石田先生の手は

お父さんみたいに大きくないけど

お母さんみたいに大きくないけど


凄く暖かかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る