第21話 再び旅立ち
単眼のその姿を見るにこの子はサイクロプスだろうか?僕をチラチラと見上げながら、動揺して怯えているようにも見える。そして一歩、後ずさる。
あ、これは慎重に接しないと逃げ出しちゃうやつだ。と判断した僕は、ゆっくりとその場にしゃがみ込みその単眼の魔物と目線を合わせた。
そして出来る限り優しく微笑み「こんにちは。」とその子に挨拶した。
「こここここ、こんにちは!」
かなり動揺しながらもその子は元気に挨拶を返してくれた。よし、入りは中々に上々だ。
「僕は、石田希月って言うんだけど…君のお名前は?」
「しし、知ってるよ。」
あぁそっか。この子ずっと僕の後をつけてたんだっけ。
「ぼ、僕はキュクロプス・ダ・アルゲール。」
「アルゲールくんかぁ。よろしくね?」
僕は未だに怯えた表情のアルゲールくんに右手を差し出した。疑うような目で差し出した手と、僕の顔を交互に見ながら、それでも最後に僕の手を取りアルゲールくんは小さく微笑んだ。
アルゲールくんの手を取りプレイルームに戻ると、そこにはドランくんが積み上げた積み木がお城の様に形を変えていた。この短時間で凄い想像力と創造力だ。
「見てくれ!石田先生!俺のお城!」
「おぉ!凄いねドランくん。そうだ、アルゲールくんもそのお城に入れてあげてくれないかな?」
「ん?……いいよ!」
ドランくんがお城の天辺によじ登りながら満面の笑みでそう言ったので、僕はアルゲールくんの手を離し、オロオロとする彼に「大丈夫だよ、行っておいで。」と促した。
「なんだか凄く先生って感じねぇ。」
後ろでレイミアさんが僕を茶化した。そりゃまぁね、一様先生ですから。その為にここに呼ばれたんだし。
「茶化さないでくださいよっ!」
僕は少し気恥ずかしくなりながらも、レイミアさんの横に腰を下ろした。
ドランくんが創ったお城の中ではお互い自己紹介している声が聞こえる。アルゲールくんも同じ年代のドランくんに多少心を開いたのか、お城の中からはたまに小さな笑い声が聞こえた。
異種なんて関係無くお互いを素直に受け入れる姿は、僕達の見習わなくてはいけない所だな。
「他の子達も探さないと、ですね。」
「あら?あと何人いるか分かるの?先生。」
「いやーさっぱり。」
「じゃあ第二ヒント、いるかしら?」
「お願いしますっ!レイミア先生!」
ここへきて僕は、レイミアさんの能力無くしてはこの現状を切り抜けられないと悟った。潔の良さは大事である。
「そうねぇ……あと三人、は居るわね。」
ペロリと唇を舐めレイミアさんは答える。ふむ、あと三人。これが普通の人間の子供ならまだ隠れんぼ的な感覚で見つけやすいのだけれど。
何せ相手は魔物の子供達だ。どこにどう隠れているのか…。そもそも隠れているのかどうかも分からない。アルゲールくんみたいに近くに居るのに僕が見えていないだけかもしれない。
まさか初日に子供達を探す事から始まるなんて思っても見なかった僕は、ちょっとこの状況を楽しんでいた。きっと元いた世界ではこうはならなかった筈だ。
普通にどこかの幼稚園に勤務して、普通に教室に案内されて、普通に子供達と挨拶を交わして、普通に紙芝居や歌遊びして…普通に、普通に。
そんな普通のどこが悪いとは決して言わないし、むしろ良いんだけど。なんだか僕も子供に戻ったような気持ちで彼らと接する事が出来るここが、新鮮で楽しい。
「ねぇ、先生。なんだかとっても嬉しそうよ?」
レイミアさんはそんな僕の心情を察したのか、妖艶にカラカラと笑った。
「えぇ、とても楽しいんです。子供達と一人一人向き合いながら出会っていけて。僕のいた世界ではこんな事ってまず無いですからね。」
僕はそっとべンヌくんを背中から下ろしレイミアさんに預ける。そして隠れんぼの鬼になった様な気持ちであと三人の子供達を探すために立ち上がった。
僕が出て行こうとしたのと入れ違いでルルちゃんとアイちゃんもプレイルームにやって来た。
「「先生、まだ探してるの?」」
「あはは、そうなんだよ。一人、アルゲールくんを見つけたから一緒に遊んでおいで。先生は今からまた他の子を探しに行ってくるから。」
「「…あ、そーいえばさっき、一人見つけたよ?」」
「そっかー。ちゃんと挨拶は出来たかな?」
「「したよ。」」
よしよし、二人ともやっぱり根はいい子なんだな。僕は二人の頭を優しく撫で、プレイルームを出ようとした。すると後ろから
「「先生。その子がどこにいたのか」」
「ルルと」
「アイに」
「「聞かないの?」」
と、その純粋な瞳を合わせて投げかけてきた。
「聞かないよ。」
「「どうして?」」
「僕が見つけてあげたいんだ。」
プレイルームに居る五人をレイミアさんに預けて、僕はいよいよ残りの三人を探すために廊下に出た。やっぱり魔王佐藤さんが言っていたように、レイミアさんはとても頼りになる。これはハーレム云々を抜きにしても、同僚に彼女を選んでくれた魔王佐藤さんにお礼を言わなければいけないな。
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