第20話 可愛いストーカー
二人の手を取って教室に戻った僕を見て、ギョッとした顔をしているドランくん。相変わらずゆるく笑うべンヌくん。嬉しそうに舌を出して微笑むレイミアさん。
「ほら。」
僕はそっと二人を教室の中に入れると優しく背中を押した。
「「ドラン、べンヌ。ごめんね。」」
二人が揃ってそう言うとべンヌくんは軽く「いいよー。」と返事した。そんな異質だけれど暖かい空気を感じて僕は、世界がこうならどんなに良いかと思った。お互い素直になれれば問題はこんなにも柔らかく解決するのに。
「ん。」
ドランくんが二人の前まで来て、両手を差し出した。「もう、するなよな。」と言いながら握手を交わす。こんな対応を出来る彼らの方がよっぽど大人なんじゃないだろうか?その概念は分からないけれど。子供だからこそ、残虐にも純粋になれるのだろう。
「さぁて、みんな仲直りした事だし!他の子達達の所にも挨拶に行こうか!」
僕はルルちゃんとアイちゃんの頭を撫でながら、レイミアさんを見た。身体を起こしながらシュルシュルと僕の方まで近づく。
「探す所から始めなくちゃねぇ、先生。」
そしてカラカラと笑いながら唇を舐め、僕の横を通り過ぎる。もしかしたらレイミアさんはもう他の子達がどこにいるか分かってるのかも。いや、あの笑い方はもしかしたらじゃないな。きっと分かってる。彼女が舌を出すときは大体熱センサーと皮膚感知で全てがわかっている時だ。人が悪いなぁ、もう。
僕はまだ下半身の回復しないべンヌくんを背中におぶり、施設内の廊下を歩き出した。後ろにはルルちゃんの背に乗るアイちゃん。その横をドランくんが歩く。
「まさか子供達を探す所から始まるなんて思ってなかったですけど、施設内もまだ見てなかったし丁度良かったですね。」
「えぇ、そうね。」
チロチロと舌を出しながらレイミアさんは辺りを見渡す。教室の続く廊下を抜け、給食室、子供達の寝起きする寮、室内のプレイルーム、児童書の並ぶ絵本部屋、浅めのプール、その他にも理科室や音楽室、放送室、美術室を模した部屋まであった。
「……気合い入っちゃって。」
レイミアさんは照れたように笑う。蛇の貴重なテヘペロである。いやまぁいいんだけれどね。こんなに本格的な児童養護施設見た事なかったから驚いたけど。これな小学校までの教育がここ一つで出来そうだ。
それだけの教室や施設を回って思った。子供達が一人も見当たらない。初めは楽しそうについてきていたみんなもなんだか飽きてきた様だ。べンヌくんは僕の背中でお休み中だし、ルルちゃんとアイちゃんに至っては知らない間に居なくなっている。ドランくんは一様レイミアさんがいるからついてきてる、といった感じだ。
「中々苦労しているみたいね、先生。」
少々疲労感を覚え屋内プレイルームで休憩している僕に、レイミアさんは身体を寄せ舌を出す。ドランくんは積み木を積み上げ遊んでいる。おぉ、空を飛べるから天井付近まで積み木を詰めるのか。凄いなぁ。
「レイミアさん、お願いします。ちょっとだけヒント下さい!」
僕は潔く頼む事にした。
「素直な先生は好きよ。」
彼女はそう言って目を細めると、屋内プレイルームの入口をそっと見た。僕もその動作に合わせて、入口を見る。
「ん?」
開いた扉のはしに、ドランくんの様な小さな角が一本見えた。なんだろう?
「ずっと付いてきてたわよ、あの子。」
「え!?いつからですか?」
「んんー…そうねぇ、先生がルルちゃん達に話をしに行った時ぐらいから、かしら?」
「そんなに前からですか!?」
そんなに前から僕の後ろを付いてきていたなんて。本当に人が悪いんだから、と言いながらべンヌくんを起こさないようにそっと立ち上がり、僕は屋内プレイルームの入口へと向かった。
扉からそっと廊下を覗くと、そこには単眼の小さな魔物がモジモジと手を合わせていた。
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