第16話 拭えないけれど
笑いを噛み殺しているレイミアさんだが、彼女の杞憂と言う言葉には何か信用できるぐらいの重みがあった。
「石田殿、我々は人間では無いのですよ?」
鈴木さんは両手を広げ、そんな最もな事を言う。
「私達はね、恨みや憎しみ、憎悪や嫌悪で戦っている訳じゃないのよ。自尊心、それから戦う仲間や自分の親に敬意を払っているの。そりゃあ身内を討たれれば心は痛むけれど…少なからず戦って死んでいった者を重んじて、尊んで、誇り、美しいと思っているわ。」
レイミアさんは過去の自分を思い出しているのか、どこか遠い目をしていた。
魔王佐藤さんは賛成の意を示すように大きく頷く。口いっぱいにデザートを頬張りながら。
「そりゃあ恨み辛みもあるでしょうけれど…ほら、人間だって複雑なんでしょう?嫌いな相手と笑いあったり、したくない事を仕方なくしたり、悲しいけれど同じ事を繰り返したり、守るために傷付けたり、敵やライバルを尊敬したり、沢山の矛盾があるじゃない?」
確かに、好きの反対が嫌いではないし、否定の反対は肯定じゃない。そんな矛盾と共に生きているのが僕達だ。それが普通なのだろう。
「ですから石田殿、我々は安易に全ての人間を纏めて考えてはいません。種族ではなく、個々を見ているのです。」
「まぁそれでも私怨が全く無いと言えば嘘になるけれど。」
「私怨…。」
「ほら、矛盾でしょう?」
私怨という言葉の重さに息を呑む僕に対して、レイミアさんは軽く微笑んだ。
矛盾とは便利な言葉だが不思議だ。存在するし発音出来るのに、その意味を理解することは出来ない。
宇宙の真理みたいな言葉だな、と僕は思った。
「そーゆう訳で石田!うじうじ悩んでも仕方ないぞ!当たって砕けろってゆーだろ!まぁ子供とはいえ魔物だからなー当たられたら人間のお前は木っ端微塵だろーけどな!ははは!」
なんとも笑えない冗談だ。
だけどさっきまで僕の中にあった不安の種は身を潜めたようだ。
なるようになる、それもまた便利で不思議な言葉だ。
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