第14話 晩餐会と緑の鳥

途中から面白くなってきた魔物大全集を熱中して呼んでいると、鈴木さんが呼びに来た。さっき読み始めたばかりなのにもうそんな時間なのかと思いつつ僕はハーピーの章にしおりを挟み、鈴木さんと大食堂へと向かう。


魔王佐藤さんの"いい話"とやらも凄く気になるけれど夕食のメニューが一番気になる。またカラフルな食卓だと非常に困る。後、数日ぐらいは部屋の食料で持つかもしれないけれど、それが底を尽きた時。それは僕が人間を辞めるときかもしれない。


僕はその辺もドギマギしつつ、大食堂へと入った。そこには朝見た位置(上座)に魔王佐藤さん、長く伸びる机の右側にレイミアさん、その隣に初めて見る顔が座っていた。


レイミアさんが居ることに少し驚いたけれど、彼女はそんな状況も知っていたかの様に、今朝から分かっていたかの様に静かに微笑んでいるだけだった。レイミアさんがいるのなら、まだ夕食には食べられそうな物が出てくるかもしれないな。衣食住付きなのにも関わらず実に失礼だとは思うが。


ほっと胸をなでおろしていると、鈴木さんが僕をレイミアさんの前の席に案内してくれた。


「じゃじゃーーーーんっ!!!」


座ると同時、魔王佐藤さんはご紹介とばかりにレイミアさん達の方に手を広げ高らかに叫んだ。軍事会議をすっぽかして部下に捕まり、夕食抜きになり掛けていた人とは思えないテンションだ。


「どうだ石田!ジドウヨウゴシセツとやらでお前と一緒に働くメンバーだ!」


腕を組み自慢げに言う魔王佐藤さんは、うんうんと頷きながら一人で何やら納得している様子だ。


「レイミアは、もう会った事あるだろから紹介はいいだろ。隣のはハピーだ!」


ハピーと紹介されたその子はどこか上の空でキョロキョロとしていた。緑色のボブカットに所々跳ねている毛先、手首から肩にかけて長く鳥の翼の様な羽根が生えている。緑から黄色に変わっていくグラデーションカラーが美しい。


まだ少女の様に幼い顔立ちから、ハピーさんと言うよりはハピーちゃんって感じだ。


テーブルで腰から下は見えないけれど、僕はさっき読んでいた魔物大全集を思い返していた。今見えている特徴から考えて、この子はきっと栞を挟んだページで紹介されていたハーピーだろう。


「あ、どうもだねー僕ちゃんはハピーって言うんだよねー。えーと、ハ、ハ……。」

「ハルピュイア・タウマース・ハピー、でしょう?」

「そうそうーそれだよー。」


レイミアさんがハピーちゃんの名前を教えてくれた。今この子自分の名前忘れて無かったか?その鬱々として怠そうな、だけど声色だけは明るいハピーちゃんを見ながら僕は驚きの表情を浮かべた。


「ハピーはとってもいい子なんだけれどね。なんて言うか、ちょっと…ねぇ?三歩歩けば忘れちゃうタイプの天然さんなの。」


レイミアさんのフォローが痛い。天然と言う言葉がとてもオブラートに包まれているのが分かる。どうやらレイミアさんの天然の定義と僕の定義は同じでは無いらしい。


「我は面倒臭いから女はあんまりー、なんだがな。レイミアに関しては、まぁ問題無い!仕事の出来は我以上だ!後ハピーは女では無くだと思え!はっはっはっ!」


魔王佐藤さんは豪快に笑うが、全くフォローにはなっていない。する気も無いし、下手すればフォローなんて言葉も知らなさそうだ。なんだって!


「なんかあれなんだろー?石田みたいに異世界から来た男は全員もれなく"異世界来たら俺つえー、周りはみんな女の子!ハーレム祭りでうっはうは!ポロリもあるよ!"を期待しているのだろー?だから、同僚には女を選んでおいてやった!よく分からんがこれでハーレム?とやらを楽しめ!」


我って優しー!と言いながらドヤ顔でキメている魔王佐藤さんに色々と突っ込みたい所はあるが、ちょっと!レイミアさん、そんな軽蔑した様な目で僕を見ないで!いや、感じ取らないで!僕そんな事全く思ってないから!


「サトウ様のご配慮に石田殿は感極まって言葉も無いようです。良いお仕事を成されましたね。」


鈴木さんのはフォローでも何でもないからね!


「ねぇねぇレイミアー。はーれむってなにー?美味しいやつー?」


「そうねぇ、ある意味美味しいやつよ。ねぇ?先生。」


レイミアさんはハピーちゃんに変な知識仕込まないで!


僕ちゃんも食べたーいと騒ぐハピーちゃん、我もその味には興味あるわーとはしゃぐ魔王佐藤さん両名を制すように、給仕さんが夕食を運んできてくれた。助かった。が、どうやらこの誤解を解くのはまた後日となりそうだ。


夕食を食べながら僕達は明日の話をしていた。どうやら児童養護施設はもう3分の2程出来上がっているらしい。魔王佐藤さんの仕事が早くて僕はビックリだ。鈴木さんもどこか満足気だし、凄く良い物が出来てきているんだろう。


「後はちょちょっとトラップでも仕掛けて、アクティブな空間にするだけだなー!」


魔王佐藤さんは夕食を頬張りながらどんな罠が良いか提案してきた。勿論、僕は却下した。そんなアクロバティックで個性的な児童養護施設は求めていない。普通でいい。みんなが普通に平凡に学びながら成長していける空間がいい。


と、そんな感じで同僚(不安しか無いけれど)も決まり、明日には建物も完成。夕食は朝と違って美味しく頂ける食べ物。順風満帆、準備万端だ。


後は明日に備え、早寝早起きするだけだろう。

そうだな、ハピーちゃんがお皿の上で蠢くワーム達と戦っているのは見なかった事にする。

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