第12話 少しのお勉強

そうしていくつか他愛のない話をしていた僕達のお茶会は


「あら?魔王様が捕まったみたいね。」


と言ったレイミアさんの発言でお開きとなった。

まだまだ話し足りない気持ちもあったけれど、また会う機会はあるわ。と言うレイミアさんにお礼を言って、僕は資料図書室を後にした。


資料図書室を出て僕が思ったのは勿論。ここ何処だろう?だ。ここに辿り着いたのもウロウロしていた結果の産物だったので、帰り方が分からない。


「おぉ!良い所に石田!」


またも適当に廊下を歩いていた僕は、聞き覚えのある声に振り向いた。魔王佐藤さんだ。

それも鈴木さんに後ろ手で腕を縛られながら連れられている魔王佐藤さん。何してるんだこの人は。


「ちょっとさー、石田も言ってやってくんない?我、魔王なのにこの扱い。酷くない?」

「いや、これは佐藤さんが悪いですね。」

「石田殿、冷静な判断に痛み入ります。」


鈴木さんは顔色一つ変えずそう言うと、僕が持っていた本に目をやった。


「資料図書室に行っておられたのですか?」

「あ、はい。この世界の事を色々と学ぼうかなって思って。」


迷子になった結果、偶然辿り着いたなんて事は秘密だ。


「サトウ様。異世界から来た石田殿がこんなにも勤勉に尽くしていると言うのに…。」


嘆かわしく大きく溜息を吐く鈴木さん。


「あー出た出た、鈴木の小言。お前は姑か。なんだ我は義理の嫁か?なら言おう!よそはよそ!うちはうち!」


どこで覚えたんだその台詞。と言いたくなるような駄魔王発言に拍車が掛かった所で鈴木さんが後ろ手に縛っている腕を強く掴んだのか、痛い!痛い!と魔王佐藤さんが叫んでいた。


「我は魔王なのにっ!」

「はい。存じております。」

「じゃあ扱いも存じて!」


そんな光景に少し気が緩みつつ僕等は三人で会議室へと向かった。





ここは軍事会議室とはまた別の会議室らしく、まぁ軍事会議室に行った事ない僕にはその違いは分からないんだけれど。一様は雑談しながら話せる様にとローソファーに低めのテーブルが置いてある部屋だった。交渉をしたり情報交換するのに適した部屋だ。


「それで、石田殿。ジドウヨウゴシセツに関してはどうでしょうか?」


脇に立った鈴木さんが話を切り出す。僕は建物や施設をメモした紙をテーブルに置き、軽く説明を入れつつ話す。案の定、魔王佐藤さんは余り聞いていなかったけれど。鈴木さんはとても興味深そうに、たまに僕に質問を加えながら聞いてくれた。


「つまりは子供達の家となる事も重要なのですね。」


鈴木さんは顎に手をやりながら、ふんふんと頷く。魔王佐藤さんは……何やら手の中で小さな建物を創造している。凄いな、これが魔法ってやつか。そんな創造した建物を手を打つ事で崩すと


「よーし、久しぶりに腕がなるな!」


と立ち上がった。いやいや魔王佐藤さん、話聞いてなかったのに?建てれる?ちゃんと建てれるの?


「では早速、建物の建設に参りましょう。善は急げ。こういう事は早いに越したことはないのですから。」


鈴木さんもその後に続きそんな事を言う。まぁ言っている事は正しい。子供達の為にも早急に行動するのが望ましいだろう。鈴木さんもいるし、きっと大丈夫だ。まかり間違っても朝の紫スープみたいな訳の分からないものが出来るって事は無さそうだ。


「僕は明日からの出勤って事でいいんですか?」


社会人として、この質問は重要だ。


「うーーーん、そうだな。明日から!あ、でもとりあえず夕食には顔を出せ。いい話がある。」


魔王佐藤さんはニヤニヤと悪巧みを思いついたみたいな子供みたいな顔で笑いながら言う。何だその悪代官みたいな台詞は。と思わなくも無かったけれど、ここは仮にも魔王様、上司が夕食に誘ってくれているのだから断る理由は無い。あるとすれば夕食のメニューに関してだけだろう。


「夕食の準備が整いましたら、私がお部屋までお迎えに上がりますので。」と鈴木さんが言ってくれたので、僕は児童養護施設の創設資料を魔王佐藤さんに手渡し、自室へ戻った。



戻った僕は、まず資料図書室でレイミアさんに借りてきた"魔物大全集"に目を通しておく事にした。人間の作ったそれなのであんまり信用するのもどうかとは思うが、一様色々な子供達、魔物達に会う前の事前知識は必要だろう。


ページを捲ると、挿絵と共にその魔物の名称や特徴、ある程度の性格や特性なんかが分かりやすく説明されていた。知っている所で言うと、ドラゴン。小さな竜や子供の竜はドラゴネットと言うらしい。

その種類は様々で、鱗のような爬虫類に似た身体。鋭い爪と牙を具え、しばしば口や鼻から炎や毒の息を吐くらしい。怖過ぎる。


そしてミノタウロスやケンタウロス、サイクロプス、ゴーレム、ゴブリン、ワーウルフ、ウロボロス、サンダーバード、キマイラ、グリフォン、ケルベロス、オーガ、ユミル、ハーピーエルフ、グレムリン、デュラハン、ドワーフ、ボガート、エキドナ、ゴルゴーン、テュポン、あ、レイミアさんも載っている。


いやだから怖過ぎる。読めば読むほどおどろおどろしい。人間目線で書いているのだから当たり前なのだけれど、どれもこれも結果を纏めると人を殺す。

魔王佐藤さんや鈴木さん、デュラハンさんやレイミアさんを知っている僕としては信じ難いけれど、彼等だってどこがで人間を殺めている事に変わりはない。逆も然りなのでそこは気にしないけれど。


「やっていけるかなぁ。」


僕はついつい弱音がこぼれる。普通の子供達ならいざ知れず、魔物の子供達となると不安が込み上げてくる。それに、異世界とは言え人間である僕を受け入れてくれるかも分からない。言ってしまえば僕は、彼等や彼女達の親の仇なのだから。

はい今日から先生です。と言って素直に生活していけるのだろうか…。あ、レイミアさんが言ってた先生ってもしかして保育士の?


「やっぱりあの人、侮れないな。」


そうして一抹の不安は拭えないまま夕食の時間となった。

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