第7話 名付け親

この場合のとは使命でも指名でも無く、きっと氏名だろう。そりゃそうだ。魔王さんはもう使命を持っているし、かと言って指名を取るような職業でも無い。


うん。大丈夫だ。

とは思ったものの、簡単だとは思っていない。天下の魔王さんに名前を付けるのが初仕事とは…。中々荷が重い。


と言うか、魔王さんには名前があると思っていた。何か横文字の格好良さげなやつ。この前のRPGに出て来た魔王にもちゃんと名前はあったし。かと言って、それをそのまま提供するのも如何なものかと思う。


ましてや魔王さんは"ニホンの氏名"と言った。なら僕のように、石田とか。単純に田中、とかが良いのだろう。無難なものがいいな。

それに僕が名前をつけると言う事は、今後もしかしたら魔王さんをその名前で呼ぶ事になるかもしれない。

それなら覚えやすい名前である方がいいに決まってる。


「佐藤さん、とかどうですか?」

「サトウサン?」

「はい。日本で一番の名前ですし。」


そうだ。日本で一番多いとされる名前なら無難だし、忘れようがない。見た目からは佐藤さん感なんて1ミリも無いけれど!


「ニホンで一番強い者が持つ名前か…。」


何か誤解も生んでいる様だけれど!


「よし、側近!今日から我のことはサトウサン様と呼べ!」

「いえっ、あの、"さん"は敬称で"様"と同じような意味です!」


僕は魔王さんが変な異名になる事を阻止しつつ、今までの当たり前が当たり前に通じない世界に来たのだとのだと実感した。


「だ、そうだから…サトウ様だな。」

「分かりました、サトウ様。」


魔王さんが佐藤さんになってしまった。一気に緊張感と言うか緊迫感が消えたな。名前って凄い。


「ははは!ニホンで一番強い!サトウ!」


魔王さん、いや佐藤さんが嬉しそうなので良しとしよう。これで僕も多少は呼びやすくなった。


「よし!側近もなんかつけてもらえ!」

「え、私もですか?」

「そうだなー、側近は我の二番手でもあるからな。ニホンで二番目に強い名前が良いな!」

「じゃあ鈴木さんで。」


一瞬で決まった。楽だった。


「スズキ……。」


側近さん、改め鈴木さんは考え込む様に下を向いた。もしかして気に入らなかったのだろうか?それなら別に他の名前でも良いのだけれど。


「ニホンで二番目に強いスズキ。」


あ、気に入ってるみたい。


「いやはや流石だなー、石田!なぁ、スズキ!」

「そうですね、サトウ様。」


何だかかなり日本的な空間になった。いや、佐藤と鈴木だなんてもはや日本そのものだ。こんな異世界の魔界で日本を味わえるとは、何とも感動的。そして覚えやすい。


「あ!デュラハンどーする?」


魔王佐藤さんは側近の鈴木さんに打診した。


「そうですね。彼にも名前を頂いている方が良いかと。」

「だなー。あいつ割とこーゆう事で拗ねたりするタイプだし。頑固で真面目だから一回拗ねると長いしなー。」


なんだそのデュラハン。面白い。


「んじゃ!頼むよ、石田。」

「ちなみにデュラハンは三番手です。」

「高橋で。」


即答だった。

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