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登山では、小さな怪我でも命にかかわる。ましてや機動力を失う脚の怪我であれば、なおさらだ。どうにか誤魔化そうと、スポーツドリンクの入った水筒を取り出して飲むふりをする。登って来たのは女性の登山客、すれ違いざまに「こんにちわ!」と元気よく挨拶され、痛みを我慢しながらなつめも挨拶を返す。登山のマナーとして、すれ違った登山客には挨拶をする、というものがある。それはただの挨拶ではなく、顔を覚えてもらうためのものでもある、と父親が話していた。覚えてもらっていれば、何かあった時、例えば遭難した時に役に立つからだそうだ。最初は苦手だったが、逆に知らない人だからこそ気軽に挨拶ができるというもの。何かあった時にはよろしくお願いします、と思いながら女性を見送る。
とにもかくにも、まずは手当をしなければならない。かといって、隠れて手当てするにも登山道の途中、身を隠すような場所は見当たらない。少し下ればさっきの休憩所があるが、もし他の登山客が休憩していたら、と考えるとこの場で手当てするか、少し上まで登りながら隠れられそうな場所を探すか、この二択に絞られる。そして、ここで手当てをすれば、さっきのように登山客とすれ違う可能性は普通にある。残った選択肢は一つ、少し上まで登ってみよう、と靴紐を固く結び直し、痛みを最小限に抑えようと、左足をメインにひょこひょこと登って行く。誰かとすれ違う時は立ち止まって、道を譲ることでカモフラージュできるはず。大丈夫、と自分に言い聞かせて登って行く。
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