自分の意見を言うことが恐かった、というのは小学校の頃から変わっていない。意見があったとしても、基本的に周りに合わせてきた。自分が何を発しようと、物事はきちんと動き、進み、解決するもの。自分が前に出ることで、変な空気になるのが極端に恐かったのだ。トラウマがあるわけではない、もはや自分の性格だった。おかげで、今のなつめは疲労困憊、志望校だった大学に入学できたというのに、キャンパスライフは息苦しくて仕方ない。

 入学してしばらくは新しい環境ということもあって緊張しながらも新しい友人関係に胸をときめかせていた。しかし、しばらくして、悪い癖が出始めた。好きでもないカラオケ、雑音だらけで頭が痛くなるようなゲームセンター、よく知りもしない男性との合コン、話を合わせなければならないと興味のないジャンルに手を伸ばし、必死に周囲とのズレを極力出さないようにしてきた。小中高まで何とか耐えることができたが、遊ぶ幅が広がったことや『大人に近付いた』という高揚が蔓延し始めるこの時期は、『周囲に合わせる人間』にとって苦しみ悶えるしかない、苦痛の時期だった。限界は――あと少しのところまで迫って来ていた。

 今日はその息抜き、そのつもりで登山をしに山を目指したはずだった。だが、今日のなつめの調子は最悪な状態、気分の悪さが抜けきれないでいる。



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