第14話小さな町とノアと

「ああ、そうか・・・。金が要るな・・・。」


俺は丸一日両親の腕と、ミアの手を自宅のテーブルの上に置いて、その近くに座り泣いて過ごした。

・・・何でこんな事になってしまったのかを、俺はもっと色々で出来たんじゃないかと、何故こんなにも力がないのかと、そればかりを考えて・・・。


すでに昨日俺は街の魔物たちを全部殺して回った。

と言ってもすでに魔物の大半はどこかに消えてしまっていた後だったが。


俺は自分が許せず何度も死のうと思ったが、俺にはそんな勇気すらなかった。

自分で自分が嫌になってくる。

誰も守れず、最後まで戦うこともできず、一人で生き残ってしまった・・・。


一つ気がかりなのが伯爵からもらった書類だ。

そこには「スタンピート計画、企画者国王」と書かれた書類の他、数人の貴族のサインもあった事。

そしてそのスタンピートのターゲットが「ノア」になっていた事・・・。

つまり書類によればノア一人を殺すためにこの「スタンピート計画」は行われたという事になる・・・。


ノアは一体にをしたんだ・・・?


兎に角俺はそれを確かめるために、このくそったれな国に復讐するために旅に出ることにした。

しかし旅には金が要る。

そしてこの街も、伯爵邸もこのまま放置して置けば盗賊が現れ住みつき金品を奪っていくだろう。

・・・この街は誰の手にも触れさせたくない。


俺は両親とミアを裏庭に埋め街を、家々を歩き回り、金品を探し回り魔法の袋にしまっていく。

本来はこんなことしたくないが、申し訳ないが金がなくては旅はできないし、真実にたどり着くことはできない。

俺はある程度回った後城壁に上り魔力を放つ。


「・・・「ファイヤートルネード」・・・。」


炎の竜巻は街を飲みこみ街を破壊していく。

俺は2,3度それを繰り返すと街はほとんど崩壊し、燃えていった。

そして街の中心に行くと、土魔法で大きな墓を作った。


「勇敢で親愛なる「アニ」の街の住人、ここに眠る・・・。」


墓標にはそう書き、村長の家から拝借した住民票を頼りに一人一人の名前を刻んでいった。

それが終わるころには日は傾き始めていて、俺は急いで伯爵邸に向かう。

俺は振り返らず、アニの街に、大好きだった家族のいた街に別れを告げて・・・。


伯爵邸でも同じように金品を拝借し、皆を庭に埋め墓標を作った。

伯爵が持っていた書類以外には特に怪しいものはなく、俺は伯爵邸に火をつけを後にする。


俺はとりあえず近くの町々で情報収集することにした・・・。


 すでに日は暮れ辺りは暗くなり始め,少し道から外れて木の上で休むことにした。この世界の木は地球より少し大きく、枝も太いため安定して休むことが出来た。

 念のため体をロープで木に括り付けながらだが。


 次の日目が覚めると木の上で寝てる事を理解するまで時間がかる。昨日の事が実は夢で、これから父さんと訓練をして騒ぎすぎて母さんに怒られて、ミアと4人で食卓を囲んで幸せな日常が始まるはずだったのに……。

 涙を拭いて木から降り、次の街を目指す。


「グルルルル……」


 道中魔物によく絡まれた。まぁ魔物は人を食らうものだから仕方ないが。ゆっくりと剣を抜きワーウルフ2体と対峙する。


「殺せるもんなら殺してみろよ……」


 二匹は同時にこちらに飛び掛かってきたが俺はできるだけ姿勢を低くしたまま重心を崩さないように剣を縦に一閃する。

 振り返ると華麗に着地した一匹と目が合い、もう一匹は見事に真っ二つに分かれた。


 ぽつぽつと雨が降ってきて旅様の黒いローブのフードを被る。雨はだんだんひどくなってくるが俺とワーウルフは一瞬たちとも視線を逸らさない。お互いに経験からその瞬間死が待っていることをわかっているからだ。


 雷で空が光った瞬間お互いが走り出しそして交差する。


「悪いな。俺はまだ死ねないんだ」


 そう言い残し剣をしまうとワーウルフは倒れた。


 そう言えば昨日の朝食からご飯を食べていないことに気づく。二匹のワーウルフを魔法の袋に入れ大きな木の下で雨宿りをしながら焚火をし、捌いたワーウルフを焼く。調味料などは家から持ってきているので問題はないが、調理は前世でもしたことがなかった。昔本で読んだくらいだ。


 魔物の捌き方は一応父さんに教わったからできるのだが……まぁ大丈夫だろう。あまり食欲はなかったが腹が減り体が重くなってきているのを感じているので無理やり肉に噛り付く。


「まぁまぁかな。」


 塩コショウだけのシンプルな味付けだがまぁ悪くない。


 この世界の食材は基本美味い。理由としては魔力が関係しているらしい。魔力は旨味でもあり強い魔物程うまいという話だ。仲でもドラゴンは最高級とされ王族などが祝いの席で食べるようなものらしい。


 又魔物が人間を狙うのも同様の理由だ。

 人間の持つ魔力は綺麗で魔物にとっては極上の食べのもになるらしい。全く迷惑な話だ。


 しばらく雨宿りをしていたが雨は止みそうにないのでフードを深くかぶり街道を進む。この先には確か小さな町があるという話だ。まだ残っていればだが。


 4時間ほど西に歩くと小さな町が見えてきた。どうやらこの町は被害には合わなかったらしい。どうしてアニの街だけ、という気持ちが込み上げてくるが歯を食いしばり我慢して町に入る。


 町はアニの街とは違い城壁や門がなくちょっとした集落のような家々の集まりの様な感じだった。雨の中外に人影はなく変に思われることなく宿屋を見つけることが出来た。


 中に入ると強烈な酒の匂いがしてくる。どうやら宿屋の一階は酒場になっているようだ。


「いらっしゃい……。お嬢ちゃん一人かい?」


 俺はフードを被ったままだが長く白い髪を見て判断したのか女と間違えられた。まぁいい。「一泊いくら?」とだけ聞いてお金を払う。恰幅のいいおかみさんは少し俺の事を怪しんだがそのまま特に何も聞いてこずに部屋まで案内される。何も聞かれないのはありがたかった。


「部屋はここね。お湯が必要なときは言ってね。一回銅貨一枚だ。あと食事は一回分は宿代に入っているから下で好きな物を注文しな。何か質問はあるかい?」


 普段から言いなれた口調でおかみさんはスラスラ説明し、俺は黙って首を横に振る。


「……そうかい。まぁ何か困ったことがあればいいな。……それと何か仕事が欲しかったらいいな。あんまりいい給料は渡せないけど死なないくらいの食事や寝床代くらいは稼がしてやるから。あんまり一人で抱え込むんじゃないよ?」


 そう言い残すと部屋から出ていった。


 恐らく子供一人でこんな大雨の中で旅をしてきたことに何かを感じたのだろう。冷静に考えれば確かに普通じゃないな。盗賊にでも両親を殺されたとでも勘違いしたのだろう。だがおかみさんの声は暖かく本当に心配してくれている様だった。きっといい人なのだろう。


 ローブを脱ぎ干して魔法の袋から桶を取り出し、「混合魔法」お湯を作り出し桶に貯める。この世界では風呂は貴族か富豪しか持っておらず平民はこうやって桶にお湯を溜めて体をふくのが一般的だ。


 「クリーン」の魔法もあるがやはりしっかりお湯で洗った方がさっぱりするし、前世の習慣でやはり体は洗いたいという気持ちがある。服を全て脱ぎ捨て体を洗い、そのあと服も洗って干しておく。


 魔法の袋の中には服や調味料食器、お金、武器屋からもらった武器などが沢山入っている。因みに魔法の袋以外にももう一つ袋を腰にぶら下げそちらにお金は多少入れている。いちいち魔法の袋から取り出していたらトラブルになりかねないからだ。


 着替え終わった後、一階に行き酒臭い匂いを我慢しながら空いてる手前のカウンター席に座る。もちろん深くローブを被ったままだ。絡まれたくないので。


 いかついオジサンに料理を注文して待っている間酒飲みたちの話を盗み聞きする。その中からとても興味深い話が聞こえた。


「……しっかし逃げてきて正解だったよな。本当に」

「ああ、あのまま戦ってたら俺たちは死んでたね。見たか?あの一面埋め尽くすような魔物をよ」

「ああ、見た見た。今頃アニの街は……」

「ああ、残念だが。あのスタンピートは規模が違う。以上だった。いくらアニの奴らでも……」


「ヘイ!お待ち!!」


 突然目の前にドンと料理を置かれてハッと前を見ると厳ついおじさんはこちらを睨んで料理を荒々しくカウンターに置いた所だった。

 

 気づけば俺は腰にあった剣を握っていた。恐らく無意識に逃げた奴らに対して殺意が芽生えていたのだろう。それを見たオジサンは店内で争いごとをするな、と言う意味で睨んでいる気がする。俺は剣から手を離し料理を食べ始めるとオジサンは頷き店の裏に消えていった。


 だが俺は食事が終わった後もそこに居座り男たちの話に耳を傾け続けた。


「という事はさ。あの噂は本当だったってことか?」

「あの噂?ああ、教会のノアの話か?」

「ああ、あの「国家転覆」を考えてたってやつは」

「馬鹿野郎。大きな声で言うもんじゃねぇよ。それにノアについては昔から嫌な噂ばかりだったからな。」

「そうだよな。……ああ?なんだこのガキ」


 気づけば俺は男たちの傍まで来ていた。


「ねぇ。今の話何?協会のノアがなんだって?」


 できるだけ冷静に落ち着いた声で、だけど自分でも声が震えているのがわかるがそれでも聞かずにはいられなかった。


 あのノアが「国家転覆」?一体何の話だ?」


「なんだガキ。すっこんでろ」

「まぁそう言うなや。どうせ暇なんだろこの子も。それにこんな小さな町じゃ子供も噂を聞いて楽しむしか娯楽がないんだろ」

「チッ……。まぁそれは確かにそうだな。いいかガキ。アニの街は知ってるか?そうか。そこの教会にはこの国の元神官長の「ノア」って男がいたんだがな。そいつがこの国を潰そうとしているって噂が流れてたんだ。昔からな。隣の帝国と手を組んでよ。……って聞いてるか?おい!!チッ。だからガキは嫌いなんだ」


 俺は黙って部屋まで戻りベッドに倒れこむ。ノアが「国家転覆」?そしてあの国王の「スタンピート計画」対象はノア。これがどう繋がるんだ?国がノアを殺すために、止めるためにスタンピートを起こした?


 いや、そもそもノアは本当に「国家転覆」を考えていたんだろうか。いや、そんなわけない。俺は5歳の頃からノアとはよくあっていたが怪しいところはなかった、はずだ。


 何かの勘違いだろう……。


 そうだ、勘違いだ。あの男たちは相当酔っていた。誰かと間違えているんだろう。

 

 だが俺の頭の中に男達の会話が頭から離れず何度もループしている。もう聞きたくないのに……。その日は雨は止むことはなく、俺は中々寝付くことが出来なかった。


 

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