第13話過去編ミアと仲間たち

「お兄ちゃん!あーそーぼー!!」


 俺が8歳の時ミアは4歳。


 言葉もしっかり話せるようになり、最近では母さんの真似をしてよく歌を歌っている。その歌声は天使のように綺麗で家族皆聞きほれていた。


「……ごめんねミア、今日は教会に行ってノアのお手伝いをする日なんだ」

「えーー!!今日も教会行っちゃうの!?お仕事とミアどっちが大事なの?」


 お前は一体どこでそう言う言葉を覚えてくるんだい?ミアは将来男を困らせるプロになりそうでお兄ちゃん心配だよ……。


「あら、じゃあチャールズに連れて行ってもらったらどうかしら?ミアももう4歳だしチャールズが一緒なら安心だしね」

「母さん、家は5歳になるまで家から出たらダメなんじゃなかった?」

「あら?そんな決まりはないわよ?ただチャールズの時は一人目の子供で不安だったからそうしてただけ」


 あ、そうだったんだ……。

 まぁ母さんがいいというなら連れていくか。ミアはすでにその気でお気に入りのクマさんのぬいぐるみを抱え飛び跳ねて喜んでいる。母さんを真似して伸ばしている赤い髪の毛がピョンピョン跳ねて本当に可愛らしい。


 俺はミアの手を繋いで教会までゆっくり歩いていった。


「お?なんじゃチャールズ。美人さんを連れておるの。その年でもう女を連れ歩くなんてお主も隅に置けんんお」

「び、美人さんなんて……。えへへ~。お兄ちゃんミア美人さんだって!!」

「良かったね。それとノア。この子は俺の妹のミアだよ。今日初めて家の敷地から出たんだ」

「おお!!そうか確かにリリーにそっくりじゃ。将来は本当に美人な女性になるの。儂が言うんだから間違いない」

「やった~!!」


 ミアは人見知りだがノアは優しく接してくれるのでミアはノアに懐き色々家の事を話しだした。年の功だろうな、ノアは子供と接するのが上手い。しっかりと相手の目を見て相手を子ども扱いせずに話を聞いている。そのためミアも話しやすく色々語ってしまっているのだろう。

 

 今日は珍しく暇な日で、たまに常連の老人たちが集まり俺たちに腰痛を直してもらったり世間話をして時間を過ごした。

 ミアはそんな光景が珍しいのか俺たちの話に入ってきたり、老人の腰痛を聞いて一生懸命腰のマッサージなどをしてあげて俺たちに協力してくれた。


 老人たちはそんなミアの光景を微笑ましく見守り最後に「ありがとう、ミアちゃんのおかげですっかり良くなったよ。」と伝えると、ミアは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んだ。


 それからミアは俺がノアの所に行くとたまに着いてきては手伝いをしてくれている。老人たちも天使のように可愛いミアと話せるのが嬉しいのかだんだん人数が増え次第にミアと話すためだけに教会に足を運ぶ者さえ現れた。


「……それでね!!ミアはお兄ちゃんと結婚するんだ!!」

「あらあら、ミアちゃんはお兄ちゃんが好きなのね。」

「うん!!お兄ちゃんは凄いんだよ!!皆が怪我して困ってる所を魔法でブァーって直しちゃうの!!ミアもマネしてムムムってやるんだけど中々できなくて・・・。」


 今日も老人たちと仲良くしゃべっていると、その噂を嗅ぎつけた街の子供達も何人か集まりミアの所に訪れた。


「ふん!!ばっかじゃねーの??兄弟で結婚なんか出来ねーんだよ?」


 ガキ大将のような体の大きい男の子を筆頭に4人の子供がミアの話に突っかかってくる。


「何よ!!ミアはお兄ちゃんと結婚するの!!」

「だから出来ねーんだって!そんなに結婚したかったら俺様がもらってやるよ!!」

「や!!ミア貴方のこと知らないし嫌い!!」


 どうやら男の子はミアを気に入ったようだが振られてしまったようだ。男の子はショックを受けたようで肩を落とす。子供は嘘がつけないから時に残酷な事を平気で言うよね。


「う、煩い!!お前は黙って俺様に着いてくればいいんだよ!!」

「や、離して!!」

「おいおい。うちの妹に何してんだよ。嫌がってんだろ。離せよ。」


 俺が相手相手の手を振り払いミアを助けるとガキ大将「何だよお前!邪魔すんじゃねぇ!!俺が先にこいつを見つけたんだ!!欲しいなら俺様に決闘で勝ってみろ!!」と決闘を申し込んできた。


 俺は困りノアや老人たちを見ると「あらあら、若いわねぇ」と言うだけで誰も止めてはくれなかった。この世界の老人たちは意外と血の気が多いらしい。ノアに至っては「今日はここまででいい。負けるんじゃないぞ?」と煽ってくる。……誰も止めないのね。


「……いいか!?相手が気絶するか参ったって言ったら終わりだ!!せいぜい妹の前で恥か金いように頑張れよお兄ちゃん!!」

「ああ、頑張ってみるよ。」


 何が悲しくて精神年齢20歳過ぎの俺が10歳くらいの子供と喧嘩しなくちゃいけないんだ。まぁ今俺は8歳の体だけど……。


「お兄ちゃん……。大丈夫?ごめんね、ミアのせいで。」

「大丈夫だよ。お兄ちゃんは負けないし大事なミアを手放すわけないじゃないか。お兄ちゃんが強いのはミアが一番よく知ってるだろ?」


 俺はミアの頭を撫でて慰めると、ミアは安心したように笑顔になり俺たちから少し離れる。


 協会裏の広場には俺とガキ大将の他にそれを観戦しに来た子供達や老人たちで溢れかえっていた。そして誰も止める気がないらしい。流石血の気の多い冒険者の街だ。


 結果から言って僕の圧勝だった。

 「身体強化魔法」も碌に使えないガキ大将は俺の動きについていけず一方的に殴られていた。だが彼はそれでもあきらめず中々手ごわく感じた。そんなにミアが好きだったのかな?


「……お、俺様の負けだ。お、お前強いな。名前はなんていうんだ?」

「……チャールズだよ。」

「そうか、チャールズ。俺の名前は「ナジル」だ。……これから俺たちのリーダーはお前に譲るよチャールズ。」


 いや、なんか話がおかしくなっているぞ?そんな話だったか?


「よ、よろしくお願いします新リーダー!!」

「フ、フン!!貴方を新しいリーダーに認めてあげるわ!!」

「強いなぁ君。よろしくねぇリーダー。」


 よく分からないうちに俺はリーダーになりました。周りのみんなも子供達の新たな友情?に拍手喝采だった。


「なぁナジル。いつも何して遊んでるんだ?」

「俺達は最強の冒険者になって世界に名を馳せるんだ!!だからその修行をしてるんだぜ!!だから魔法を教えてくれチャールズ!!家の父ちゃん全然魔法使えなくってよ!!」

「お兄ちゃんミアも魔法使いたい!!」


 数日後俺はミアを連れてナジル達と遊ぶことになった。

 彼らをはSSSランクの冒険者を目指している様ですでにギルドに登録済み、日々クエストをこなしているらしい。と言っても12歳以下は皆例外なくFランクから始まりある程度認められないとEランクにはなれない。


 つまり何が言いたいかと言うと日々の訓練とは街の掃除や手伝いがほとんどだった。俺達もそんなクエストに参加し、。日々楽しく過ごしていった。俺にとってもミアにとっても初めての同世代の友達だからとても嬉しく偶に冒険者ごっこをなどもして遊んでいた。


 そんなある日、俺はいつのものがようにノアの手伝いをしてミアをナジル達に預けて仕事をしていると教会に怪我をしたナジルが走りこんできた。


「!?ナジルどうした!?」

「……すまねぇ。ミアが攫われた。」

「何だって!?」


 この世界では盗賊や人攫いが当たり前のように存在している。この街は比較的安全な街だが、それでも少数のそう言った者達が存在していることは父さんから以前聞いたことがあった。

 俺達は教会から飛び出てナジルの話を聞きながら急いで現場に向かう。


「……つまり変な奴に絡まれて文句を言ったらミアが攫われたと?」

「ああ、あいつら返してほしかったら金を持って来いって、俺はどうしたらいいかわからなくて、家そんなに裕福じゃないから金はないだろうし……。」


 街のはずれの広場着くと他のチーム三人はぐったりして倒れていた。急いで治療をし5人で相手の指定した街はずれの小屋を目指す。衛兵に言いたがったが大人を連れてくるのと言う脅迫を受けていたそうで、もし連れて行ったらミアを危険にさらすことになる。そんなリスクは背負えない。


 街はずれの小さな空き家にたどり着くと家の外にチンピラが待っていて中に案内される。


「……よぉ。ちゃんと大人は連れてこないで来たな。そこは褒めてやる。さぁ、金を出せよ。」

「その前にミアを離してくれないか?」

「ああ?お前達がお願いできる立場だと思ってんのか?いいから金が先だ。」


 ナジル達は当然金は持っていない。俺は小さいころからクエストで稼いでいた金を魔法の袋から取り出し投げつける。


「……おい。それはもしかして魔法の袋か?ギャハハハハ!!俺達は運がいい!!そいつもよこせ!!」

「おい!!金は渡しただろ!!ミアを離せ!!」

「駄目だ。そいつが先だ。」


 金を渡した時に気づいたことがある。こいつらは俺たちを殺すつもりらしい。俺が金を渡した時に後ろでドアの横に立っている二人がナイフを取り出すのが横目で確認できた。このまま素直に渡しても殺されるだけだ。


 俺は横目でナジル達を見る。俺の意思に気づいたのかナジル達は小さくうなずいてくれる。短い付き合いだが彼らとは冒険者ごっこをして遊んでいる中だ。こういった危険な状況も推測して色々な対策を練ってある。


「……分かった。しっかり受け取れよ?」


 俺は魔法の袋を天井に着きそうなくらい高く投げ渡す。


 相手の男5人ともそれにつられ上を見た瞬間俺は「身体強化魔法」を使いミアを奪い取る。


「逃げるぞ!!」


 振り返るとすでにドアのそばにいる二人に対しナジル達が攻撃をし気絶させている最中だった。彼らに「身体強化魔法」を教えたかいがあったな。


 急いでドアから飛び出すとナジルが残りドアを閉める。


「おい!!ナジル何してる!!」

「お前たちは先に行け!!敵のボスも「身体強化魔法」を使う!!誰かが足止めしなきゃミアを逃がせられない!!」

「だったら俺が……!!」

「馬鹿野郎!!ミアにはお兄ちゃんが必要だろうが!!」

「……たく馬鹿がかっこつけやがって!!」


 俺たちは一度急いでその場を離れ、3人にミアを私俺は小屋に戻る。


 中に入ると血だらけのナジルが床に横たわり気絶した男4人と怒った敵のボスがナイフをナジルに振り下ろすところだった。


「……やめろ!!」


 俺は男に飛び掛かりナイフを持った手をけ飛ばそうとするが男は簡単にそれを躱す。


「ふん。死にに戻ってきたか。お前は魔法を多少使えるみたいだな。だが残念だ。俺は元B級冒険者様だぜ?お前みたいなガキに負けるわけねぇだろ。」

「……やってみなきゃわかんねぇだろ!!」


俺は近くに倒れていた男のナイフを奪い取ると男に向かって魔法を放ち駆け出す。俺にとって初めての命を懸けた真剣勝負だった。


「・・・がはっ!くっそ……」

「ギャハハハハ!!ガキのくせに強かったぜ?こいつはあのガキより高く売れるかもしれねぇな」


 俺は惨敗した。

 家の仲であり近くにナジルもいたためあまり大きな魔法は使えずにナイフで戦った事が敗因だろう。


「ったく、手間とらせやがって」


 男は仲間をけ飛ばすとそのまま俺を抱えてドアの方へ向かう。

 これならミアは狙われることはないだろう。俺は……まぁいいか。どうなるか不安だが可愛い妹が攫われるよりは……。


「ま、待てよ。まだ勝負は終わってねぇだろ」

「ああ?」


ドアに向かう男の足をナジルが掴み立ち上がろうとするが男にけ飛ばされ壁まで吹き飛び叩きつけられる。それでも彼は立ち上がりドアの前に立ちはだかる。


「お……い、ナジル。もういい……。お前じゃこいつに、勝てない。にげ、ろ」

「ギャハハハハ!そうだぜこのガキの言う通りだ。お前じゃ俺様に勝てねぇよ!!」

「か、勝てるかどうかは問題じゃねぇよ!!仲間を置いて逃げるなんてできねぇよ!!父ちゃんが言ってた!!男なら絶対仲間を見捨てるなって!!」

「……そうかい。だがその父ちゃんのせいでお前は死ぬんだ。あばよ」


 ナジルは意識もうろうとしながらドアの前から離れようとせず、男はナジルに向かってナイフを投げ飛ばす。

 俺はその瞬間が凄く長く感じた。ナイフが空中で止まっているんじゃないかと錯覚するくらいに。ナイフはだんだんナジルの胸を目掛け飛んでいく中でナジルと目が合う。彼はにっこりと笑っ後「後は頼んだ」とだけ口を動かし……突然開いたドアに吹き飛ばされ転がる。


「おい!!うちの可愛い娘を攫ったってくそ野郎はいるか!?」


 ドアから入ってきたのは父さんだった。ナジルは運よくドアに吹き飛ばされたためナイフには刺さらずに済み、ナイフは父さんが掴んでいた。


「ああ??ち、傭兵か、おい。邪魔するとこのガキを、……ああ?」

「ナイスだチャールズ!!よくもうちの可愛い子共を傷つけたなぁ!!」


 俺は男が父さんに気を取られている間に氷の小さなナイフを作り出し男の腕に刺し何とか転げ落ちる。


 そのあとは一瞬だった。


 男が腕の痛みを感じた瞬間には父さんが男を真っ二つに切り裂いていた。


 流石元A級冒険者の本気だ。全く動きが見えなかった……。


「な、ナジル……無事か??馬鹿野郎。なんで逃げなかった」

「へ、へへ……。父ちゃんが言ってたんだ。「惚れた女の為なら命を懸けて守り切れ」って」


 その後男は死亡。男の仲間たちは全員投獄された。


 俺たちは父さんに怒られ、同時に褒められさらに仲間の絆が深くなった気がする。

 

 まぁだからと言ってミアは渡す気にはならないけどな。まだね。



 9歳の誕生日の時、彼らは教会の裏で死体となって見つかった。

 

 恐らく最後まで街を、仲間を、家族を愛するものを助けるために戦ったのだろう。


 本当に気のいい奴らだった。


 俺にできた初めての仲間だった。


 彼らの来世が安全で素晴らしいものになりますように……。

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